44.幸せなのに
あれやこれやの細かい資料を手渡しに、休日にまた、ランベルスとリーゼが訪ねてきた。カミルも、
イルマだけが、いなかった。
あたしは特注品の、
今度は事前の連絡を受け取っていたから、まあ、ちゃんと準備していることの
当日は、ラングハイム公爵家の
結婚式ならともかく、たかが婚約のお
「爵位持ちの貴族が結婚する場合、他の爵位持ちから第二子、三子を迎えるのが暗黙の了解だ。そうやって恩を売り合い、派閥を広げたり、財産の
「クロイツェル侯爵家は金持ちで、武門名誉の家柄っすからね。ラングハイム公爵家とも
「それこそ
「ややこしいねえ。ま、ぶっちゃけ、結婚相手には優良な
ランベルスとカミルの講釈に、おずおずとリーゼが入り込む。
「それに、その……
「ごめん、リーゼ、言い方に気を
なるほど、順を追って説明されると、想像に
それを全員残念賞という、ある意味平等に決着させてしまったばあちゃんの、
つまるところ、あたし達の
婚約が遊びじゃ済まされないっての、あたしだけじゃなくて、ばあちゃんも同じだったんだな。
子供は子供なりに大変だけど、大人だって大変だ。
アルフレットはどうだか知らないけど。後でひどいからな、もう。
当のアルフレットは、今日もお仕事で外出してる。ランベルス達も、昼食前に帰った。
家の主人が不在なら、それが普通だ。
平気で泊まり込んだ、イルマやギルベルタ達がおかしいんだよ。あの時は、それで助かったけどさ。
思考が、すぐに引っぱられる。
イルマは、ほとんど学校に来なくなった。
あたしは、それにちょっと不満で、ちょっと安心していた。
このまま
あたしだって忙しくて、手一杯で、そんな自分にもなんだか腹が立つ。
結局、目の前のことに集中するしか、できることがない。
あたしは部屋着に着替えて、自室に一人になって、渡された資料の中、招待客名簿と補足情報に目を走らせる。
情報量は
できる限り頭に入れて、相手が名乗った後、失礼のない会話を交わさなければならない。
特に、
ほんと、覚えてろよ。
アルフレットなら自分で、
だから。
顔を見せてよ、アルフレット。
資料を勉強机の上に置いて、
それでも、無意識に
********************
目を覚ました時、部屋は薄暗かった。夕方だ。
ちょっとだけ、汗の匂いがした。
「申し訳ありません。寝台の方が、疲れは取れるとわかっていたのですが……わがままに、つき合わせてしまいました」
少し見上げると、銀髪の、優しい笑顔があった。
まどろみの時間、やることとやることの
「お仕事、お疲れさま……。ごめんなさい。やっぱり、心配……かけちゃったかな……?」
「こちらの
「もっと感謝して。それから、いたわって。甘やかして」
アルフレットが口づけをしてくれた。
それで全部、済まそうとしたな。済んでるけど。
唇と、舌も少し、触れ合った。
目を開けて、笑って見せる。大丈夫、ちゃんと笑えた。
「今日は、帰ってきて良かったの?」
「ええ。あまり大きな動きはなく、少々、
珍しく、アルフレットが言い
「先ほど、ラングハイム公爵家で
「そう……」
「伯爵のお人柄は、存じています。イルメラ嬢があなたの顔を見れば、
アルフレットの、あたしを抱く手に、少し力が入った。
「ここから先は、まったくの推測です。今回、流出した情報そのものに価値はなく、流出経路の構築が主目的と思われます。ですが、ことが発覚した以上、国外への持ち出しなど困難を極めます。軍の厳しい監視が、現在、もっとも届きにくいところ……それは、外交官の私物です」
「え……?」
「
「そんな、まさか……?」
「最悪の仮定です。ですが万に一つでも、伯爵が利用されるような事態は、防がなければなりません。これはあなたにとっても、重要な問題となる可能性がありましたので、あえて話しました」
……。
ありがとう、アルフレット。
アルフレットはいつだって、あたしを見てくれている。
子供になりたい時はたくさん甘えさせてくれて、必要だと判断すれば、こうして大人みたいに接してくれる。
急に、目の前が
子供とか大人とか、どっちでも良いんだ。
いつでも、いつまでも、どっちもあたしの中にある。それだけのことなんだ。
「あたしにできること、なにかあるかな? アルフレット」
「いずれ必ず、情報がそろいます。その時、一緒に決断してください。二人で向き合うことです、私のユーディット」
ちょっとだけ、
アルフレットはその気になれば、全部一人で決められる。一人で解決できる。ずっとそうしてきたんだろうし、それで最適の結果を出せたんだ。
でも今は、あたしに半分、
信頼してくれる。一緒だって、二人だって言ってくれる。
ありがとう、あたしのアルフレット。
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