36.思いっきり飛び降りた
あたしを
身体の大きさと重さが違うんだ、同じようにいくもんか。
遠慮なく、顔に
部屋から逃げる方法はなくても、
上を押さえた時点で、地の利はあたしのものだ。
ついでに、また手近な
「な、なにしてるっ? やめろっ!」
中央講堂は
安全問題の恐れがあれば、開幕どころじゃない。時間だって、使いようで味方にできる。
「くそっ! おい、あっちに回れ!
最上級生達が、一人二人、散らばって動く。
上から見れば良くわかる。半分以上が、明らかにうろたえていた。
あたしが
しかも、加害の証拠を残さずに。
そんなことは不可能だ。
頭の回る奴から、気がつき始めている。こいつらは、もう集団でさえない。
大きめの机を
「てめえ……っ! もう許さねえ!
「甘えるなっ! 殺す気でこい! あたしはとっくに、そのつもりだっ!」
暴力は強い。
人の心も身体も簡単に傷つくし、痛いのは怖い。特に女なんて、直接抵抗する手段は、ほとんどない。
それでも、問題を解決する手段として、暴力は必ずしも有効じゃない。
あたしがここで、どんな目に合わされたとしても、こいつらが抱えた問題は大きくなるだけで、決して解決しない。
もう
すでに、あたしは勝っていて、こいつらは負けている。後はただ、あたしが、どれだけ被害を抑えられるかだ。
さっきから下品にわめいている奴にぶつけてやろうと、また
体当たりでもしたのだろう、そのまま、手近な一人を弾き飛ばす。
「女に、暴力を振るっているな……!」
言葉が終わるより先に、当たるを幸い、他の奴をぶん殴る。
「だからこれは、暴力に含まれないっ!」
いや、どう見ても暴力だけど、まあいいか。あたしが
暴れ回るランベルスに続いて、
「この
どこから持ってきたのやら、モニカさんが腰だめに棒を構えて、また一人、目にも止まらず突き入れる。
先っちょが背中から飛び出すかと思ったよ。今の動き、
「ユーちゃんの
「ユ、ユーディットさまの
「先生の
イルマとリーゼが果汁飲料の
ええと、まだ死んでないよ。
それにしても、どうなってんだ。さすがに早すぎる。
みんなを呆然と
「アルフレットまで……どうして……?」
「こつがあるんですよ」
「お互い、よくお世話になったからねえ」
ああ、うん。
この部屋、昔から、ろくでもないことに使われていたのか。聞かなくても良かったな。
苦笑するあたしを見て、アルフレットが、両腕を広げてくれた。
大丈夫かな。
少しためらったような気もしたけれど、多分、思いっきり飛び降りた。受け止めてくれて、抱き合った。いつもの、アルフレットの匂いがした。
安心したら力が抜けたよ。ずり落ちそうになって、慌てて首にすがりつく。かっこ悪いなあ。
もらしかけた息が、止まった。
うわ。
ぞくっとした。
怖い。
考えるより早く、なけなしの全力でしがみついた。
「だ、駄目だよ! アルフレット、大人でしょっ? 軍の人でしょっ?
声をふりしぼる。悲鳴だった。
「あたし、大丈夫だから! なんともなってないから! こんな奴らのせいで、アルフレットがどうにかなっちゃうなんて、あたし嫌だよっ!」
涙が出た。
手がふるえた。
少しの間、なんの音も聞こえなかった。
しんと静まりかえった空気の中で、ゆっくりと、大きな
「本当に……かないませんね。他でもない、あなたの頼みです。聞き入れましょう」
アルフレットの声は、いつもと変わらない、穏やかな声だった。
良かった。今度こそ、身体中の全部の力が抜けたよ。
「命拾いをしましたね」
あれ? 本当に静かだったんだ。
アルフレットの笑い混じりの一言に、
ランベルス達までが、大きな息を吐いていた。
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