33.仕方なくうなずいた
みんな
十日前から、校内のあちこちに置かれていた立て看板が、広場の
中央講堂の外壁も、
開場はまだだけど、
室内は見事に生けられた花々で、整然と飾られている。
正面の
天井には、大きなくす玉が吊り下げられていた。
ランベルスが
花びらと紙ふぶき、
あたしも含めて、実行委員は、
白、赤、金はフェルネラント
それでもなんだか、みんなで同じ格好をして、こうして一所懸命になっていると、誇らしい気分が
あたしもいつの間にか、実行委員の他の人と、普通に話していた。招待状書きも、最後はみんなで手伝ってくれたし、こういうのも悪くないな。
「ユーディット! ちょっと来い!」
舞台袖から、ランベルスの声が聞こえた。見ると、モニカさんも並んでいる。後ろに、イルマとリーゼ、カミルもいた。
「なによ。今から、変な仕事を増やす気じゃないでしょうね?」
望んでいたことだけど、
「ユーちゃん、素敵……っ! きょ、今日はこのまま、お持ち帰りするー! 良いよね? 侯爵さまとも、もうやっちゃってるよねっ?」
「やってないよっ! ちょっと、声の
「け、計画実行ですね、イルマさま! ことに
「
イルマは
黙って立ってれば良いのに。口を開くと、ぼろが出るぞ。
「
「あんたもそれ、今言うなよ」
ランベルスが
「ユーディット、急な話で悪いが、おまえが言った通りだ。仕事を一つ頼みたい」
「はいはい。今日までは、あんたの手下なんだから、できることはやるわよ。どうしろっての?」
「開幕の
モニカさんの言葉に、あたしは一瞬、返事が遅れた。
「え……?」
「難しい話じゃない。俺が
いや、その。
正直、頭がついていかなかった。思わず助けを求める視線を泳がせると、モニカさんと目が合った。
「年長者を、あんまり甘く見ないことね。あなたの働きに気がついていたのは、私だけじゃないわ」
「ユーディット。おまえは俺を差別主義者と言うが、差別とは、行動を正しく評価しないことだ。男女や立場による、あって
ランベルスが、相変わらずえらそうに、ふんぞり返る。
「おまえは、
ええと。困ったな。
こういう時って、どんな顔をしたら良いんだろう。
イルマもリーゼも、カミルもびっくりしてる。そりゃ、するよ。突然なんだよ、もう。
あたしは呆然としたまま、仕方なくうなずいた。仕方なくだよ。
開幕じゃ、さすがにまだ、アルフレットは来てないよね。それが、ちょっとだけ残念だった。
**************
外が少しづつ暗くなり、楽団が楽器の調整を始めて、生徒達が講堂の広間に入り始めた。
実行委員が先導し、飲み物、料理を思い思いに手にして、
あたしは舞台袖で、
こんなに大勢の前で話すなんて、初めてだ。本当に簡単な、
問題なのは口の方だ。ちゃんと言えるかな。
名誉な
でもね。緊張はするんだよ。
どきどきするんだよ、もう。
一人隠れて深呼吸していると、軽く肩を叩かれた。変な声が出て、飛び上がるかと思ったよ。
「あ、驚かせてすんませんっす。
「カ、カミル? どうしたのよ、こんなところで。女の子に声とか、かけてなくって良いの?」
「それは後から、しっかりやりますよ。ランベルスから、休憩用の
「今から? 慌ただしいわね、まったく」
カミルが笑って、肩をすくめた。
この状況でなにもしないでいると、確かに、緊張するばっかりだな。
「大した力仕事はできないけど、良いわ。どこから持ってくるの?」
「資料保管室っす。助かります」
中央講堂からなら、本館も別館も距離は変わらない。なるほど、本館の
「それじゃあ、さっさと済ませちゃいましょ。あ、だからって本気で走ったら、ただじゃおかないわよ」
「心得てます!
「
講堂を出ると、
カミルと二人、別館三階の
「そっちは開かないって、モニカさん言ってたよ」
「これは秘密なんですけど、こつがあるんすよ」
カミルが、
「後で、教えてあげても良いっすよ」
「あきれた。まさか、さぼり部屋にしてないでしょうね? 先に知ってたら、実行委員なんてしないで、ここで本でも読んでたわ」
「それは、さぼりじゃないんすか?」
「
中に入ると、窓側に積み上がった机と
うん?
「ちょっと。また開けるの、面倒なんじゃ……」
「やれやれ、これでなんとか、計画通りに戻ったか」
「ランベルスの野郎、余計な手間を増やしやがって。あせったぜ」
手前側の扉の方から、声がかぶさった。
先客がいる。十人くらい、ちらほらと顔に見覚えがある。実行委員にいた、最上級生の男子達だ。
「すいません、
カミルが、細長い手足と背中を
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