32.そんなにおかしくないはずよ
週明け初日の昼休み、あたし、イルマ、ランベルス、リーゼ、ついでにカミルで、いつものように食後の
イルマとリーゼが用意してくれる
あたしは寝不足の目をこすりながら、ランベルスに、勉強用とは別の
「
ランベルスが驚いた顔で、
「やることは三つよ。まず、作業班を男女別で今より少人数の、できれば同級で分けて。あたしは知らない人ばっかりだから、細かい調整はお願いね」
即席の学生集団に、高い
「それから、会議室の余計な机を共用廊下に並べて、できた物も途中の物も、ついでに資材も全部、その時の作業に使う分以外はそっちに置いて。作業場を班ごとに区分して、道具の共用もできるだけ
「最後は二番目に
持ち出し、運び込みの手間が増える分、少しでも
一通り確認して、ランベルスが顔を上げた。
「
「駄目よ。あんたが、あんたの計画として説明するの。あたしの名前は、絶対に出さないで」
人を動かすのは、人だ。理屈でも正論でもない。
人を主導するには、ふさわしい顔と実績というものがある。
「進行表を見ればわかる通り、だいぶ遅れているわ。でも、
「わかった。期待に
ランベルスは短く言うと、さっそく席を立って、教室に戻って行った。
頭に叩き込んで、今日の作業に間に合わせるつもりだろう。決断と即実行も、多分、男の当然の責務なんだろうな。
あたしは女だから、もう少し
**************
ランベルスが進行表を説明した直後は、仕方がないけれど、質問と文句の嵐だった。
現状からすれば、かなり無理な計画に見える。それでも、続けて対策案を提示したことで、なんとか議論に持ち込めた。
代案なんて、すぐに出せるはずもないのだから、こうなればこっちのもんだ。
あたしは、まあ、それどころじゃなかった。
招待状書きが終わらないんだよ。書いても書いても、減った気がしない。泣きそう。
毎日ひたすら、机にしがみついて書き続けるあたしを尻目に、効果は意外なほど早く現れた。
班を少人数に分けたことで、飾り物であれ立て看板であれ、一人一人が自分の作品と認識するようになった。
同時に、進行表に細かく計画されたことで、作品を仕上げる責任を他人任せにすることがなくなった。
そしてそれらを共用廊下に展示することで、作品を客観的に観る機会が生まれた。
他の生徒達も、舞踏会に向けて気分が
当然、製作者の耳にも入り、
これら一連の作業、人の動きが、会議室を開放したことで明確な光景になった。
声をかけ合い、
中には、軽食の差し入れや、自作の飾り物を提供してくれる生徒もいた。
アルフレットは、なにをしても他人より抜群にできる。
だからこそ、個人の限界をよく知っていた。集団が組織として
個々の能力の
優秀な個人に
アルフレットが教えてくれたことを、ランベルスは体感した。いつか本当に人の上に立った時、きっと役立ててくれるだろう。
気がつけば進行表に追いついて、ランベルスもモニカさんも、他人の手直しに追われることがなくなった。
もう大丈夫。遅れているのは、あたしの招待状書きくらいのものだ。
相変わらず、一人無言で作業するあたしの横に、モニカさんが机を持ってきた。
「手伝うわ」
「あ、ありがとうございます……っ! 正直、もう駄目かと……」
「あなたは、すごいのね」
泣き言への返事としては奇妙なことを、モニカさんが言った。
「あなたは、人の動きを良く見ていた。ランベルス君が進行表を説明した時も、あなただけは、質問も文句も言わなかった。去年の記録からは、作業の全体像を
「いや、その……ええと……」
あたしとは比べものにならない早さと正確さで、招待状の文面を書きながら、モニカさんが
「私の家は
まいったな。
若いばあちゃん、なんて思っていただけに、こんなにまっすぐ感謝されると照れくさくて仕方なかった。
あわあわと返答に
「
またうわさか。どんな内容が耳に入っているのやら、せっかく仲良くなれそうなのに、こうなったら逐一訂正してやるぞ。
「あの、
「そう……それなら、彼とは……」
「え?」
なんだか、急にはっきりしなくなった物言いに、思わず顔を見た。モニカさんの
「お疲れさまー。がんばってるユーちゃんに、お菓子をたくさん持ってきてあげたよー」
「ユーディットさま、すぐにお茶をお入れします。お兄さまも、他の皆さまも、一息お入れになって下さいね」
「手伝いにきたっすよ、
騒々しい声が割って入って、イルマ、リーゼ、カミルが、他にも何人か連れて現れた。
今や、はっきりとランベルスを中心に、人が
反面、最上級生の男子など見ない顔も多くなったが、こればっかりは感情の問題で仕方なかった。
むしろ、余計な邪魔をせずにいなくなってくれただけ、ありがたかった。
「モニカさんも一緒にどうですか? リーゼのお茶とお菓子、
今、なにか言いかけていたみたいだけど、なんだろう。休憩しながら、いろいろお話できると嬉しいんだけどな。
「そうね。いただくわ」
返事をしたモニカさんは、すごく優しい笑顔だった。美人はいいな。
あたしはのんきなことを考えながら、仕事に
モニカさんの顔が、また元のようにきりっとしたのが、横目で見えた。
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