31.実行委員のお仕事は
実際問題として、あたしは変なうわさの
「作業班はあらかた決まっている。どこかに編入しよう」
「やめてよ。適当に雑用を探して、おとなしくしてるわ」
ランベルスの
貴族さまや金持ちぞろいで、
うん。
我ながら、
あたしはなんの
実行委員のお仕事は、事前準備と、当日の運営の
料理や
お金は卒業生や、在校生の貴族家から、充分な
それはそれとして、臨時照明に使う大小色とりどりの
「去年の資料とか、使い回しできる物とか、ないの?」
「終了後、記念として、すべて希望者に
ランベルスが心底、不思議なものを見る目をした。貧乏人の発想で悪かったな、こんにゃろう。
「事務作業の記録なら、資料保管室にある。
「それは、まあ、後で良いわ」
改めて見て、実行委員は、初級生から最上級生まで、男女混合でごちゃごちゃしていた。級友や、課外活動での知り合い同士、固まっているようだ。
あたしの知り合いはランベルスしかいないけど、つき
去年も実行委員をやっていたらしいが、なるほど、イルマも言っていた通り、周囲に自然と人が集まり、
目立つからな。
それに、まあ、いい加減わかっている。ランベルスがえらそうに見えるのは、他人を見下しているとか、家柄を鼻にかけているとかじゃない。
男子たるものかくあるべし、と、自分に課すものが大きいからだ。他人には害がない。イルマの正反対なんだな。
最上級生の男子もいるが、全体の
あたしは他の生徒の邪魔をしないように、極力、目にもつかないように、道具を整理したり片づけたり、掃除をしたりした。
こういうこと、自分でしている奴が少ないんだろう。貧乏貴族の生活は、普通の人と変わらない。気にし始めると、あちこちに仕事があった。
いいぞ。このまま、夜の小人か妖精のようになってやる。
「ユーディット! こっちを手伝え!」
ランベルスが、会議室中に響く大声を張り上げた。なにしてくれてんだよ。全員、あたしを見てるじゃないの。
どうせ伝わらないだろうが、かなり本気の
ランベルスの隣に、背の高い、申し訳ないけどきつい感じの美人が立っていた。
アルフレットより少し暗い、
「ランベルス君。私がやる、と言ったのよ」
「単純に数をこなすような仕事は、下級生に
「私のことを言えた
「お互い、認識を改めましょう」
ランベルスが、あたしを
おまえな。もうちょっと、ましな雰囲気で呼べよ。
「招待状を書く仕事だ。去年の作例が、資料保管室にある。一緒に行って、ついでに事務作業の記録も持ち出すといい」
「わかったけど……ええと……」
「モニカ=ヒューゲルデンよ」
なんだかランベルスをにらむように見て、さっさと会議室を出て行ってしまう。慌てて追いかけた。
小走りになるあたしを引き連れて、堂々と歩く姿が、少しばあちゃんに似てる。
うん。この人も、困った人なんだな。
ばあちゃんに似てて、
「あの……ヒュー、ゲルデン、さん……っ」
「モニカで結構よ。おどおどされるのは、嫌いなの」
だったら、そんなにつんけんしなければ良いのに。歩くのも早いよ。
「モ、モニカさん……資料保管室って……」
「
くじけないぞ。
最近、少しは運動もしている。資料保管室に着いた時、なんとか座り込まないで済む程度には、体力が
すごいぞ、あたし。
「向こうの扉は、壊れていて開かないわ。資料を戻す時、忘れないことね」
呼吸が荒くて、声も出ない。返事の代わりに、親指を立てて見せた。おどおどするなって言ったのは、そっちだからな。
本館から来ると手前側の、扉の鍵を開け、中に入る。資料保管とは名ばかりの、まるで
別館三階の
窓側には天井近くまで古い机や
廊下側の壁に並んだ、こっちは常識的な大きさの
「事務作業の記録なんて、どうするのかしら?」
そう言いながら、モニカさんが一冊の
すごい
「私が去年、書いた物よ。他の仕事も多くて、満足な
ぴしゃりと言って、用は済んだとばかりに、モニカさんがすぐ部屋を出る。もたもたしていたら、閉じ込められそうだ。
あたしは一言も返せないまま、虫のような格好で部屋を転がり出た。
なんだか昔の、しんどい記憶がよみがえる。
会議室に戻ってからは、正直、時間の感覚があまりなかった。
招待状は、作例を真似するだけで一苦労だった。名簿から
気がつくと外も暗くなっていて、会議室に残っているのは、あたしとランベルス、モニカさんの三人だけだった。
ランベルスもモニカさんも、他の人の仕事の確認と、でき上がった飾り物の手直しみたいなことをやっている。大変そうだ。
少しして、ランベルスが背中を伸ばした。
「そろそろ終わりにしましょう。今年もまた、持ち帰りを考える必要がありそうですね」
「仕方がないわ。他人に無理な期待ばかりも、していられないもの」
「なに? 持ち帰りって」
「去年は準備が間に合わなかった。最後の十日ほどは、俺と彼女がお互い、屋敷で夜通し作業したんだ。今年はおまえも巻き込むから、そのつもりでいろ」
そりゃあ、向こうは年上のお嬢さんで、こっちは親戚の小娘だけどさ。
こんなにきっちり態度を変えるって、どうなんだ? あたしにも
口を
「無理な期待はしないと言ったわ。それでは、また明日。ごきげんよう」
立ち去る背中もびしっとしていて、
「モニカさんって、きつい人だね」
「彼女はとても努力家で、優秀だ。その分、他人に要求する水準も高くてな。去年は騒動が
「わかる気がするわ。ばあちゃんにそっくりよね」
「そんなことはない。隠れて涙しているところを、何度か見た。他の女と変わらん、男が守るべき存在だ」
出たな、差別主義者め。あんまり腹も立たなくなってきてるんだから、あたしも感化されたもんだ。
考えてみたら、舞踏会だって男女を
なんにせよ、あたしには直接、関係ないことだ。後はひたすら招待状を書いて、当日、一人ぼっちに理由をもらえれば良い。それだけだよ。
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