26.それでいいや
改めて見て、応接間がずいぶん広いのにも納得いった。
今、座っている
ジゼリエルが、いろんな相手を木刀で追い回すって、ギルベルタ言ってたもんな。あれ、自分のことは
ランベルスだけが、必死の
「あ、あの……だ、大丈夫なんでしょうか?」
「怪我させるような
「ジゼリエルちゃんのほっぺ、もちもちで、すべすべだったー。幸せー」
騒々しい大立ち回りを尻目に、女三人、
夕食、入るかな。なんだか予定と全然違っちゃったけど、これはこれで楽しいか。
「ねえ、リーゼ。いい加減わかってると思うけどさ、あたしなんて、ほら、地味なもんよ。婚約が騒ぎになってるのは、アルフレットの影響力だわ。どうせ目標にするんなら、ギルベルタなんかが良いんじゃないの?」
「え……?」
あたしの軽口に、リーゼが驚いた顔をする。
あれ? 変なこと、言ってないよな。
リーゼは、ちょっと厚くて可愛らしい
基本、
「私……お
少しして、リーゼがためらうように言った。
「小さい頃からずっと、お
最近まで耐えたんだから、充分すごい。突然変異のばあちゃんに、まともな人間がついていくのは、とんでもない
「勉強も、行儀作法や
「お
「嘘つけ。口、すべらせまくってくれたくせに」
あたし達の茶々に、リーゼが、今度は明るく
「だから、お師匠さまのうわさを聞いた時は、驚いたんです。一族でも、こんな自由な女の人がいるんだって……いても、良いんだって。なんだかとても、目の前が広くなった気がしたんです」
「実際、いなかったでしょ。そんな女」
「でもその時は、私を救ってくれたんです。それに、こうして一緒にいて、やっぱりすごいって感じます。叔父さまはもちろんですけれど、ギルベルタさまも、お
「そ、そうかな……」
「お師匠さまが
参ったな。そんな大層なもんでもないけど、まあ、同志だしな。
「わかったわよ。でも、妄想と思い込みは
「ユーちゃん、ひどーい。私のは、愛と欲望だよー」
「欲望混じりか。隠す気ないのかよ」
「切り離せないよー」
深いな。迷惑だけど。
相変わらず、がんがん打ち合う音が続いている中で、三人で笑い合った。
あたしも含めて、みんな少しずつ変だけど、友達だ。それでいいや。
さて、と。
いい加減、ランベルスを助けてやろうと腰を浮かしかけた時、応接間の扉が開いた。
扉の
「お帰り、ウルリッヒ。騒がしくてごめんね、お邪魔してるわ」
「お久しぶりですー、またお目にかかれて光栄ですー」
あたしとイルマの
なにを話したら良いか考えてるな。そしてあきらめたな。早いぞ。無理もないけど。
「おー、帰ったね! それじゃあ良い運動もしたことだし、夕飯にしようか」
「お父さま、お帰りなさい」
ギルベルタが
「災難だったわね。主義主張は、相手と状況を考えた方が良いわよ」
「に……認識、を……改め……よう……」
素直でよろしい。混じりっ気なしの
「な、なに? どうしたのよ?」
「ユ、ユーディットさま……っ! あの方が、その、うわさの……」
「うわさはもういいって。ウルリッヒよ。ギルベルタの旦那さんで、ジゼリエルのお父さん。本人が自慢してるわけじゃないけど、まあ、立派な体格でしょ」
「は、はい……腰が、抜けるかと……お、同じ人間なんでしょうか……?」
「あたしも最初、疑ったわ。もう怪獣よね、あんなの」
「ギルベルタさま、背は高いけど、あんなにすらっとされているのに……」
んん?
一瞬、
「は、入ったんですよねっ? あの人の! ギルベルタさま……っ! す、すごいです!」
「ぅおいっ! いきなり、なに言い出してんのよ、ちょっと!」
「だって、そうですよねっ? 娘さんがいるってことは、そういうことですよねっ?」
「そうかも知れないけど、
「す、すまん……すぐには、動けん」
「この役立たず! イルマ、手伝え! とにかくリーゼの口ふさいで、押さえて! 説教してやるわっ!」
年下、
「わ、私、実はすごく不安で……っ!
「どんな本だよっ!」
「あー、でも、私もちょっと気になってたー。ユーちゃんも本当は興味あるんでしょー? もうすぐ
「あたしのことは放っとけよっ! 人間として最低限の、
もみくちゃになっていると、扉の方でギルベルタが、不思議そうな顔をした。
「おーい、どうしたの? 夕飯にするよ」
「先生、一緒に行く」
ジゼリエルが、とことこ近づいてくる。
いや、まずい。食卓についたら手が出せない。
今この場で、こいつら、きっちり正気に戻して、
これも暴力か。だとしたら、こんな変人ばっかり寄ってくるあたしの人生、暴力抜きじゃ回らないぞ。
見苦しいだのなんだの、言ってられないぞ。まったく。
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