24.しょうがないじゃないの
週末、よく晴れた休日の朝、顔を洗って髪を整えた。
前に仕立ててもらったお気に入りの服に着替えて、朝食を食べた。食後に
そして部屋に戻って、子供用の教材を準備していると、扉が軽く叩かれた。
「ランベルス=ラングハイムだ!」
「リ、リーゼです! お師匠さま、おはようございます!」
「ユーちゃん、今日は早起きしてるー。残念ー」
アルフレットが、三人を連れて来ていた。
まあね。最悪の場合として、予想できなくはなかったよ。ずいぶん学習したよ、あたし。
「寝顔のほっぺた、いじりたかったのにー。ユーちゃんのいけずー」
「ジゼリエルからもらった木刀を、手の届くところに忍ばせてあるからね。その覚悟で来なさいよ」
我ながら、どんな
「本日は急な
「使いの方から聞いていますよ。もちろん構いませんが……ギルベルタなら、そこまで気を
「甘やかさないで、アルフレット。あたしの信用の問題なんだから」
全員で、あたしの部屋にずかずかと入り込む。アルフレットが指示して、小間使いの人が
無駄な仕事だよ、もう。みんな座って、運ばれてきた
「あ、あの、叔父さま……お久しぶりです。変わらず、その……素敵です」
「ありがとうございます。リーゼロッテも、少し見ない間に、見違えるほど
「今日は、
「可能な限り
「素直になれないユーちゃんも、可愛くて好きだよー」
打たれ強いな。リーゼも、イルマに弟子入りした方が、よっぽど目標に近づくぞ。こんなのが二人になったら悪夢だけど。
おい。
「あんたは、どうするつもりで来たのよ? はっきり言って、この上なく邪魔なんだけど」
「言われてみれば、考えていなかった。まあ、気にするな。適当に出て行く」
その適当を、今すぐにしろって言ってるんだけど、わからないのか。
わかるわけないか。男子だもんな。こいつといると、差別主義が
「おまえには感謝している。少し落ち着いて、話をしたいと思っていた」
「……なによ、気味が悪いわね」
「リーゼは、子供の頃から自己主張が少なくてな。お
へえ。妹のことは案外、ちゃんと見てるんだな。
「それにしても、まさか、こんな方向に開き直るとはな。おまえや、あのイルマもそうだが、女には女なりの強さがあるようだ。お
「いや、ばあちゃんは突然変異だと思うけど……でも、そうね。リーゼもけっこう、たくましいわ。女だって強くならなきゃ、この先、やってられないわよ」
「暴力は
「客観的には同意するわ。アルフレットの前でやりすぎないよう、せいぜい気をつけるわよ」
顔を見合わせて、苦笑する。こいつも同志か、
成長過程って、こういうものなのね。アルフレットが言っていたこと、素直にわかるよ。
「邪魔をして悪かった。話はそれだけだ、退散する」
「なにか、する当てあるの? 息一つ、物音一つさせないなら、いさせてやっても良いわよ」
「それは難しいな。紹介状と言っても、執事が準備した内容に署名するだけだろう。こんな機会は
「男はそういうの好きよね。暴力が見苦しいなんて、どの口が言うのかしら」
「武術は
こいつの当然はいくつあるんだろう。差別主義も大変だな。
「ちょっと
去り際、背中に声をかける。多分、笑ったようだった。
***************
イルマとリーゼは昼食をはさんで、大きくてふかふかで、乳製脂肪をたっぷり塗った焼き菓子をこしらえた。
みんなで食べた。甘くて、
泊まり込もうとするイルマを断固拒否して、追い出した。夕食、アルフレットと二人になって、やっと気が抜けたよ。
「そのうち慣れるのかも知れないけど、休日までこれだと、ちょっとこたえるわ……今思うと、アルフレットはずいぶん、あたしに気を
「お年寄りみたいですよ、ユーディット」
アルフレットが苦笑する。いやもう、ほんと、料理皿に顔を突っ込む勢いで疲れたわ。
「アルフレットは大丈夫だったの? ランベルスが、ずいぶん
「とても楽しかったですよ。素直で、飲み込みも早くて、少し本気で指導してあげたくなりましたね」
あっちもあっちで弟子入りなんてされたら、とんでもないな。
それなりに印象は変わったけど、アルフレットとの時間に割り込んでくるなら、悪い虫以外の何者でもないぞ。
ふと、
「ねえ、アルフレット。ウルリッヒの時とは反応が違うみたいだけど、ランベルスのことは気にならないの?」
「異性の友人も、
「そんな余裕ぶっちゃって。リーゼには言ってたじゃない。年齢が近いってのも、仲良くなる武器の一つだと思うよ?」
「なるほど……言われてみれば確かに、私にはない武器ですね。他でもない、あなたの言うことです。認識を改めましょう」
アルフレットが、優しく笑ってくれた。
「今となっては、あなたが、ただ幸せになるだけでは駄目です。私自身が幸せにすると、誓ったのですからね」
「またそんなこと、さらっと言うんだから……夕食中だよ。抱きついたり、口づけしたりできないじゃないの」
「済ませてからしましょう。なにも、一日一度と決めることはありませんよ」
ごめん、あたしが悪かったよ。降参だよ。
さすが元、女たらし。顔中が赤くなってるの、自分でもわかるよ。
それからの会話は、全然普通にできなかった。食後の果物を食べる手つきが、いつもより早くなっちゃったの、ばれたかな。
ばれてるんだろうな。しょうがないじゃないの、もう。
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