13.いつもより早く目が覚める
お客さんが
ノンナートンの家でも、それなりの親戚つき合いはあったから、
こんなに大きい屋敷だけど、そういう、わくわくする雰囲気はやっぱりあった。
窓から中庭を見ると、朝もやの中に、アルフレットとウルリッヒがいた。
昨日はけっこう遅くまで、二人してお酒を飲んでいたはずなのに、元気なもんだ。
夜食の時間、いつものように、アルフレットは一人であたしの部屋に来てくれた。
ウルリッヒを放っておいていいのか、と、口では聞いたけれど、やっぱり嬉しかった。
つい、甘えたくなって、
こればっかりは、本当の大人にならないと、つき合えないからなあ。
お客さんとか、誰かと一緒に飲む用なのかな。でも、昨日の昼食も、アルフレットは飲んでいなかったような気がする。
アルフレットなりの基準があるんだろうけど、そうなると、なんかウルリッヒが
あれ?
軽く嫉妬してる。今からこんなんじゃ、広い心どころじゃないぞ。困ったな。
「危ないですから、少し離れていて下さいね」
ちらりとも見ずに言う。動物か。わざわざ注意されなくても、肉体派同士のぶっそうな遊びになんて、入り込めないよ。
背が高くて堂々としてる、とは思っていたけれど、アルフレットの身体つきはそんな印象以上に立派なものだった。
きゅっと締まった感じの筋肉がきれいで、ちょっと照れる。
ウルリッヒはと言うと、もう、あたしと同じ
二人の動きは静かで、いつ始まったのかわからなかった。
あたしは武術の知識なんて、
ただ、すごいなって思いながら見ていた。速くて、流れるようで、木刀のぶつかり合う音が意外なほど高く響いていた。
手足の動きはほとんど見えなくて、仕方がないから、二人の顔だけを交互に見た。笑ってるわけじゃないけど、楽しそうだった。
「やってる、やってる。まあ、いい大人がむきになっちゃって、
「おはよう、ギルベルタ。ジゼリエルも」
「……ん」
おそろいの淡い黄色の
ジゼリエルはまだ半分と少しくらい寝ていた。
「
「そんな
「今時の軍隊は、戦車とか鉄砲ばっかりかと思ってた」
「なんでもやるよ。まあ、あの二人に言わせりゃ、趣味みたいなもんだろうけど」
ギルベルタの口ぶりに、もしかして、と思ったところで、ちょうど二人が動きを止めた。
肌に、うっすらと汗を浮かべている。いつの間にか朝もやも晴れて、
「申し訳ありません。起こしてしまいましたか」
「そう思うんなら、つき合いなよ。次、私ね」
ギルベルタが
替わりにジゼリエルが、落ちたら死ぬんじゃないかと心配になる高さで、ウルリッヒに抱きかかえられた。
「ちょ、ちょっと、ギルベルタ……」
「お母さまも結婚する前、軍にいたって言ってた」
ジゼリエルが目をこすりながら、ふん、と鼻息を出す。やっぱりそうか。娘にとっては自慢なんだな、きっと。
とは言っても、さすがにアルフレットが、あきれた顔をする。
「もう引退された身でしょう。無理はしないで下さいよ」
「その上から目線、誘ってるよね」
ギルベルタが、ほとんど
ギルベルタもすごかった。
いや、あたしにはすごいとしか言えないけど、ウルリッヒの時とは少し違って、二人とも動きそのものは小さく、
木刀がぶつかることもほとんどなしに、本当にぎりぎりで避け合う。人間って、こんなに速く動けるんだな。
「技術だったら負けないのに、女は結局、最後は筋力の差で打ち負けるって、お母さま、くやしそうに言ってた」
「それは仕方ないよ……あんまり見比べたことないけど、男の中でもアルフレットなら、かなり特別でしょ」
「ううん、お父さまに。おじさまだったら、真剣の殺し合いならやりようがあるって」
「負けず嫌いにもほどがあるよ」
思わず横を見上げる。こんな怪獣との筋力の差を、女は結局、で片づけられたら、たいていの男だって迷惑だろう。
ジゼリエルがまた、自慢そうに鼻息を吹いて、ウルリッヒの胸板をぺたぺたと叩く。
あ、ちょっとわかる。これほどの
「大丈夫。お父さま、怒らないから」
推定3歳にも
まあ、お言葉に甘えて、腹筋のあたりをちょいちょいと触らせてもらう。
おお、やっぱり固い。なんだこれ、どういう生き物なんだ。調子にのっていると、一際大きく木刀が打ち合う音に、からん、と
アルフレットが、木刀を落としていた。
アルフレットも、打ち込んだギルベルタ本人も、驚いた顔をしていた。あたしもジゼリエルも、ウルリッヒまで、ちょっと驚いた顔をした。
「おおっ? なに、すごいじゃない、私! アルフレートにまともに勝っちゃったよ!」
「……ギルベルタ、もう一本お願いします」
「嫌だよ! もう引退した身だからねー! このまま勝ち逃げよ、やったー! ジゼリエル、どうだ、お母さま強いぞ!」
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