12.おおむね楽しいな
昼食を待つ
ウルリッヒは単に無口で、ほとんど話してなかったけど、アルフレットがくだけた調子でいろいろ話しかけて、ギルベルタがたまに混ぜっ返したりしていた。
ジゼリエルも年齢にしては
昼食が済むと、ギルベルタが気を使って、あたし達を庭に連れ出してくれた。
それは良いんだけど、ギルベルタったら、昼食から果実酒をけっこう飲んでいたせいか、そのまま
イルマも豪快に寝ていたけど、別に、訪問先で昼寝するのが貴族の普通ってわけじゃないよな。
あたしの知り合いが、普通じゃないのばっかりってことか。
仕方がないので、部屋から本を持って来た。歴史の
子供用の本なんて持ってない。歴史は大体、戦争の繰り返しだけど、数学や科学の学術書よりはましだろう。
小さい頃の記憶を最大限に呼び覚まして、おだやかに
騎士道精神の華やかな昔、お隣のオルレア大陸から
その時、大勢の大人の騎士と一緒にフェルネラントを守ったと言われている、女の子達のお話が好きだった。
童話では不思議な術を使う魔女になっていたけれど、ジゼリエルがまた、当然のように木刀を抱えていたから、主人公を
魔法で動く大きな
ついでに、相棒の色っぽい魔女に、あたしの名前をあてた。
ジゼリエルも表情は表情なりに、目をきらきらさせて聞いてくれた。
盛り上げどころになると、ほっぺたを赤くさせて、木刀を構えた。さすがによたよたと頼りないところが、
いつの間にか、ギルベルタまで良い顔で聞いていた。めでたしめでたし、まで
「すごいすごい! おもしろかった! 今度は、私とウルリッヒにも出番ちょうだいよ」
「私、がんばって修行する」
「いや、その……恥ずかしいな」
「アルフレートも言ってたけど、本当に頭が良いんだね。ジゼリエルがこんなに
「そ、それほどでもないよ。ジゼリエルだって、普通におとなしくしてくれてるし」
「いやあ、いつもだったら、そろそろ木刀振り回して追いかけてるね」
そんな危険人物だったのか。じゃあ寝るなよ。放置するなよ。
「この前、家に誘っておいて、逆に来るのが先になっちゃったけど、これからも行ったり来たりで仲良くしてよ。片手間でいいから、ジゼリエルにいろいろ教えてあげて。ちゃんとお礼もするからさ」
「先生」
「な、なによ、もう。先生だなんて」
うん。推定3歳のおだてに乗せられるなんて、ちょろいな、あたし。
女性が学問で身を立てる、となったら当然、貴族相手の家庭教師が花形だ。
あんまり若いと勤務先で
これは願ってもない展開だ。アルフレットとの将来がどうであれ、手に職をつけて自立した女性というのは、理想と自尊心の問題だ。
まあ、まだまだ遊び相手の
「そろそろ部屋に戻らないと、身体が冷えますよ。
アルフレットとウルリッヒの男性陣が、なるほど、
こっちはこっちで、女性陣の同盟関係を目線で確認し合う。いいな、こういうの。
立ち上がって伸びをする。アルフレットのそばに行こうとしたら、ジゼリエルに、ためらいがちに
「ん? どうしたの?」
「お礼」
「お礼?」
「お話のお礼に、お父さまから聞いたこと、先生にも教えてあげる」
可愛いことを言うな。なにかな。
腰をかがめると、胸に木刀を突きつけられた。
「正面から胸を刺す時は、肋骨が邪魔だから、
「え……?」
「お腹を刺す時は、けっこう内臓が逃げるから、刺したまま半回転くらいねじると、ちゃんと致命傷になる」
「……」
「
「それは、つまり……あなたを殺してあたしも死ぬ、みたいな?」
「おじさま、もてるから」
英才教育が行き届いてるな。さすが
ギルベルタが、目だけが笑ってない笑顔をウルリッヒに向ける。ウルリッヒが表情を変えないまま、心の
アルフレットがウルリッヒを
本気で心配はしていないのか、そうなったら自分の器量不足を
多分、後者だな。ありがたく選択肢に入れておこう。
いろいろと、考えることが増えてきちゃったな。ままならないことも多いけど、世の中とか人生とか、おおむね楽しいな。
これからもがんばるよ。がんばりたいから、がんばるよ。
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