11.周りの人は大変だよ
よし、今度はうまくいった。
おかしな振動もなく、
まあ、手を入れたのは
やっぱり最初から大型の、それもかなりの年代物を改修するのは、無理があった。物事には順序が大切だよ、うん。
後は、これを組み込む車体の方だな。
だいぶ小型の、
この間、爆発騒ぎを起こしたばかりの離れの中を、腕組みして見渡した。
あちこちの
自慢じゃないが、乗れない。またがったことさえない。運動はからっきしなんだよな。
理屈はわかるんだよ。
ええと、直進する
現に、やってる人がたくさんいるんだし。
発動機の
それでも、せめて自転車に乗れるくらいの
観念して、自転車を庭にひっぱり出す。
座席から
まず、またがろうとした時点でひっくり返った。足が地面につかないんだから、当たり前だよ。
車体を、かなり斜めに倒して、
六回目に転がったところで、あきらめた。
あたしにしては、がんばったよ。両手足を地面に投げ出して、
身体のあちこちが痛い。さすが
3歳くらいの、小さな女の子だった。
瞳と同じ
人のことは言えないけれど、いろいろ損してる顔だな。
「なにをしているの」
いや、それはこっちの
「人生、困難の連続だよね。ほんと、ままならないよ、って、お
「自転車」
「なんであんなのが転ばずに走れるのかしら。不条理な現象よ」
前言なんて、いくらでも撤回してやる。あたしが乗れないんだから、あたしの世界では不条理なんだ。
「練習は、最初は繰り返すだけって、お父さま言ってた。繰り返して、必要なことを身体に気づかせるんだって」
「難しいこと言うね」
「身体が気づかないなら、才能がないからあきらめろって」
「厳しいこと言うね」
たかが自転車に、才能なんて関係あるのか。関係なければ、あたしが乗れない道理がないのか。言い返したら自己矛盾するな。
自転車は不条理だ、という命題は、推定3歳に論破された。苦笑して身体を起こす。
女の子は、
小さいながら、すらっとして姿勢も良いが、なぜか右手に自分の身長より長い木刀を引きずっていた。
「あなたも、それを練習しているの?」
「もっと上。修行」
胸を張って、ふん、と鼻息を吹く。これはこれで可愛いか。頭をなでようと、笑いながら手を伸ばしかけた時、
いや、周りは明るい。あたしが影に入ったんだ。見上げると、まっ黒い軍服の大男が立っていた。
危うく悲鳴が出るところだったよ。
こっちが立っても、多分、首の角度はほとんど変わらないだろう。
「お父さま」
女の子が、
良く見れば、短く刈り込んだ
「……」
大男が、無言であたしと娘を見比べる。
あ。
そしてどっちも、あんまり
「おーい。ちび、いたかー?」
聞き覚えのある声がした。
長い黒髪を結い上げて、今日はちゃんと
「ギルベルタ? あれ、来る予定なんて聞いてたっけ?」
「私も聞いていません。まったく、前もって使いくらい出していただかないと、
アルフレットも
「そんなの
相変わらず、ざっくりしてるな。
女の子が、ギルベルタに走り寄る。ギルベルタが、笑顔で抱き上げた。
そうしてると髪の色や、しゅっとした鼻や
大男とギルベルタは全然違うのに。
「そっちのでかいのが旦那のウルリッヒ、こっちのちびが娘のジゼリエルよ。よろしくね。今日はお
「
「定型文に文句言うなって。
からっと笑われると、
途中、
なんと言われても、料理長にしてみれば、
執事さんや小間使いの人達も、客間の準備やあちこちの飾りつけで、大忙しだ。
大貴族の友達つき合いは、
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