7.ちょっとだけ違う気もするけれど
よく晴れた休日の朝、食事の席で、アルフレットが嬉しそうに言った。
「ユーディット、今日は街に買い物に行きましょう。車を用意させますので、
「え……嫌だよ」
すごい顔になっていたんだと思う。アルフレットが笑いをこらえていた。
「あんたと並んで歩きたくないよ。さらし者になるじゃないの、あたし」
人の
場に合わせた上品な服を着て、優雅に微笑んでいれば、この色男が女の目を引かないわけがない。
その目はそのまま、隣の
あのな。小娘にだってわかるんだぞ、そういうの。
この屋敷にいるだけで、かしましい訪問客に見つかることも少なくないのに、自分から
「先日の一件で、
「あんた今、自分を全否定したよ」
「正確な
「無視か。
「考えてみれば、二人で外出するのは初めてですね。楽しみです」
うん。聞いてないな。聞いてても、聞く気がないな。
これこそ、まさに一方的な善意の押しつけじゃないか。嬉しくないし。
ちょっとだけ違う気もするけれど、いや、嬉しくないよ、多分。
ため息が出た。こういう時は、
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衣裳部屋に
淡い空色の無地で、ふくらんだ
こういう服は形や生地で、着る状況に
アルフレットも注意してこなかったから、まあ大丈夫だろう。
「可愛らしいですよ。自分が用意した服を着てもらえるのは、やっぱり嬉しいですね」
「だ、だから、もう充分だって言ったじゃない」
顔が熱い。
車を用意させる、と言っていたから運転手つきのかしこまった物かと思ったが、驚いたことにアルフレット本人が運転席に座った。
しかも
さらし者って騒ぎじゃないぞ、これ。
執事さんが座席の扉を開けてくれて、暖かい笑顔を向けてくる。今さら、逃げようがなかった。
ああ、もう。どうにでもなれ。
アルフレットが、手慣れた感じで車を走らせる。馬車より、少し速いくらいだ。怖がらないように、加減してくれてるんだろう。
アルフレットは薄灰色の上下で、黒い
だって、反対側を見てると、すれ違う人の
速度と振動に慣れてくると、今度はもう、好奇心が抑えられなくなった。
車の基本的な構造は本で読んで知っていたが、操作系統をこんな
あちこち
アルフレットも、一つ一つ
気がついたら、もう街だった。
服飾店の前に車を停めて、二人で同時に降りる。アルフレットが、少し驚いた顔をした。
「扉の開け閉め、もう覚えたのですか?」
「執事さんがやっているのを見たから。手順をさかのぼれば、仕組みもわかるよ」
「感心しました。学業も優秀ですが、とても
「甘やかすと調子に乗るぞ」
服飾店の中は、きれいな生地や見本の服が、たくさん飾られていた。
ちょっと悪いかな、と思ったけど、気に入った物を合わせて三着、買ってもらった。
上下が分かれた形で、色合いや
「そんな気の
「金持ち以外は、こういうことも楽しみにしてるのよ。ありがと、届くのが待ち遠しいわ」
仕立て終わるのは、次の休日だ。
着て見せたら、また喜んでくれるんだろうな。それであたしも嬉しくなるんだから、単純なもんだ。
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