5.なにかの危機だ
やわらかい手が、頭をなでている。
誰だろう。うたた寝の引力から、なかなか抜け出せない。
昨日は遅くまで勉強した。今日は休日だから、ゆっくり寝ていようと思ったのに。
あんにゃろうだったら無視するところだが、わからないんじゃ、そうもいかない。重いまぶたを
ふわふわの
「ユーちゃん、休日はお寝坊さんなんだねー。そういうところも、可愛くて好きー」
うん。ものすごい変な声が出た。
「イ、イ、イ、イルマっ? な、なんで……っ?」
「先週の内に、遊びに行くってお使い出しておいたよー。侯爵さまからも、お返事もらってるよー」
聞いてないぞ、あんにゃろう。イルマもイルマで、なんで本人には言わないんだよ。
いや、わかってる。まさに今みたいなことを、やりたかったんだろうさ。
どいつもこいつも人をおもちゃにして。
「と、とにかく着替えるから、一回出てってよ」
「女の子同士じゃない、気にしないでー。ほら、こうやってるからー」
人の
着替えると言っても、自前で大した服は持ってない。機械油の落ち切らない普段着じゃ、あんまりだ。
横目で見ると、さすがに侯爵家を訪問するとあって、イルマの服装は上品な
あんにゃろうの用意した上等の服が、衣裳部屋にあるにはあるが、この状況でめかし込むのもなんか違う。
困っていると、なにを受信したのか、あんにゃろう本人がわざわざ服を持って来た。
「気が
「ありがと……」
「本日は
「とんでもありません。これからもユーディットと、仲良くしてあげて下さいね」
おまえら、覚えてろ。
文句の一つも言ってやりたかったが、すぐに色とりどりのお菓子とお茶を乗せた軽食台が運ばれてきたので、乳性脂肪と一緒に飲み込んだ。
ああ、もう。甘い物でごまかされるのも、今だけだぞ。
「屋敷の中は、庭も含めて自由に歩いていただいて構いませんよ。私と夫人は応接間にいますので、なにかあったら遠慮なく声をかけて下さい」
「お
そうか、イステルシュタイン伯爵夫人もいらっしゃってるのか。
「ねえ、アルフレット……あたしも、
「今日は私があなたの紹介も済ませておきましたから、大丈夫ですよ。いずれどこかの
「お母さま、うわさ
ノンナートンの家は
あたし一人がどう言われても構わないけど、アルフレットまでまとめて笑い者にされるのは嫌だな。
アルフレットを扉まで見送って戻ると、イルマがにやにやと、しまらない薄笑いを浮かべていた。
「ユーちゃん、侯爵さまのこと、愛称で呼んでるんだー。良いねー、ほやほやだねー」
「う、うるさいな!
「
「……つまり?」
「早くやっちゃおうよー」
「やっぱりそこかよ」
まともに対応している、あたしが
自分のことで手一杯な子供に、他人が変えられるわけがない。自分が変わろう。
お茶とお菓子で、気持ちとお腹を落ち着かせると、イルマを無視して机に向かう。
昨日の続きだ。どうせいつもの休日も、学術書を読むか機械をいじるか、勉強しているかだ。
早く
第一、今日来るなんて知らなかったんだから、
集中していれば、時間も忘れられる。またお腹が
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