4.聞きたくないよ
級友達は、あたしを無視することしかできなかった。いじめることができなかった。
まともに相手をすれば、自分がみじめになるからだ。
あたしも同じだ。勉強さえしていれば、周囲を無視できた。見ないふりができた。
まともに相手をしないで、みじめにならなくて済んだ。
それが普通だよ。まだ、たかが小娘なんだよ。
婚約なんかさせられて、男の家に放り込まれて、男を取る気満々の美人の持ち物を何度も見せつけられていたら、みじめにくらいなるよ。
学校なら大丈夫だと思っていたのに、イルマはもう立派なもんだよ。
他の級友達だって、見ないふりをやめれば、よくわかりもしない愛だの恋だの語らってるよ。それが成長ってものなんだろうさ。
自分が持っていないものを持っている相手、追いつけない相手、とにかく全員に
こんなこと、情けなくって言えやしない。
***************
あたしは部屋に戻って、勉強した。逃げ込んでなにが悪い。
深夜まで集中して、ようやく情けないなりに気持ちが落ち着いてきたところへ、一番顔を見たくない、見せたくない奴が、お菓子を持って現れた。
こんな時間に糖分と乳性脂肪をとったら太るじゃないか。
いいとも、
甘い乳性脂肪を中に入れて、やわらかくふくらませた
ほおばりながら、どうしても不愉快な連想が止められなかった。
「ねえ。男って、やっぱり女の胸が好きなの?」
「好きですね」
「即答かよ」
「もちろん、大小の問題ではありません。その女性個人の美しさが宿っていれば良いのです」
「そんな
二個目をほおばる。甘い、くやしい、
頭の中も口の周りもぐちゃぐちゃにしていると、ひょい、と持ち上げられた。
「なによ。同情で手を出す気になったわけ?」
「そんな
そのまま二人一緒に、
抱きかかえられたあたしは、アルフレットの腕の中にすっぽりと
「あなたの
「……愛とか恋とか、その程度のもんなの……?」
「さあ。けれど、男性のたくましさもお金も、女性の胸もお尻も、触れ合うための武器であることは確かですね。なにも持っていなければ不安になる、誰も触れてくれないんじゃないかと怖くなる。他人の持っている武器が、
「……武門の人間は、
「あなたには私がいます。あなたが
「……」
「甘くて、あったかくて、一人じゃなくて……
こんちくしょう。
なんでも
あったかいよ。幸せだよ。
涙が止まらなかった。決めた。このまま眠ってやる。
そっちこそ、少し慌てろ。明日、目が覚めて一人だったら、さみしいのかな。このまま二人だったら、嬉しいのかな。
わからないよ。今は、わからなくても良いよ。
***************
学校は、やっぱりあたしの
最前列、真ん中の席に
生理現象以外はここを離れないと、強く心に決める。学問の世界は理路整然として、
「おはよー、ユーちゃん。今日も可愛いね、愛してるよー」
抱きつかれて、顔が半分、やわらかい胸にうずまった。
確実に距離をつめて来てるな。本気で危ないんじゃないか、あたし。
「イルマがどこに座ろうと勝手だけど、あたしの勉強の邪魔だけはしないで。昨日も言ったはずよ」
ぶっきらぼうな言葉に、イルマが、少し
そういう顔は男に向けてやれよ。あ、女が良いのか。あたし以外なら好きにしろよ。
「ユーちゃん、なんか良いことあった? もしかして、やっちゃった?」
「なにをだよっ? なんであれ、やってないよ!」
「えー、早くやってよー。やっぱり、初めては婚約者さんに
「嫌だよっ! 勝手な順番決めるなよ! そんな予定、当面ないよっ!」
「楽しみー。いろいろ、勉強しておくねー」
「時間の無駄だよ! 本来の勉強をしろよ!」
ちょうど入って来た教授が、また目を丸くする。
言われなくてもわかってる。
あたしの方が引きずられて、
昨日と同じように
なんだよ、もう。ここ学校だぞ。
愛だの恋だの、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます