第8話 初試合

秋になり三年生が引退し、テニス部も新たなる体制でスタートした。

私は蓮くんのことをしばらく忘れていた。


秋の新人戦。一、二年生だけが出場できる大会だ。

石高からは五人がエントリーすることができる。


試合に出場できる選手が新部長から発表される。

次々に呼ばれる名前はすべて二年生だった。

当然だろう。


最後のひとりの名前が告げられた時、私は耳を疑った。

「え?」

私は茫然と突っ立っていた。


「綾瀬さん?」

部長が怪訝な顔で呼びかける。


「は、はい?」

「聞いてた? あなたよ、最後の一人」

「えええっ!」

そう叫んだあとは声が出なくなった私を一年生のみんなが祝福してくれた。


すぐに蓮くんに伝えたかった。

蓮くんに私の初めての試合を見てもらおう。

でも、それで最後にするつもりだ。


蓮くんに久しぶりにラインを送った。

初めての試合、来て欲しいと。


でも、返事は来なかった。

やっぱり送らなきゃよかったと後悔した。


試合当日。私は異様な緊張感に襲われる。

何だろう、この緊張感は? 

試合って出るのと観るだけって、こんな気持ちが違うんだ。


こんな感覚は生まれて初めてだ。

不安と恐怖で身体が震えた。

試合を楽しめる人がいるって聞くけど、どういう神経してるんだろう?


スタンドに蓮くんを探す。

しかし姿は見つからなかった。

でもいるわけがなかった。

試合の相手は格上の二年生だった。

緊張でガチガチだった私は、気が付いたら相手に5ゲームを連取されていた。

もうダメだな。

そう諦めかけた時、蓮くんの言葉を思い出した。


『一生懸命にやれば結果なんて関係ないよ』


私は何をしてたんだろう。

その時、全身の力がスッと抜けた。


「とくかく思い切ってプレイしよう」

開き直った私はここから5ゲームを連取して5―5のイーブンまで持ち込んだ。

しかし十ゲームを超える試合は私の体力を奪いつくし、結局5―7で負けた。


試合後、私は泣いた。

でも、不思議に悲しくはなかった。


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