第4話 告白

その日の夜、決意した。


翌朝、私はは校舎の下駄箱の前で蓮くんを待ち伏せした。

心臓が爆発しそうなくらい大きく唸りだした。


校門から入ってきた蓮を見つける。

心臓がさらに締め付けられた。


「来た!」

俯きながら大きく深呼吸をしたあと、くっと顔を上げた。


「柊木くん、お、おはよ!」

「おう、おはよ綾瀬」


蓮くんは下駄箱から上履きを取り出す。

上履きをポンと床に落とすと脱いだ靴を下駄箱に入れた。

蓮くんに合わせるように同じ動きをする。

重苦しい緊張感の中、不自然な沈黙がしばらく続いた。


今だ! 言え!

心の中で叫ぶ。


「あの…柊木くん」

「ん?」


ここでもう一度これ以上ないくらいの大きな深呼吸をする。


「住所っ!」

「え?」

「住所…教えてくれない?」

「住所?」

「あの、引っ越し先の…」


蓮くんはびっくりした顔で私を見た。

「ごめん。私ケータイとか持ってなくて…でも、お手紙とか出したいんだけど…あ、もちろん、もし良ければだけど…」

そこで言葉が止まった。胸がいっぱいで声が出なくなったのだ。


蓮くんはふっと軽く笑うと、そのまま教室へ行ってしまった。

―え?

私、フラれたのかな?

でもそうだよね。

私なんかに手紙なんてもらっても迷惑だよね。

私はちょっと落ち込んだ。


六時限目の授業が終わった。

蓮くんともこれが最後になる。


放課後のホームルームで蓮くんは別れの挨拶をした。

涙が溢れそうになるのを必死に堪えた。


蓮くんに直接お別れの挨拶をしたかったが、私にはそんな度胸は持ち合わせてなかった。


気弱な自分を恨みながら茫然と座っていると、なんと蓮くんが私に近づいてきた。


―え? 何?


びっくりして固まった。

「あの…綾瀬も元気でな」

蓮くんはわざわざ私のところまで来てお別れの挨拶してくれた。


「う、うん…」

「あ…これ…」

蓮くんはそう言いながら私に小さなメモ紙を手渡した。


「え?」

二つ折りになったそのメモ紙をゆっくり開くと、そこにはラフな手書きで住所が書かれていた。


「あの…これ?」

「転居先の住所…」

「え? あ、ありがとう」


私、フラれたわけじゃなかった?

嬉しさと同時に驚きで胸がいっぱいになり、これ以上声が出なかった。


こら! 何か言え、優菜!

心では思いっきり叫ぶが声にならない。


しばらくお互い無言の時が流れた。


「あの…」

蓮くんが先に声を出した。

「な、何?」

これしか言えなかった。


「悪い、何でもない。二年半ありがとな」

「あ、うん…」


ダメだ。

言葉が出ない。


蓮くんは軽く手を挙げてそのまま教室を出て行った。

茫然と蓮くんの後ろ姿を見送った。


お別れの言葉を言うのを忘れた。

ああ、本当にバカだ。


こうして蓮くんは転校していった。


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