第2話 進学

進学指導の面談をしている時、ひょんなことから蓮くんの志望校を知った。

「やっぱり石高か…」

フッとため息をつく。


通称石高…石川高校は県内でもトップクラスの進学校だ。

今の私の成績で行ける高校じゃなかった。


私は学校の帰りにお気に入りのコミックを買うため書店に寄った。

ふと学習書のコーナーで入試対策用の石川高校過去問題集を見つけた。


「蓮くん、ここを受けるのか……」

何気なく手に取って中を開いた。

「うわあ、難し……」

心の中でとても無理だ、と叫んだその時だった。


「おう、綾瀬。お前も参考書を買いに来たのか?」

顔を上げた目の前に立っていたのは蓮だった。


「柊木くん?」

びっくりした優菜は思わず固まった。


「あれ? お前、石高受けるのか?」

「え?」

しまった!

私は持っていた石川高校の過去問題集を慌てて後ろに隠す。


「あ、ちっ、違うの…これ…」

「俺も受けるんだ、石高。仲間がいて嬉しいな」

「あっ、あの…」

私は言葉を失う。


まさか蓮くんが受ける学校だから見ていた、なんてこと言えるわけがない。


「あ、悪い。俺もう行かなきゃ。じゃあ、お互い頑張ろうな、石高」

「違うの! あっ、待って柊木くん…」

慌てて呼び止めようとする優菜をよそに蓮は足早に書店を出て行った。


どっ、どうしよう!

とんでもない勘違いされちゃった。

私の成績で石高なんて受験するだけでもおこがましいのに…。


「こんな成績で石高を受けるなんて正気?」

…とクラスメイトから嘲笑される姿が優菜の脳裏に浮かび、頭から血の気が引いた。

まずい、まずい!

私はその場で参考書と問題集を買い漁った。


その日から猛勉強の日々が始まる。

運動会以外で初めて頭にハチマキをして机に向かった。

恋の力というのは凄いものだ。

私の成績は順調に上がっていった。


月日は流れ、通学路に並ぶ街路樹のイチョウもすっかり紅く色づいた11月のとある日、私は自分の成績表を見ながら口元が緩んでいた。


『石川高校合格判定:C判定 合格率50%』

「やった。私、やればできるじゃん!」


春の摸試ではE判定(合格圏外)だったので、ここでのC判定ボーダーラインは驚異的な伸びだ。


もしかしたら、もう少し頑張れば蓮くんと同じ高校に行けるかもしれない……そう思った。


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