第18話 捜査開始

 小宇宙エリア、迎賓の星、トランプの館の地下。

 治療班に選ばれた者たちが働いている。

 食事に次はどういった割合で、何を入れるか、水槽の中身をどうするかを話し合っている者。

 大量の流れる水とポーション類を生産している者。

 壁に投影されている勇者パーティの状況を監視している者。

 他にも様々なことをしている者が動いている。


 スペードがそこに戻って来る。

 そのまま、部屋の奥で座りエディット紙を見ている者に近づいた。


「リリ様、ただいま戻らせていただきました」


 リリは声をかけられてスペードの方を見る。


「お疲れ様、水槽に入れた理由みんな聞かれてたけど見事だったよ、さすがだね」


 周りにいる4人にも聞こえるようにリリは言った。

 勇者パーティに治療目的だとばれてはいけないので、全員がうまくかわしたことをリリは褒めた。


 治療班での話し合いで、治されることに抵抗するように言われている可能性があるのではないかという話になったのだ。

 なので彼らには研究目的だと思わせるように、動くことに決めた。

 そして勇者パーティは全員、治療されることに抵抗する様子が見られたので、この予想は正しかった。


 そしてもう1つリリが言う。


「そして、全員すごい量食べるね」


 スペード、クラブ、ジョーカー、ハート、ダイアがうなずいた。

 驚きました、びっくりしましたと全員が驚いている。

 リリも驚きながら、でも大陽の葉みたいに固形の物を食べさせるには丁度いい感じだよねと続ける。

 皆、その通りですねと口にしている。

 服にダイアの柄が入った、エルフが言う。


「リリ様、食事と水槽で効率は変わりましたか?」


 リリは首を横に振る。


「残念ながら両方ともそんなに変りなかったよ。治るまでこのペースなら、結構日数はかかりそうだね。食事の方が効率が良かったら、彼らを水槽から外に出すこともできたのにね。1人1人だけど」


 自分で言っていることを聞いてそういえばとリリは思った。


「なんか全員水槽から外に出たいっていう意思が、あんまり感じられなかったね」


 確かに話しかけてくるような相手に捕まったと思ったら、自分達を外に出す気があるのかくらいは聞きそうですけど誰も言いませんでしたね、と光の精霊のクラブが言う。

 全員がそういったことを聞かれなかったことをリリに伝える。


 リリは思う。

 ゲームだと支配は動きを操ることができるスキルだった。

 でも、この様子だと話す言葉にもきっと影響が出ている。

 じゃあ皆、とリリが話し始める。


「今回、みんなが聞いてくれたことに対する彼らの返答は、ほとんど操られてるんだと思う。だから、今後も何ができて何ができないのかの確認をやっていこう。よろしくね」


 はっ、という5人の返事が返ってきた。




 アルバートとサラとピーちゃんは、冒険者ギルドに向かっている。

 研修で冒険者ギルドでは、その町や周辺の情報を知ることができるように、毎月情報誌を発行している、と習ったのでそれを買うつもりだ。

 3人で周りの人が話している話を聞きながら向かっているが、まだ勇者パーティがいなくなった話はされていないようだ。

 だが、町の人達が慌てているような雰囲気がある。

 なんでだろうとピーちゃん達は思いながら、冒険者ギルドに向かった。


 盾のマークのついた建物に入る。

 今は初めて冒険者ギルドに来た時よりも、だいぶ遅い時間だ。

 受付に何人か、人がいる。

 ピーちゃんは受付の人達を見て、マッチェを見つけた。

 2人もマッチェのもとに向かうようだ。


(お店でも受付でも、つい知ってる人の所に行っちゃうんだよね。こういう心理なんて言うんだろう、とりあえずピーちゃん効果って呼ぼう)


 列に並んでいる人が減っていって、マッチェと話せるようになった。


「こんばんは。皆さん研修お疲れ様でした。皆さんが研修で狩られたグレイトホーンの買取の報酬が出ていますよ」


 3人が、そういえば報酬をもらっていなかったと思い出した。

 サラがマッチェに、とりあえず報酬をもらおうと話す。


「マッチェさん、こんばんは。今日は情報誌を買いに来たのですけれど、先に報酬をいただいてもいいですか」


 マッチェはもちろんですと言って、一緒に持ってくるので何年分買うつもりかを聞いた。

 サラは伝えた。


「5年分でお願いします」


 冒険者ギルドでは5年分の情報誌が残っているようなので、全て買うつもりだ。

 マッチェは分かりましたと言って、パーティの報酬を管理している場所と情報誌を管理している場所に向かった。


 しばらくして、マッチェと他の職員の人達が情報誌を60冊持ってきた。

 5年分の茶色の情報誌が置かれるが、周りの人達に反応はないようだ。

 5年分買うのは普通らしい。

 マッチェはそれから、こちらが報酬になりますと言って、結構な重さの皮製の袋を渡してきた。

 中身はほとんど金貨のようだ。

 マッチェはとても楽しそうに教えてくれた。


「状態がとても良かったようで、高く売れたそうですよ。なんと金貨が40枚になりました」


 初めてでこれはすごいですね、とマッチェは嬉しそうだ。

 3人はありがとう、ありがとうございますと言いつつも、60冊の本がマッチェを挟んでいるように見える状況に少し引いている。

 すごい高さだ。

 マッチェは、アルバートの対応が変わったことに対してあまり違和感がなかったようだ。


 マッチェは情報誌が60冊なので、金貨6枚になりますと値段を伝えた。

 報酬から金貨6枚を取り出して、アルバートが渡す。

 マッチェは、初めての報酬の使い方が情報誌を買うことなんて、将来有望ですねと楽しそうだ。

 楽しそうに褒めてくれるマッチェをみてピーちゃんは思った。

 これは、迷惑をかけないように勇者パーティがいない間の穴埋めもしなければ、と。

 ピーちゃんはさっそく行動に移した。


「マッチェさん、グレイトホーンを運ぶロープ、ここで70本買える?」


 マッチェは少し驚きつつも、3人の研修の結果を思い出したようで予備も買うのだろうと取りに行ってくれるようだ。

 ピーちゃんは、アルバートとサラに60なら移動に飛行使えばいけそうだよね、と聞いた。

 2人は午前で終わりそうですねと返す。

 後ろから複数の視線を感じる。ざわめきが聞こえる。


 少し作戦会議をしていると両手でロープの束を持った、マッチェが戻って来た。

 マッチェは束をカウンターに置く。

 マッチェは大量に買っていただいたので細かい銅貨はおまけして、銀貨8枚になりますと言った。

 同じように報酬から銀貨を8枚渡しながら、それはありがとうございますと伝えた。


 そしてアルバートとサラは背負っていた袋に、本とロープを上手に詰めた。

 それから、マッチェにどうやって他の冒険者を雇うのかを聞いた。

 マッチェは受付に前日に言っていただくか、当日でも大丈夫ですよと教えてくれる。

 それを聞いて、ピーちゃんは宣言した。


「明日、勇者パーティ、空を走る光の人達がいるようだったら半分にしてもらおう。でも、もしいないようなら全員雇っちゃおー」

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