第16話 検証
リリはファーストに連絡をとって、森に出ている全員をすぐに拠点に戻すように伝えた。
そして勇者パーティには、もう少し寝ててもらわないとねと考えた。
プニプニを呼んで、彼らをもう少し長めに眠らせて欲しいと頼む。
プニプニはお任せあれと言って、勇者パーティの方に転がっていった。
プニプニは〈催眠ガス〉で長めに眠れるようにとりあえず2回やった。
リリがさて次にやることはと考えて、勇者パーティを治療する班と犯人を捜す班を作ることにした。
バックアップの待機室で言った話もあるし、一度待機室に戻ってどういう方法がよさそうだと思われているか聞いてみよう。
勇者パーティをバックアップ達が担いで待機室にもどる。
途中でファーストが合流した。
全員に戻るように指示を出し終わったので、リリ様のサポートとして行動させてください、とのことだった。
リリはもちろん、よろしくねと伝えた。
待機室ではリリの言った通り勇者パーティの治し方と、犯人の探し方について議論が行われていたようだ。
リリが戻ってくると、彼らは今こういった案が出ていますと教えてくれた。
リリは拠点の誰かや勇者パーティに危害が及びそうな案はすべて却下したが、それ以外を全部やってみることになった。
じゃあ班分けをと思い、まずは勇者パーティを治療する班について考える。
支配を解く方法としてはスキルの解放、アイテムとして流れる水、大陽の葉、解放ポーションなどがある。
支配をかけた回数に応じて、同じ回数使わなければいけないから、今回の場合10万回使わなければならない。
これについては、先ほどの案から効率を上げる方法をいろいろと試してみる、ということになっている。
なのでこれらのものを作ったり、スキルを使うことができる人員を集めることになりそうだ。
次は犯人を捜す班について考える。
支配はキャラ1人に対し、合計として1万までかけられる。
1万まですでにかかったキャラに、新たに支配をかけなおすなら一度治すか、かけた存在よりもレベルか能力が高い存在が、同じ回数で上書きする必要がある。
なので事前に1万まで支配をかけておけば、いきなり支配を受けるということはないだろうとリリは思った。
高レベルで情報を集めるのに特化したキャラを中心に、支配されないように事前に支配をかけて調査すれば問題なさそうだ。
(グルークの町に、過激派を大量に送り出すのは気が引けるけど仕方がないよね)
リリはまずは確実に捜査班に入ることになる、アルバートとサラに支配のスキルをかける理由を話した。
リリ様のおかげで支配にかけられないなんて喜ばしいです、と言っているので問題ないようだ。
そして通常の方法で支配をかけた場合、はたして支配をかけたことに気がつけるのか、そしてリリより能力が低くても上書きができるのかを試してみることになった。
2人には、いつもつけている完全状態異常無効の装備を外した状態でやってもらう。
そして後ろを向いてもらい、もしかけたことが分かったら手を挙げてもらうことになっている。
ちょっと離れた位置からまずは、アルバートにかけてみることにした。
リリは右手をアルバートに向ける。
〈無詠唱〉〈絶対的支配〉
リリの右手の先に黒い光を放つ球が現れる。
リリの手から放たれた球は、アルバートにぶつかると燃え広がった。
アルバートは、うっすらと黒い炎に包まれている。
しかしアルバートは一切動かなかった。
リリはアルバートが燃えているのを見て思い出した。
(そういえば、支配って成功しても失敗しても見た目は一緒だったね。そしてアルバートは炎に包まれてるのに、全く反応がない)
そして思う。
かかった手ごたえもなかったし、これじゃあかけられたのか、かけられなかったのか分からないよと。
(ゲームでも何にも教えてくれなかったし、それにこの見た目は完全にかけられたようにみえるよね)
リリは、とりあえずかかってるかを確認しようと思いスキルを使った。
〈無詠唱〉〈状態解析〉
半透明のウィンドウが音もなく現れる。
(ウィンドウ上ではかかってるみたいだけど、確認はしておいた方がいいよね)
「アルバート、『絶対こっちをみないでね』」
はい、と返事が返ってくる。
そのままリリは続ける。
「さっきのは気にしないでいいから、こっちを向いてくれる?」
アルバートはリリの方に向き直った。
あれ? と思うリリ。
そして気づく、そういえばまだ1万まで支配の強制度上げてなかったと。
普段使わないスキルは抜けが多くなるなと思いながら、アルバートにはもう一度後ろを向いてもらう。
そして考える。
支配のスキルの強制度を1万まで上げる方法は2つある。
ゲームでは最低値が1なので支配のスキルを1万回かけるか、 強制度増加という別のスキルで一気に上げるかの2種類だったと思う。
強制度増加の場合支配のスキルをかけた回数は1回になるので、解放のスキル1回で状態異常は解けてしまう。
なので勇者パーティにかけられた支配は、強制度増加は使われていない。
今は通常の解放のスキルでは解けないように、支配のスキルではなく絶対的支配のスキルを使っているので、強制度増加で上げ切ってしまうことにする。
(確か、支配の強制度を上げるにはかけられる側のキャラのレベルと、どれくらい強制度を上げるかで使うMP変わってくるはず。アルバートだと、1万上げるのに100万MPくらい必要になるのかな)
まあ、それくらいなら平気か、けど本当に使い勝手が悪いなと思いながら、リリはスキルを使用する。
〈無詠唱〉〈強制度増加〉
リリの目の前に、音量を調節するときに使うようなバーが現れる。
それに手を当て、一番左から少し右に動かした。
動かした分だけ、何かが抜けていく感覚がある。
それと同時にアルバートをまたうっすらとした炎が包む。
リリはこれくらいならMPが減って気分が悪くなることもなさそうだと、一気に右端まで動かした
一番右端に動かすと、うっすらとした炎は、まるで支配された者から全ての自由を奪うように、縫いつけるような動きをする、黒、青、緑などの色をした炎に変わった。
リリはバーから目を離して、アルバートの方をもう一度みて言う。
「アルバート、こっちを向いてくれる? 向けなかったらそれを教えてね」
アルバートは右足を持ち上げたところで、動きが止まった。
前に足を振って、勢いよく後ろに下げるが途中でピタッと動きが止まってしまう。
左右には問題なく動くようだ。
足を床に戻し、今度は上半身だけでも向きを変えられるか試しているようだが、腰や首をひねることもできないようだ。
「リリ様、そちらを向くのは難しそうです」
「そっか、ちゃんとかかってるみたいだね。じゃあ『自由に動いていいよ』、どうだろうこっち向けそうかな」
アルバートはスムーズに体をリリの方に向けた。
「問題ないようです」
リリは問題なくアルバートが動くのを確認して、次はサラに近づいた。
サラの肩に手を置く。
支配にかかったのが分かったら教えてねといって、少し間を置き。
〈無詠唱〉〈絶対的支配〉
リリの手が燃え、その火がサラの肩に移る。
サラもうっすらとした炎に包まれるが、かけられた感覚は全くないようだ。
手が上がらない。
〈無詠唱〉〈強制度増加〉で強制度を1万まで上げる。
動けなくなりそうな見た目の炎に、包まれる。
しかし、それが見えているリリにも熱さは感じられなかった。
続けてリリは指示する。
『サラ、左腕を上げてくれる?』
サラの左腕は勝手に上に、上がった。
「サラ、左腕を下げてくれる? できなかったらそう言ってね」
どうにか下げようと、右腕で左腕を抑えてみるが右腕にもあまり力が入らないようだ。
そして、少しだけなら前後左右に動かすことはできた。
「リリ様、腕を下げるのは難しそうです」
「サラもかかったみたいだね、『自由に動いていいよ』」
サラの左腕は力を入れようとしていなかったため、そのまま下がった。
2人に支配がかかっていることを確認したリリは、次は上書きの確認をとプニプニを呼ぶ。
アルバートとサラは100レベルだが、プニプニは上限を解放しているので120レベルだ。
もし2人が支配に既にかかっていなければ、まったく問題なく支配をかけられるレベル差だ。
そして能力的にみると、リリよりは低くなる。
なので、強さに関係なく上書きが可能かどうかを調べるには、プニプニが支配をかけてみるのが最適だ。
リリは最上位のMPポーションを、用意してから言う。
「プニプニ、2人に支配をかけて、それで何か指示してみてね。それからプニプニなら余裕で一気にかけられるとは思うけど、間にこれを使ってね」
「ありがとうございます。お任せを」
プニプニは紫のポーションを受け取り、サラの方を向く。
「〈絶対的支配〉」
プニプニの1つしかない目に、刻印が浮かんだのが見える。
だが、それ以外はまったく変化が無いようにリリには見えた。
(そういえば支配って、周りから見るとこうなるんだったね。私は確か手のひらに浮かんできたはず。これは普通にかけられても気がつかなそう)
次にプニプニは、液体の入っている透明な容器ごと飲みこむ。
そして、アルバートの方を見る。
「〈絶対的支配〉」
やはり、リリには刻印が浮かび上がるだけで他には変化がないように見える。
そして、プニプニには炎が見えている。
今回は上書きなので強制度増加のスキルは使わなくても、1回絶対的支配のスキルを使えば強制度は1万に自動的になる。
MPはもちろん絶対的支配の分+100万必要だが。
リリはこれでもし上書きができていれば、2人はプニプニの指示に従うはずと思う。
プニプニは2人の方を見て指示した。
「では、お2人とも『一緒に跳ねましょうな』」
そう言ってプニプニは、その場で軽く跳ねている。
一方、2人は勝手に体が動くということはないようだ。
上書きがされていないことを確認できた。
リリは普通の解放で解けないようにもしているので問題もないだろうと思う。
油断はする気はない。でも、自分より能力が高い存在が犯人なら、勇者パーティをなんで操るんだろうと考える。
あの町に恨みがあるなら、きっとあの町はあんなに活気あふれる場所ではないだろう。
勇者パーティに恨みがあるなら、もっと酷いことがいくらでもできる。
彼らで遊んでいるなら、森の様子を見ていないのはおかしい。
そもそも、転生システムなしで自分より強くなれるのだろうか。
そこまで考えてリリは、これ以上考えてもどうしようもないと思った。
「3人とも協力ありがとう。上書きの心配はなさそうだね」
お役に立てて光栄ですと言葉を返す3人。
それを聞いて、リリはよしもう行動を開始しようと思った。
絶対に誰からも操られることがないようにこれから、拠点で支配をかけて回ろうと決意する。
最初に言う。
「じゃあ、とりあえずここにいるメンバーには先にかけちゃうから、まとまってね」
リリ様一気にかけすぎではと全員が思った。
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