第15話 支配

 ピーちゃんに送り出された一行がついた先は、バックアップに選ばれた者達の待機室だ。

 待機室では、今もピーちゃんが見ている光景と音声が、壁に投影されている。

 ピーちゃんが、見たものから得られた情報をまとめた紙が、机の上にまとめてある。

 先ほどまで議論を行っていた、様々な種族の者達は次の指示が出るのを待っている。


 一行に、リリが声をかけた。


「おかえり、さんにんとも」


 アルバート、サラ、プニプニは声をかけられた方向を見て、ただいま帰りました、リリ様と言った。

 リリは3人を労う言葉をかけた後、プニプニに聞く。

 あそこで誰かに見られたりはしていなかったと。

 プニプニは答える。


「あの場を見ているものは、おりませんでした」


 プニプニの種族スキルに反応がなかったなら皆のことはバレてなさそうだね、とリリは思った。

 プニプニは種族スキルである〈のぞきかえす〉をパッシブスキルで持っている。

 〈のぞきかえす〉の効果はどんな方法でこちらを見たとしても、こちらを見た相手を含めた周辺の様子を見ることができ、さらにだいたいの位置の特定ができるというものだ。


「なら大丈夫そうだね。さんにんには悪いんだけど、このまま犯人探しに協力してほしい」


 それを聞いた3人は、当然です、お気になさる必要はございません、というように答えた。


 リリは頷いて言う。


「ありがとう、さんにんとも。それじゃあ彼らを創造の部屋に連れていくよ」


 リリがそう言うと、バックアップの何人かが運んでくれるようだ。

 彼らにも感謝を伝え、リリは部屋に残る皆に伝える。


「みんなは、犯人をどうやって捜せばいいか、彼らをどうやって治すかについて話し合っておいてね」


 全員がお任せをとを言うので、ありがとう、よろしくねと言ってリリ達は創造の部屋に向かった。



 創造の部屋は、リリがキャラクターを創造するときに使っている部屋だ。

 創造の部屋にはフラスコやビーカー、シャーレにピンセットなど実験に使われそうな小物が机の上に置いてある。魔法陣も何個も設置されていた。その魔法陣のそばには、大きな培養槽のようなものが設置されている。


 創造の部屋についたリリ達は、その魔法陣の上に、勇者パーティのメンバーを1人1人寝かせた。


 リリは勇者パーティに近づいて〔創造の箱庭〕で、一番のメイン要素であったエディット機能を起動した。


 リリはこの世界に来て初めての日に、エディット機能を試しに使用している。

 その時リリは問題なく、エディット機能が使えることに安心した。それと同時に、キャラの状態について、知ることができる項目が増えていて、驚いたのだ。

 なので勇者パーティに使用すれば、支配について詳細な情報が、手に入るのではないかとリリは思っている。


 エディット機能を起動すると、魔法陣が光り始めた。

 勇者パーティのメンバーが、前も後ろも見えるように立った状態に固定される。

 リリの目の前に、半透明のウィンドウが現れた。

 

 ウィンドウには現在選択できる候補としてウィル、ナリダ、グロー、ルティナ、ダグが表示されている。

 リリはどれが誰なのかはっきりさせるため、ウィンドウから選択するのをやめた。

 そして、森で仲間に斬りかかろうとしていた男性に近づいて、手を伸ばし何かをつかむような動作をした。

 そのまま手を引くと、何もなかったはずの空間から、コルク製のクリップボードのようなものが現れた。


 このクリップボードのようなものは、もともとは半透明のウィンドウだった。しかし実際に使おうとすると、項目が増えたせいでスクロールするのが大変だったため、ウィンドウを編集してこの形に変えたという経緯がある。


 そして、このクリップボードのようなものに挟まっている、見た目は紙だが確実に紙ではない何か、これをエディット紙とする。

 エディット紙にはキャラクターの名前、種族、才能、現在の状態などが書かれている。


 リリは、手に取ったエディット紙に書かれている情報を、見てみた。


(えーと、この人は名前がウィル、種族が半人半魔で、って、え!? 人じゃないの? ……まあ、それはあとで考えるとして。それで次が才能と、勇者と剣聖か、物理よりの構成だね。勇者の才能は確か支配のスキルに対する抵抗値をちょっとだけパッシブスキルで得られたはず。そして最大6個のうち2つしか埋まってないからたぶん天然勇者……確認は必要だね)


 リリは、ウィルを見る。

 才能の確認をと考えながら見るとウィルの胴体部分が透明になり、楕円形の塊が2つ浮いているのが見える。


(才能が型に嵌まってないし、ゲームで町にいる人と同じだね。これは天然)


 リリがゲームでキャラクターを作るときは、才能が最大6個入る金色の型に才能を嵌めて、それをキャラクターに入れていた。そうすることで、そのキャラクターの種族と才能にあったスキルが、覚えられるようになる。


(それであとは今の状態を見ないとね。麻痺はもう切れてると、睡眠は――)


 睡眠 23:54

    23:53

    23:52

      ・

      ・

      ・


(時間が減ってる! 私チキンレース向いてないんだって、いや、まだ20分あるし、あとでプニプニに追加してもらおう。今は支配だよ支配)


 そう思いリリは、最後だと思って支配について確認する。

 そこには


 支配   9991.9



 と書かれていた。


(えーと、確か支配のスキルは最大1万までかけられるってことだったよね。かけられてる量が多いほど、指示に従う確率が上がったはず。1万かけてたら100%になるから、これはほぼ逆らえないね)


 そして読んでいて気になったことについて考える。


(なんで小数点以下があるんだろう。ゲームだと1回の最小値が1からだから、小数点以下はないはずなんだけど)


 そういう思いに囚われてしまったがリリは見るところはとりあえず見たと、ウィルのエディット紙を見るのをなんとかやめて、他のメンバーのエディット紙の確認をすることにした。


 全員のエディット紙を確認して、リリは思った。


(他のメンバー全員種族は人、それに支配に書かれている数字が9999.9。 0.1、減ってるのはサラが1回解放をかけたときに減ったと考えると、つまりこれって)



 勇者パーティは10万回、支配のスキルをかけられた。


 リリには、どうやったのかまるで分らなかった。

 リリはエディット起動時のウィンドウの計算機能をつかって、計算してみた。

 1人の人物がかけた場合、支配にはもう一度使うまで、1分のクールタイムが発生する。

 その場合1分ごとにかけたとしても、約70日はかかる。

 もしクールタイムがなかったとして、1秒に1回かけたとしても約28時間は必要だ。


 リリは思った、これはさっさと勇者パーティを治して話を聞く必要があると。

 勇者パーティは、きっと支配のスキルをかけられたことにすら気がついていなかった。


 リリは勇者ウィルの幼馴染だという、町一番の回復術士ルティナの方を見る。


(ルティナは回復術士の才能を持っていて、実力的には解放のスキルを使えるはず。そして、0.1程度じゃ、ほぼ指示に従わせることはできないから、気がついていれば治せる。それなのに全く治っていなかったことを考えると)


 誰にも気がつかれない方法で、支配のスキルをかける手段が存在している。


 非常に厄介な状況だ。

 もしこちらの存在を知っているだけでかけられるようであれば、いつの間にか誰かに操られている可能性すらある。


 リリはここまでの状況を考えて、決断した。

 その場にいる全員に声が聞こえるように、はっきりと言う。


「全員聞いて、今、森に探索に行っている全員を呼び戻す」


 全員が話を聞いていることを確認して、力強く続ける。


「そして勇者パーティに、10万回も支配のスキルをかけた方法と犯人を、絶対に見つけ出すよ!」

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