第14話 勇者パーティ

 宿屋、幻獣の止まり木のいつもの部屋に着いた3人。

 窓のそばにアルバートとサラが立ち、できるだけ中が見えないようにしている。


 〈転移〉で誰かが送られてくる。


 転移によって呼び出されたカラスの獣人のクロは、ピーちゃんの方を見て一度腰を折ってから、話し出した。


「ピーちゃん 、今回は俺を選んでくださってありがとうございます」


 彼はディアストーカーハットを被り、インバネスコートを着ている。

 探偵のような服を着ているが、肩書は情報管理局局長補佐官、副局長や次長はいないので彼が情報の国のNo.2だ。

 ちなみに局長のアイは猫の獣人で、くのいちである。

 ピーちゃんはいえいえという風に、羽を振っている。


 クロはアルバートとサラの方に、体の向きを変えた。


「アルバートさん、サラさん今回はお2人のバックアップとして待機してました。出番があってよかったって、ホッとしてます。よろしくお願いします」

 

 アルバートとサラはこちらこそよろしくお願いしますと返した。

 そのあと珍しいものを見たように、私達のバックアップということは、アイさんは一緒じゃないんですね、と言う。


「ええ、彼女は今、森の調査を任されてやる気になってます。俺も2人のバックアップとして、全力を出させてもらいますよ」


 クロはやる気にあふれているようだ。

 そして、ピーちゃんの方に体の向きを変えて聞く。


「それで俺が呼ばれたってことは、誰かの追跡か観察、あとは暗殺ですか?」

「そうそう、今回やってほしいのは勇者パーティの追跡と観察だよ」


 ピーちゃんはやって欲しいことを伝える。


「今勇者パーティは冒険者ギルドにいるはずだから、出た所からこっそりあとをつけてもらって泊まってる場所を確認してほしい。中は見なくていいよ、変に知ってるとボロがでそうだからね」


 それを聞いてクロは分かりましたと返事をした。

 ピーちゃんは頷いて言う。


「それで明日、勇者パーティが泊ってるところを出てきたら連絡してほしい。森に出るようなら、先に出てあとを追ってるってばれないようにつけていくよ」

「畏まりました。明日は勇者パーティが宿泊場所を出た時と、どこに向かっているのかが確認できた時の2度連絡させていただきます」


 ピーちゃんはクロがどの程度町について、知っているのかが気になって尋ねる。


「町に何があるかは分かってる?」


 クロは、記憶の確認をしながら答える。


「はい、問題ありません。バックアップは全員あの研修の本を読んでおります。町の冒険者が使う施設の載った地図を見ているので、大体の場所はお伝えできるかと思います」


 ピーちゃんは、あのテキストを見ながら場所を聞こうと心に決めクロに伝える。


「さすがだね。じゃあ写真を出すから、それを見て勇者パーティを追ってね」


 クロは腰を折って、言った。


「お任せください」


 その日の夜、クロから連絡があった。

 勇者パーティが、宿泊場所と思われるところから出てきたが追った方がよいかという連絡だ。

 ピーちゃんは勇者パーティのことを、Sランク冒険者という肩書きから、きっと相手のボロを見抜くのが上手いというか、相手の観察に優れているんじゃないかなと勝手に思っている。


 実力はピーちゃんの搦め手に耐えられらるようであればピーちゃんには余裕で勝てるが、きっとアルバートと、サラには遠く及ばないと思っている。

 でも、やっぱり知恵比べとなったら話は別だ。

 ピーちゃんは外の世界での生活を、しばらくは穏便にやり過ごしたいと思っている。だから、マッチェに必ず会うことになると思いますよと言われた勇者パーティは、なかなかに恐ろしい相手な気がしているのだ。

 なので、実際に合うまではなるべく相手のことを知りたくない。そしてクロが知っていたら、絶対に何をしていたのか好奇心で知りたくなると思う。

 だからクロにはこう返した。


「勇者パーティにマーキングだけして、あとは放置でいいよ。何してるかまでは今はまだ知りたくない。明日明るくなってから追ってね」

「畏まりました」

「よろしくね」




 次の日、クロから勇者パーティが宿泊場所から出たという連絡と、城門に向かってるという連絡がきた。

 クロに昨日の夜は雨だったから大変だったでしょ、ありがとうと伝える。

 クロは〈障壁〉で濡れないようにしていたので問題ありません、心配していただきありがとうございますと言った。


 通信を切ったピーちゃんは2人に、じゃあ2人とも、先に森に行って先回りだよ、と元気よく言った。

 2人も今日はやる気充分のようで気合いの入った、はいという返事が返ってきた。


 森の中の少し入ったところで、ピーちゃん、アルバート、サラが向かい合っている。

 ピーちゃんは2人に話し始めた。


「勇者パーティはもう少しで、城門を抜けるみたいだね」


 ピーちゃんは、勇者パーティの身の安全を考えてこう続ける。


「スキルを使うときに、気をそらす役がいた方がいいと思うから、もう1人呼ぶね」


 2人はお願いしますと言って、周りに異常がないか、確認している。

 ピーちゃんの前に〈転移〉で誰かが送られてくる。


 夜空のような黒い球に、1つだけ目がついた存在が現れる。

 プニプニはピーちゃんの方を見て、話しかける。


「先ほど拠点でも言いましたが、ピーちゃん に選んでいただいて大変うれしいですな。感謝いたしますぞ」


 プニプニはそのあとアルバートとサラの方を見て、おふたりとも今日はやる気十分のようで、お互い頑張りましょうなと言っている。

 2人もはい、頑張りましょうと返していた。


 ピーちゃんはプニプニを見ると、ピョンピョンと音がしている気がした。

 楽しそうで何よりだよという気持ちで、ピーちゃんは伝える。


「喜んでくれて嬉しいよ。プニプニにはスキルを使うときに羽を広げて合図するから、勇者パーティの気をそらして欲しいんだ」

「お任せあれ。気合いを入れて驚かせてみせますぞ」


 プニプニもやる気に満ちているようだ。

 そんな様子のプニプニに、ピーちゃんも笑いながらこう返す。


「楽しみにしてるよ。ああ、勇者パーティ町を出たみたいだね。じゃあ、プニプニとは別行動だね」


 ピーちゃんがまたあとでと羽を振ると、プニプニはええ、では御前失礼いたしますぞー。

 と言ってコロコロコローと移動していった。


 プニプニがいなくなったあと、さてピーちゃん達はと考えて、索敵でばれないように行動しなければと思う。


 なのでピーちゃんは、スキルを使った。


「〈範囲〉〈熟練の隠蔽〉」


 周囲が一瞬、青く光った。

 よし、これで大丈夫とピーちゃんは思い2人に言った。


「さてと、ピーちゃん達は冒険者だし、普通に森を歩いてても問題ないから、見えないくらいの距離開けてついていこっか」


 2人は既に気配を消すことに全力をかけ始めたようで、小さめにはいと返した。







 勇者パーティの後をこっそりと、ついて行く。

 ピーちゃんは気になって、サラの肩から小さな声で2人に聞いた。


「勇者パーティって、今日は何しに来たんだろうね」


 勇者パーティのいるだろう方向を見ながら、アルバートは答えた。


「昨日はすごい数の冒険者を連れて歩いてましたし、違和感はありますね」


 勇者パーティは5人だけで、森の中を歩いているようだった。

 ピーちゃんは考えて言う。


「この時間は冒険者ギルドも開いたばかりだし、残りを全員雇うって話だからもしかして下見かな」


 アルバートが答える。


「それはありえそうですね。下見をして冒険者ギルドに戻ればちょうどいいくらいの時間になりそ――」


「いやだ!! 殺したくない!!!」

「殺さないでウィル!」「やめてくれ!」

「助けてくれ! おねがいだ!」「こんなことするなんてひどいわ!」



 突然、叫び声が聞こえる。

 尋常ではないその叫び声に、ピーちゃんは一瞬で判断を下した。


「アルバート、サラ全力で向かって」

「「はっ」」


 数十メートルを一瞬で走り抜け、勇者パーティに追いつくと、1人が剣を振りかざし今にも仲間に斬りかかりそうな姿が目に入った。


 断末魔の叫びにも似た、苦渋に満ちた雄たけびが聞こえる。

 ピーちゃんは決めた。


「アルバート、止めて」


 アルバートは剣を持った男性が斬りかかる直前に、片手で剣を持っている男性の両手を抑え、動きを止めたようだ。

 セーフ! ピーちゃんはそう思った。

 アルバートはピーちゃんの方を見て、聞いてくる。


「ピーちゃん どういたしますか?」


 勇者パーティのメンバーはいきなり現れたアルバートの方を見て驚き、声も出ないようだ。

 サラとピーちゃんが勇者パーティに近づいていく。

 ピーちゃんはアルバートに、止めてくれてありがとうと声をかけてから、どうするか少し考え、このままだと危ないと判断を下した。


「〈範囲〉〈貫通麻痺〉」


 アルバートが支えている1人を残して、他のメンバーがパタパタッと音を立てて倒れた。

 アルバートは完全状態異常無効の装備をつけているので、問題ない。

 ピーちゃんはアルバートに聞く。


「その人にもかかってる?」

「はい、力は入っていないですね」


 アルバートは人1人を片手で支えても、まったく問題ないようだ。

 ピーちゃんは、また少し考えて言った。


「じゃあ、剣が危ないからそれだけ取って倒しちゃいなよ」


 パタッと倒れる、最後の1人。

 5人を見ながらピーちゃんは聞く。


「何が起きたんだろうね」

「1人治して聞いてみますか?」


 アルバートが、ピーちゃんの方に近づきながら聞いてくる。

 起こした場合どうなるか、考えながら話す。


「いや、またこうなっても困るし、とりあえず〈範囲〉〈状態解析〉」


 ピーちゃんの前に、半透明のウィンドウが5つ現れる。

 それを見ながらピーちゃんは言う。


「あー、これは面倒ごとだね」


 勇者パーティの方に、目線をやりながら続ける。


「彼ら全員、支配されてるよ」


 アルバートとサラは、勇者パーティに支配のスキルがかけられていることに驚いたようだ。

 サラが支配ですか、とつぶやく。


「うん、なんか自分の意思で動けてなさそうだったし、これは間違いないかな」


 ピーちゃんはどうしようか考えて、治せるか試すことにした。


「ふたりって解放使えたよね。サラ、ちょっと全員にやってみて」


 サラがはいと返事をして勇者パーティに手を向ける。


「〈範囲〉〈解放〉」


 勇者パーティに、光の粒が降り注ぐ。

 ピーちゃんはサラにありがとうと言ってから、目の前のウィンドウをみて考えこむ。


「うーん、変化がないなあ。解放1回で効かないのは何回もかけられてるか、スキルを極めたかのどっちかだよね」


 アルバートがピーちゃんに、1歩近づいてくる。


「ピーちゃん 1つよろしいですか」

「この人たちに聞かれてもいい話?」

「あまりよろしくはないかと」


 じゃあちょっと待ってね、とピーちゃんは言う。

 そして周りの木を見ながら、ちょっと来てと呼んだ。


 がさっと音がして、木から落ちてくるプニプニ。

 着地と同時に、はいこちらにとピーちゃんに言った。

 ピーちゃんは勇者パーティを、翼で指し示す。


「彼らを眠らせてくれる?」

「お任せを」


 プニプニは勇者パーティに近づいて〈催眠ガス〉と唱える。

 同時に体の下半分を平らにして、黒い体をかまくらのような形にすると、体から白い煙が辺りに広がった。

 ウィンドウを見て、状態異常に睡眠が追加されたことを確認したピーちゃんは、寝たみたいだねと言った。

 そのあと、アルバートにどうぞというように白い翼を向ける。

 アルバートはありがとうございますと言ってから、話し始めた。


「では1つ、支配のスキルは確か、かける側の実力がかける対象の実力よりかなり高くないと、ほとんど成功しないスキルだったかと思います。ですが、同じ実力を持つ者にもかけられる可能性はあります。なので、彼らに支配をかけられるほどの実力者となると」

「ああ、なるほど。そうだね、犯人が勇者パーティと同じくらいのレベルだったら、私達の中にも数十人は支配のスキルにかかる可能性があるね」


 ピーちゃんはアルバートの説明で、拠点の皆が敵になったり、望まないことをさせられたりなど非常に困ったことになる可能性があることに気がついた。

 アルバートはさらに続けた。


「はい、それにこの仮定は、勇者パーティに支配をかけられる実力者の能力を、一番低くみた場合の話になります。その場合――」

「支配をかけた奴がもっと強い可能性があって、うちのが大勢、操られるかもしれないと」


 ピーちゃんは、低くわざとゆっくり話した。

 アルバートはそれに、はい、そうなります、と言う。

 ピーちゃんはそのまま低い声で話す。


「ふーん、じゃあこの人たちに支配をかけた誰かは、絶対に見つけないとね」


 勇者パーティの方を見て続ける。


「それで、私達のうちの誰かが操られるなんてことが絶対に起きないように、どうにかしないといけないね」


 ピーちゃんはこの先の方針について、いろいろと考えている。

 もしここが監視されていた場合、ピーちゃん達が勇者パーティを止めたことはバレているから、もう既に誰かに目をつけられているかもしれない。その場合、その誰かは自分達のことを調べてくるかもしれないので、拠点の場所についてバレる前に犯人を特定する必要がある。

 ここを見ていないなら、誰かに自分達の存在はバレていないから、勇者パーティをささっと治して、事情を聞いてこっちのことがバレる前に誰かを特定した方が安心だ。出来ることなら、支配もかけられないようにしてしまいたい。

 そう考えて考えるのをいったんやめたピーちゃんは、とりあえず決めたことを話す。


「うん、ピーちゃんにバックアップから誰かつけてここに置いていこう。それで一旦帰る。そして方針を決めよう」


 ピーちゃんが3人にそれでいい? と聞く。

 3人は、はい、ピーちゃん と言う。

 そしてプニプニは、勇者パーティの方を見て尋ねる。


「ピーちゃん 、彼らはどうされるのですかな?」


 ピーちゃんは勇者パーティの方をちらっと見て、プニプニの方を見て答える。


「何か知ってるだろうし、残念だけどグルークの町がどうこう言ってる場合じゃないし、連れて帰ろう」


 ピーちゃんは、ここにいる全員を〈範囲〉〈転移〉で拠点に送り出した。

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