第12話 グレイトホーン

 寝る前に、3人は夜の見張りはどうしてるんだという話になったので、ピーちゃんは毎日は寝ないから、ずっと見張ってるんだよというと、森の盾の人達全員が寝ることにしたようだ。


(うーん、森の盾の人達の考え方が謎だなぁ。普通ぽっとでのピーちゃんに任せて寝れるものかな……)


 とピーちゃんが悩んでいると、アルバートとサラが起きていましょうか? と聞いてきた。

 ピーちゃんは、いや、寝てていいよ、ちゃんと見とくよと言う。

 2人はありがとうございますと感謝を伝えた。


「おやすみ、ふたりとも」

「「ピーちゃん 、おやすみなさい」」


 2人は横になって、一瞬で寝た。


 ピーちゃんは思った。

 森の中でも、やっぱり一瞬で寝るな。ゲームの時と同じだと。


 ピーちゃんは周りを見渡す。

 空は満点の星空、周りは木々で覆われている。


(ゲームでは周りで戦闘が行われてても、私がござ敷いて、ここで寝るように指示すると、寝るくらいだから寝れるだろうけど、警戒心どうなってるんだろう?)


 周りの木や草がざわめき、2人の髪が揺れる。


(この2人が森で寝てるのを見ると、レベリング思い出すな)


 ピーちゃんは、ゲームで彼らが寝る前に行っていた光景を思い出す。


(1、2、3、4、メーテーオーで皆のスタミナが切れるまで森の中走り回ったっけ。また、メテオランやりたいなー)


 楽しそうに思い出していたが、少し残念そうな雰囲気になる。


(こんなところでやったら酷いことになるから、できないだろうけど)


 気を取り直して、今日の出来事について考えてみる。


(そういえば、今日の話で、ウィルって人がどうやって倒したか謎って言っていたけど、剣と魔法の才能を両方か、勇者の才能を持っている人のスキルは、あんまり知られてないのかな?)


 うーん、とピーちゃんは悩む。


(剣に属性を付与して攻撃するスキルは、剣と魔法のスキルが両方使えれば使えるはずなんだけど。とりあえず、明日以降、町に戻ったら勇者パーティを探してみよう。この町で、誰もが実力を認める冒険者なら、実力を知っておかないとね)




 夜は何事もなく過ぎたので、朝食を食べて 町に戻りながら今度はグレイトホーンを狩ることになった。

 今日はグレイトホーンを狩って町に戻って、ギルドでどうやって売るかを教えてもらったら、終わりらしい。


 ジュールは言った。


「今日は、数頭狩って帰るだけだから、町に近づいてからグレイトホーンを倒すぞ。だから、今日は途中までは昨日と同じく、魔物を避けて進むつもりだ。ピーちゃんは俺たちがこの辺で魔物を探すと、言ったら魔物に誘導してくれ。魔物の種類が分からなくても、この森にいるのはほとんどグレイトホーンだから、気にしないで近づいていいからな」


 ピーちゃんはそれに分かりましたー、と返事を返して内心疑問に思う。


(ほとんどグレイトホーンって、本当に何食べて生きてるんだろう)



 日が、一番高く昇ったころ。


 ジュールが、この辺で魔物のいる場所に案内してくれ、とピーちゃんに伝えた。

 ピーちゃんは、はーいと答えてからどこにいるかを確認している。

 そのあと森の盾のメンバーを、見ながら聞く。


「えーと、近くの5頭くらい固まってるのと、1頭だけの奴がいるけど、どっちがいい?」


 ジュールは、悩むそぶりもみせずに答えた。


「1頭の方だな、グレイトホーンが5頭はこのメンバーだと面倒だ」


 サラは不思議そうに聞いた。


「両方とも、グレイトホーンなんですか?」


 グラムがサラの質問に答える。


「そうだよ、理由は分からないけどグレイトホーンは群れることもあってね。ちなみに小型の魔物は、1頭でいることが多いよ」

「群れてると、一気に食べられるからですか?」

「そうそう」


 グラムの答えにサラは納得できたようだ。

 ピーちゃんはそれを聞いて思った。


(この森やっぱり危ない。あーでも、Cランクから倒せて、その辺の冒険者が一番多いんだから、この世界自体が物騒なのかな)


 ピーちゃんは、目的地への道案内を始めるようだ。


「1頭の方に案内するねー、この先100本くらい木の先、右方向です」



 そこにいたのは、全身が周囲の木の色にそっくりな茶色の毛に覆われ、2本の大きな角をもった、高さ2mは軽く超えるだろう怪物だった。

 その怪物は2本の角を器用に使い、木をなぎ倒し、木とその下の土ごと大きな音を立てながら、食べているようだ。


 ピーちゃんは、その光景を見てこう思った。


(巨大猪だ。ゲームにいた魔物のジャイアントボアとは違うけど、これはイノシシ。普通の人があれに跳ね飛ばされたら死ぬでしょ。というかこんなのが、うじゃうじゃいるのこの森)


 怪物が荒らしまわったにしては、あまり地面は荒れていないようだ。

 代わりに木の食べ残しが、ところどころに残っている。

 ジュールが、怪物を指さして言う。


「あれが、グレイトホーンだ。今は食事中のようだから、飛べるなら上から脳天に向かって攻撃するといい」


 続けてケルビンが、グレイトホーンをどうやって狩ったら高く売れるかを教えてくれる。


「毛皮と肉と角、ほとんどの部位が売れるからな、なるべく傷は少ない方がいいぞ」


 それを聞いて、ピーちゃん、アルバート、サラは顔を見合わせる。

 ピーちゃんがうなずくと、アルバートとサラが言った。


「「ピーちゃん お願いします」」

「はいはーい、〈範囲〉〈飛行〉これで飛べるよ。頑張ろー」


 はい、頑張りますと言って、2人は剣を抜き、高く飛び立った。

 ピーちゃんはちょっと離れてついて行く。


 グレイトホーンの、ちょうど真上に到着した所で、アルバートはピーちゃんに聞く。


「普通に突き刺せば終わると思いますが、どうしますか?」


 ピーちゃんはそれを聞いて少し考えて、答える。


「傷が少ない方が高いって言ってたし、1人でやった方がいいんじゃないかな? もう1人は、やらなくてもいいけど威力上げるために、やる方を投げる、とか?」


 それを聞いた2人はお互いの顔を見て、強そうな感じになるにはどうすればいいかを考えて決めたらしい。


「分かりました。では、私がお兄様を投げますね」

「そうだね、頼んだよサラ」


 2人は投げる体勢に、移行している。

 それを見て、ピーちゃんは思った。


(投げるんだね。はあ、あんまり見たくないけど、2人が頑張ってるんだし、見ないのはダメだよね)


 ピーちゃんはグレイトホーンの方を、見る。


(グレイトホーン、君達のおかげで私達はこの世界でも生活できそうだ。ありがとう、そしてさようなら)


 サラがアルバートの胴体をもって、勢いよくグレイトホーンに向かって投げる。

 アルバートが、その勢いをもってグレイトホーンの頭に剣を突き立てる。

 それだけで、グレイトホーンは動かなくなった。

 ピーちゃんがアルバートとサラに言う。


「お疲れ様」

「「ありがとうございます」」


 動かなくなったグレイトホーンの近くで、ピーちゃんが2人を労っていると、森の盾のメンバーが近づいてくる。

 口々に褒めてくれるジュール、ケルビン、グラム。


「あっけなかったな」「初めてでこれはスゲーな」「2人とも即戦力だね、ピーちゃんもすごいなあ」


 森の盾の3人にアルバートとサラ、ピーちゃんが感想を伝える。


「上手くいって良かったです」「少しドキドキしました」「ありがとー」


 そのあとピーちゃんが、グレイトホーンの方を見て聞く。


「それで、どうやって持って帰るの?」


 こいつを使うんだ、と言ってケルビンは細いロープを取り出した。

 見た目は普通のロープだ。


「このロープをグレイトホーンのどこでもいいんだが、普通は角だな。こうやって角にしっかり巻き付ける」


 ケルビンは、角の片方にぐるぐるとしっかりロープを巻いた。


「それで巻き付けてない方の端を持って〈発動〉と言ってやるとほら、グレイトホーンが浮くんだ」


 グレイトホーンは森の中を持ち歩くのに、ちょうどいい高さまで浮いた。

 浮いたのを確認したケルビンが伝える。


「それで、今持ってるロープを引っ張る、こうやってやると浮いたまま動くから簡単に運べる」


 軽くケルビンが引っ張る、と引っ張った分だけ抵抗なく動いた。

 サラは感心して、便利ですねとケルビンに言う。


「ああ、運ぶのは簡単だ」


 そのあと、そうだアルバート、サラ、ピーちゃんには知っていてもらわないとな、といった調子で ジュールとケルビンが教えてくれる。


「グレイトホーンを1日に何頭も倒せるようなパーティーはな、まだ倒せないパーティーを雇ってこいつを使って町まで運んでもらうぞ」

「3人だったら、3パーティくらい雇って町まで運んでもらうといいんじゃないか」


 ケルビンが言っていることを聞いて、ジュールがこんなに簡単に倒せるならそれくらいは必要だな、と言ってきた。

 そして、ジュールが他のパーティを雇うときの報酬について教えてくれる。


「狩った魔物の報酬は、だいたい均等割りだ。……不思議そうな顔をしてるな」


 ジュールの説明に、グラムが補足を入れてくれる。


「1パーティでやるよりやるより、移動の手間が少ない分楽だし。自分達より下のランクのパーティを雇うと、1パーティごとにギルドから報酬が出るんだよ」


 最後にケルビンが、真面目なことを言う。


「両方足すと、普通に自分達だけで狩った時より報酬は多くなるんだぜ。それにまだ、グレイトホーンを倒せないパーティに装備をさっさと整えてもらって、グレイトホーンを倒せるようになってもらわないと、氾濫が起きたときに町を守り切れないかもしれないからな」


 なるほど、と聞くピーちゃん、アルバート、サラ。

 今日はとりあえずあと3頭くらい倒して町に帰るぞ、というジュールの言葉に分かりました、と返事をしてグレイトホーンを探すことになった。

 その後サクサク倒していったら、森の盾の皆に5パーティくらい雇いな、と言われた。

 増えたなーとピーちゃんが思っていると町の城壁にたどり着く。


 魔物の買取は、ギルドが城壁の外で行っているらしい。

 買取の場所に近づいて目に入ったのは、ずらっと一面に並べられたグレイトホーンだった。


 それを見てピーちゃんはこう思った。

 どれだけいるんだ、グレイトホーン。

 これだけ狩られてるのに、氾濫が起きるって何なんだ、グレイトホーン。


 アルバートとサラも、似たような気持ちのようだ。

 この光景を見て、森の盾は違う感想を持ったらしい。

 ケルビンが伝えた。


「今日も、勇者パーティは大活躍みたいだぜ」


 不思議そうにピーちゃんが、なんで分かるの? とケルビンに聞いた。


「彼らがいるのと、いないので最低でも60頭くらい数が違うからな」

「え、そんなに違うの」


 ピーちゃんは驚いて言った。

 グラムが、周りを見て言う。


「しかも、彼ら大量に狩るから、他のパーティが雇わなかったパーティを全員雇うんだ。少なくとも10パーティはいつもいるんだよ。こんな時間にここにいる冒険者の半分は、勇者パーティに雇われてるんじゃないかな」



 周りは、2、3頭のグレイトホーンを持った冒険者達が列をなしている。

 ジュールが困ったように言う。


「明日から3人が入ったら、絶対人数が足りなくなるな」


 それを聞いてグラムが気がついたようだ。

 勇者パーティに雇われる人数が少なくなって負担が大きくなることに。

 なので伝えた。


「町に来たばっかりなんだろう? 今回のグレイトホーンの報酬が入るし、しばらく町を見て回ったらどうだい」


 勇者パーティに雇われるパーティの負担を考えて森の盾のメンバーは、3人を丸め込もうとしている。

 それを聞いてピーちゃんは負担が大きくなるんだと、いうことに気がついて言った。


「ピーちゃんも町がみたいな」

「そうですね、明日からしばらくは町を観光させてもらいます」


 アルバートはピーちゃんの仰せのままにという気持ちで言う。

 勇者パーティに雇われる人達の負担が無事に減ったところで、買取を担当している人がいる場所に着いた。


 買取担当の人が、森の盾の方々と、研修をされている方々ですねと話しかけてくる。

 ジュールが、楽しみだという風に担当の人に言った。


「ああ、今回はこいつらが今日狩った4頭のグレイトホーンだ。全部脳天を一突きで仕留めてある。買取報酬期待してるぞ」

「おお、初日で4頭も、しかも傷はほとんどないと、こちらも気合いを入れて売らせていただきますね」


 買取担当の人も、受けとったグレイトホーンがいくらになるのか楽しみにしている。

 サラは、値段がすぐにつきそうな雰囲気に疑問を持ったようで聞いた。


「すぐに売れるものなのでしょうか?」


 買取担当の人は、グレイトホーンが多く並べられている方を指さす。


「ええ、あそこの冒険者ではない人が多くいる場所が見えますか。あそこではグレイトホーンの卸の方々が、このグレイトホーンはいくらって値段を付けあってるんです」


 ピーちゃんは思った、もはやこの町では肉屋は肉屋と呼ばれていないのではと。

 担当の人が続けて言う。


「新しく入ってきた、グレイトホーンはすぐ彼らが見るので、よっぽどの状態でなければすぐ売れますよ。あそこでは、一番高い値段をつけた方が買う方式で値段がつくので、値段も高値がつきやすいです」


 そして、せりをやっているとピーちゃんが思った。


 ここで森の盾のジュールが、ピーちゃん、アルバート、サラの方を見て、教えてくれる。


「そういえば、3人はパーティの名前決めたのか? ここで名前を言っておけば、町のギルドの方で名前を言うだけで買取報酬を受け取れるぞ」


 3人は顔を見合わせて、少し笑って、ピーちゃんが代表して言った。


「ピーちゃん達のパーティの名前は決めてあるよー、パーティの名前はね、黒の砂、だよ」


 その後、ジュールがおお、黒系の名前がまた1つ増えたんだなと言って。

 ケルビンに買取報酬は全部そっちが貰っていいぞ初陣のお祝いだ、それでさっさと強くなって俺たちを楽させてくれーと言われ。

 グラムが何か困ったことがあれば何でも聞いてね、それも含めて研修をやってるんだよと言った。

 そういったことを言ってくれるジュール、ケルビン、グラムに、お礼を何回も言って、その場で解散になった。

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