第11話 野営

 研修3日目、冒険者ギルドに行くと、今回引率のAランク冒険者パーティ、森の盾のメンバー、ジュール、ケルビン、グラムの3人がいた。

 ピーちゃんは、Aランク冒険者に研修を頼むってすごいなと思った。

 同時に3人の名前に聞き覚えがある気がしたので、名前に由来はあるのかを聞いた。

 親が音の響きで決めたらしい。

 すごい偶然だ。

 それからAランク冒険者が研修をするのは珍しいのでは、という気持ちをアルバートとサラも感じたらしくサラが聞く。


「Aランクの方が新人の研修をなされるのは、普通のことなんですか?」


 森の盾のリーダーである、ジュールが答える。


「ああ、新人の研修で森の中に行くときはBかAが普通だな。Cランクだと自分たちの身を守るので精いっぱいだし、それ以下だとグレイトホーンを紹介できないからな」


 そのあと、あんたらはCランクのパーティに勝ったんだから、俺たち冒険者が行くくらいの場所の魔物は倒せるよとジュールは続けて言った。


 ジュールは、全員の顔を見回して言う。


「とりあえず、今日やることは薬草の採取と夜寝る場所の探し方だな。今から森へ向かうが、荷物は問題ないか」


 森の盾のメンバーは、問題ないというように頷いている。

 アルバートとサラは、昨日の研修で必要なものは教わったので、それを持ってきましたと、伝えている。

 全員に問題ないことを確認して、ジュールは森へ行くぞと号令をかけた。



 森の入り口にて、ジュールはアルバート、サラ、ピーちゃん、に確認する。


「さて、今日は魔物を避けて森の中を動くことにする。3人はいつもどうしてたんだ?」


 そんなに強いんだから、魔物と戦ってたんだろという前提でジュールは話をしている。

 アルバートとサラは自信満々に、返事をする。


「ピーちゃん 頼りですね」「ピーちゃん が魔物を見つけてくださるので、奇襲にあったことはないです」


 森の盾のメンバーはそんなにすごいのかと、ピーちゃんを見ている。

 ジュールが伝える。


「じゃあ、今日はそっちに合わせて移動する。ピーちゃんは今日はできるだけ魔物に合わないように指示してくれ、場所を教えてくれてもいい」


 ピーちゃんはサラの肩の上から楽しそうに、おまかせあれーと答えた。




「何もいない、本当に、ここは黒の森か……? おい、ケルビンどうなってるんだ」


 真面目なジュールが、困惑している。


「いや、それは俺が知りたい、索敵の範囲内に1頭もいないってなんなんだ」


 見た目に反して真面目に偵察をしていたケルビンは、もっと困惑している。

 マイペースなグラムは、1人これなら自分の出番はなさそうだと安心した様子だ。


 アルバートとサラは、3人の反応を意外そうに見ている。

 ピーちゃんは思った。


(うーん、300mくらいは余裕を持たせときたい。でも、どれくらいでケルビンさんが確認できるかも知りたい)


 ピーちゃんは葛藤し、決断をくだした。


 よし、ちょっとだけ放置してみよう。


 250m、反応なし。


 220m、何とも思ってなさそう。


 190m、反応ないね。


 160m、だいぶ近い怖い。


 130m、ピーちゃんはチキンレース向いてないわ。


 100m、「左前方に進もう」


(これ以上進んだら背の高い植物が結構あるこの森でも大きい魔物なら目で見えるかもしれないし、普通100m先に例えば熊みたいなのがいるとしたら避けるわー、うん、普通普通)


 しかしとピーちゃんは思う。


(ケルビンさんの、反応がなかったな。確かに森みたいに障害物が多いと、索敵の範囲って狭くなるけど。ピーちゃんに任せてるから100m程度じゃ口出ししないだけか、探ってるのがばれてるからないのか、本当に範囲内じゃなかったのか……うーん)


 その後、しばらく歩くとグラムが声をかけてくる。


「この近くに、薬草の群生地があるんだ。そこで薬草の違いと、採取方法について説明するよ」

「「「お願いします」」」


 この薬草は根に効果がある、だから根を傷つけないように――。

 こっちの薬草は葉が使われるから、こうやって――。


(見た目が違っても、ゲームと似たような効果の薬草があるね。よし、これは使えそうかの検証をポーション研究室に依頼しよう)


 と考えて、ピーちゃんは何個かこっそり〈転移〉で拠点に送った。



 日が陰ってくる頃。

 野営場所は木が多く、見通しのよくない、火が焚けて、周りに寝れるだけの小さなスペースがある場所になった。

 サラが、珍しい場所を選ぶのねと思って聞く。


「この場所でよいのでしょうか?」


 サラと同じように周りから乾燥した木や、落ち葉を集めながらジュールが答える。


「ああ、他の場所だと見通しのいい場所の方がいいんだろうが、この森ではできるだけ木が多い、大型の魔物が真っすぐに走れない場所で、寝た方がいい」


 周りは木や草が多すぎて、もはや人が全力で走るのも難しそうだ。


「もう聞いてるとは思うが、この森ではグレイトホーン、小さな山ともいわれてる大型の魔物が一番数が多い」


 アルバートとグラムは火の周りで座ったり、寝たりできるように地面に布を敷いている。

 ジュールは脅すように、グレイトホーンの特徴を言う。


「グレイトホーンは2本の角が特徴の魔物で、結構な速さで突進して攻撃してくる。もし突進に巻き込まれたら死ぬと思え、角に貫かれれば死ぬし、運よく角を避けても角の間に、硬い石のような外殻がついてるんだ」


 突進に特化した体になってるんだね、とピーちゃんは思った。

 ジュールは、戦う時のアドバイスをしてくれる。


「だからこいつと戦うときは、突進ができないようにするか、横か後ろに常にいるようにする。飛べるなら上にいるといい」


 ジュールは周りを、指し示しながら言う。


「そして寝てるときに踏みつぶされないよう、こういうなるべく木の多い場所で寝る。これが黒の森で野営する冒険者の基本だ」


 黒の森での野営の仕方の話を聞きながら、野営の準備を行い、ケルビンが、周りの偵察を終え、帰ってくると野営場所の設置が完了した。


 夕食はパンとスープだ。


 ピーちゃんは思う。

 この3日、肉料理しか印象にないけど、そういえば朝食に一応パンもあったなと。


 スープが完成に近づいたころ、仕上げにこれを入れるよ、と言ってグラムが見せてくれたのは真っ赤な香辛料だ。

 なんでも、グレイトホーンが嫌う匂いがするらしく、野営の時は必ずこれを使うそうだ。

 黒の森の周りにある町では一般的な物らしく、どの町でも売っているので、必ず買うように勧められた。




 食事中、ジュールが食べながらでいいから、長くなるが聞いてほしいと話し出す。

 町中では話せないが、大事な話なんだと前置きをして。


「さっき、グレイトホーンの話をしただろ。明日はそれを倒してもらうんだが、それがさらにでかくなったやつが、この森にはいるんだ」


 森の王って呼ばれてる、と手を大きく広げて、大きさを表しながらケルビンが補足をする。


「数年に1回、この森で魔物の氾濫が起きたときに森の王は現れる。それでちょうど去年の氾濫で、森の王が現れたんだ。空を走る光、今町では、勇者パーティって呼ばれてるパーティーの前に、現れたんだ」


 話ながら想像しているのか、だんだん熱がこもっていく。

 ジュールは楽しそうだ。


「見てたやつの話によると、すごい迫力の戦いだったらしい。森の王が突進してそれを空を走る光が避けるだろ、そうするとあの分厚い城壁が1撃で粉砕されたんだ」


 あの壁を壊すとか、ぞっとするよねとグラムが言っている。


「でも彼らも負けてないんだ。空を走る光は5人で組んでてな、最後はグローが足止めして、ダグが角の攻撃を受け止めて、ナリダが魔法で吹っ飛ばして、横になったところをリーダーのウィルが倒したらしい」


 ケルビンがあの巨体を転がすとかすげーよなと言って、グラムも本当にねと続けた。

 アルバートは、興味津々の様子で聞く。


「どうやって倒したんですか?」


 ジュールは残念そうに、首を横に振ってから伝えた。


「それが見てたやつも何が起きたのか、よく分からなかったみたいでな。ウィルが剣を構えたと思ったら、光が彼の周りを覆いつくして何も見えない間に、とんでもない轟音がして、気がついたら森の王が死んでたらしい」


 雷の魔法じゃないかって言われてるけど、構えたのは剣だからどうなんだろうなと、ケルビンが言う。それに続けてグラムが見れれば分かったかもしれないのにと、言った。

 森の盾のメンバーは残念がっている。

 気を取り直すように、ジュールは続けた。


「それでだ、黒の森の周りの町では、森の王を倒したパーティーがSランクになれる。空を走る光は、Sランクになれるほどの実力を証明した」


 森の王が俺たちの前に現れてれば、と思うと少し悔しいが、と言ってジュールは少しうつむいた。

 ケルビンはその様子をみてジュールの肩に手を置いて、


「もし、俺たちの前に現れてたら、俺たちが勇者パーティって呼ばれてかもしれないもんな」


勇者って呼ばれたかったんだろと面白がっている。

 ジュールは、ケルビンの手を振り払いながら、茶化すなと乱暴に言った。


「それで、今、彼らは町の英雄だ。冒険者達も彼らの今後の活躍に期待してる」


 そこで、アルバートとサラとピーちゃんの方をみて、ジュールは真剣な表情をした。


「だから、町で彼らへの文句や不満に聞こえるようなことを言うのは避けてくれ。誤解はしないでほしい。彼らの態度が酷いって訳じゃない、空を走る光の人達は文句の付けようのないくらい、優しい人達なんだ」


 ……ただ、とジュールが困惑したように話し出す。


「今町の人達がピリピリしていてな。不用意なことを話して、石を投げつけられた奴もいるくらいなんだ」


 サラが、驚いてジュールに聞く。


「どうしてそんなことに?」

「3人はまだ、この町に来たばかりで分からないと思うが、最近この町で大事にされているものが壊される事件が起きているんだ」


 壊されたのは、あの場所に人が住めるようにした人の石像やグルーク資料館、町ができた時から続いている店とかだったと思うぜ、とケルビンが補足した。

 それを聞いたあとジュールがまた伝える。


「それでその犯人が、勇者パーティなんじゃないかって噂があって、町全体がなんでそんな噂が流れるんだって怒ってるんだ」


 一息ついてジュールは、はっきりと言う。


「そんな訳だから、町では勇者パーティに関係がある話はあまりしない方がいい」


 宿屋と冒険者ギルドの往復しかしてなかったから、そんなことになってるとは知らなかった、と3人が思った。

 ピーちゃんが、グルーク資料館焼失事件について考えていると、アルバートがジュールに聞く。


「教えてくれてありがとうございます。それで、1つ質問してもいいですか?」

「ああ、もちろん」


 ジュールは何でもどうぞという風に、首を縦に振った。


「空を走る光の、最後の1人はどのような方なんですか?」


 そういえば、4人しか出てなかったねとピーちゃんは思った。

 ジュールが話し出す前に、グラムが楽しそうに割り込んでくる。


「彼女はルティナ、空を走る光のメンバーは、森の王との戦いではだれも大怪我しなかったから話には出てこなかったけど、町で一番の回復術士なんだ」


 彼女もすごかったよな、あれぐらいになりたいよねとケルビンとグラムが興奮している。

 グラムが興奮したまま続ける。


「彼女の活躍は氾濫が終わったあと、重症者のほとんどを彼女1人で治したんだ」


 彼女のおかげで、前回の氾濫では死者はいなかったもんな、とケルビンはすごいものを見たような口ぶりだ。

 ちなみにとグラムが話す。


「ルティナはリーダーのウィル、町では勇者ウィルって呼ばれてるけど、彼の幼馴染らしいよ」



 その後、ウィルとルティナがあれで付き合ってないってどういうことだよとか、グルーク町の美味しい店の話、グルークの冒険では竜と狼の話が好きだな、いや聖なる木を見つけた話の方がすごいぞと、話をしているうちに夜が更けていった。

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