第10話 ランク分け

 グルークの町、冒険者ギルドにて、受付で初心者講習もとい新規冒険者用の研修をうけにきたことを伝える3人。

 アルバートさんとサラさんとピーちゃんですね、こちらですと案内される個室。

 そこには、3人の今回の研修の指導者、元Bランク冒険者のバルカル教官がいた。


「はじめまして、今回3人の教官を務めさせていただくバルカルといいます。よろしくお願いしますね」

「よろしくお願いしまーす」「「よろしくお願いします」」


 ピーちゃんが元気に、アルバートとサラが礼儀正しく返事をした。

 見た目と名前は合ってるのに、話す雰囲気が違うね、とピーちゃんは思った。

 まずはこちらをお渡ししますねと言って、バルカル教官は銀色の盾のレリーフをくれた。

 盾の上部に輪がついており、そこにひもを通してアクセサリーのようにも使えるようだ。


「これで誰が見ても、3人は立派な冒険者となります。一緒に頑張っていきましょう」

「「「ありがとうございます」」」


 次にとバルカル教官は近くに置いてあった、本を3冊手に取り、サラに1冊、ピーちゃんが乗っているアルバートに2冊渡した。


「今回の研修でお伝えすることは、全てこれに書いてあります。研修の内容が分からなくなった時、将来必要になった時のため、出来るだけ取っておいてください」


 そして、3人には関係ありませんが、もし文字の読み書きができなくても冒険者ギルドではそこから教えることも可能です。

 なので、そういったことを気にされている方がいたら教えてあげてください、と続けた。


 ピーちゃんには人員絶賛募集中の幻覚が見えた。


「これから研修を始める前に質問などはありますか?」


 アルバートとサラが目を合わせる。

 サラがバルカル教官に質問をしにいった。


 今が、決戦の時。


 ピーちゃんが見せてー、というようにアルバートの腕に移動する。


 バルカル教官は、美女が質問してくるという状況に完全に気をとられている。


 アルバートが持っている本のうち1冊は


 〈転移〉〈複製〉〈翻訳〉〈複製〉〈転移〉


で翻訳本がアルバートとファーストに渡った。


 ファーストとアルバートが、パラパラと本をめくっている。


 ファーストに冒険者をやってないと知らなそうなこと以外教えてあげてと伝え、アルバートとサラに〈通話〉してもらう。


 これで準備は整った。

 もしかしてアルバートもパラパラ読みをマスターしている? という疑惑をピーちゃんの胸に残して。


 バルカル教官がいうには、今日は冒険者に必要な知識を持っているのか、戦闘技術はどれくらいか、について見させてもらうとのことだった。

 その結果によって、研修の日程は短くなるようだ。

 準備が整ったので、これは最短を目指せるなと4人が思っている。


 冒険者の心得を軽く聞いたところで、では、質問します、とバルカル教官は言った。


「黒の森で採れる薬草について、知っていることを話してください」


 アルバートが、すらすらと答える。


「黒の森で採れる薬草は、上級のポーションの材料となっている――」


 バルカル教官はアルバートに聞く。


「採取方法は分かりますか」

「それは、分かりません」


 うん、ちゃんと冒険者してないと分からなそうなとこは抜けてるね。


「では、次に黒の森の東にある国について、教えてください。」


 サラも答えた。


「東にある国はザーツマール帝国で、――」


 その後、午前を知識の確認に費やした。

 バルカル教官からは、これなら知識は明日1日、足りない部分を補うだけで十分ですねと、お墨付きをもらった。


 戦闘能力の確認は訓練場で行うので、また後でと言ってバルカル教官が出ていったあと、ピーちゃんのファースト、アルバート、サラを褒めたたえるタイムが入った。


 そして、午後、訓練場にて戦闘能力の確認を行う時間になった。

 今回、アルバートとサラの戦闘能力は、冒険者で一番数が多い強さ――この町の冒険者の強さは、森で戦っている冒険者を観察しているのでそれを参考に――と、アルバートとサラの見た目の年齢を考えて、これくらいの強さで手加減すると決めている。

 たくさんいるなら、即戦力ではあるが驚かれたりはしないだろう。


 バルカル教官と1対1で戦って、1人1人の実力を見るようだ。

 ここで注意するのはバルカル教官だけでなく、訓練場には他にも冒険者がいるため、手加減を気づかれないようにすることだ。


 ピーちゃんは、自分には手加減は絶対無理だな、2人とも頑張ってという気持ちで2人を応援している。

 そんな、ピーちゃん自体はちょっとした魔物くらいの能力しか持っておらず、スキルも10個ほどしか使えない、自称エコ鳥である。


(この状態で戦うと、近づいたら一閃されて終わりそうだよね。とはいえ、スキルは……)


 ピーちゃんが自分のスキルに思いをはせていると、訓練用の武器を持ったアルバートとバルカル教官が距離を開けて、向かい合っており、準備が終わったようだ。

 ピーちゃんは危ないので、離れたところで見ている。

 サラが、合図をするようだ。

 ピーちゃんは今から戦う2人の本当の実力差から、バルカル教官も頑張ってと思った。

 サラが開始の合図をした。


 合図を聞いたアルバートは距離を詰め、バルカル教官に上から下に切りかかった。

 バルカル教官は、それを訓練用の剣で防ごうとする。


(ああ、受けちゃうんだね)


 剣と剣が触れた瞬間


 ガン!


という鈍器でもぶつかったんじゃないかという音がする。

 バルカル教官は思っていたよりも重い衝撃に耐えかねて、慌てて後ろに下がって衝撃を逃がしている。


 アルバートの戦い方は、見た目と違ってパワータイプだ。1撃1撃が重く、攻撃を防ぐか避けるかを的確に判断しないと、バランスを崩されるので危険だ。


 対するバルカル教官は、フェイントを攻撃の合間に入れて、相手の隙を作るテクニックタイプのようだ。フェイントに惑わされ、相手のペースに巻き込まれたらほぼ負けだ。

 ただ……。


(見える世界がカンストしてるから、バルカル教官のフェイント意味ないんだよね)


 アルバートはフェイントに引っかからないことで、総合能力的に少し劣っていても、勝負が互角に見えるようにするようだ。


 何度か打ち合ったところで、バルカル教官は終了の合図をだした。


 次はサラとバルカル教官の戦いだ。


(アルバートは何とかなったけど、正直サラとの戦いが一番怖いんだよね)


 サラとバルカル教官が離れて向かい合い、2人の準備が終わったようだ。


 アルバートが開始の合図をした。


 開始の合図と同時にサラは素早く距離を詰め、手に持った剣をバルカル教官の顔に向けて突き出した。


 避けるバルカル教官の顔には、汗がにじんでいるように見える。


 サラの戦い方は、スピードタイプだ。殺意マシマシのスピードタイプだ。


 すべての攻撃が急所を狙っている。

 防げなかった瞬間バルカル教官は死ぬ。

 それが早々に分かったんだろう。


 少し、キンキン、音がしてバルカル教官は終了の合図を出した。


 周りから、おい、新人が普通にバルカルさんと打ち合ってるぞ、や、あいつこえーよといった声が聞こえる。

 それらをつとめて無視をして、ピーちゃんは声をかける。


 「お疲れー、2人とも」


 おい、鳥がしゃべってるぞが追加された。

 瞬間、2人がそちらを向く。

 ピーちゃんには見えなかったが、相当な危険に思える視線を送っていたのだろう。

 その人は仲間に頭を締め付けられて、仲間たちと謝り、頭を抱えられたまま連れていかれた。


 バルカル教官と、3人はCランクからになりそうですねという話をしていると声をかけられる。


「よお、4人ともやってるか」


 バルカル教官は声が聞こえた方をみて、あきれたような顔をしている。


「遅いですよギルド長、もう2人の実力の確認は終わりました」


 たくましいギルド長は、一切バルカル教官のあきれた表情を気にしなかった。


「なら、最後はパーティとしての実力を見せてもらおうぜ。結局、森じゃあパーティで動くことになるんだ。見といた方が、ちゃんとランク分けもできるしな」


 もう1人の実力を見てないんだろ、とピーちゃんの方を見た。

 バルカル教官は、それはそうですが、3人の相手は1人ではできないですよ、と言う。

 ギルド長は少し驚いた表情をして、なら、今見てるやつらに手伝ってもらおうと言って、周りのギャラリーのもとに向かった。


 アルバートとサラがやってきてこっそりと言う。


「どうしますか、ピーちゃん 。周りで見ているパーティは基本5人以上で組んでいるようです」

「さすがに、3対5で勝つと目立ち過ぎてしまうかと思いまして」


 2人は残念そうに言う。

 ピーちゃんも残念そうに言う。


「あー、それは仕方がないよね。まあ、初黒星になるわけだけど目立つのはね」


 聞いた瞬間2人は、カッと目を見開いて、ありえないことをしそうになった。

 負ける前に聞けた幸運に感謝という複雑な気持ちになった。


 アルバートは、怖いくらいの覇気をまとっているように見える。


「ピーちゃん 、絶対に勝ちましょう。圧勝しましょう」


 サラからは、周りを威圧するオーラを感じる。


「そうですね、そうです。負けは許されません。ピーちゃん の顔に泥を塗るわけにはまいりません」


 2人はさっそく作戦会議をするようだ。


 怖いくらいやる気に満ちてしまった2人を見て、2人に任せるのはまずいかもと、ピーちゃんも作戦会議に参加した。


 

 ギルド長が、5人の生贄をつれてやってきた。

 彼らは前衛3人、後衛2人からなるCランクパーティらしい。

 3対5になるが、問題ないかギルド長が聞いてくるが、アルバートとサラは笑って問題ないと答えている。

 それを見て、相手のパーティは生意気な新人にお灸をすえてやるという気持ちのようだ。

 やめたほうがいい、ピーちゃんはそう思う。


 2つのパーティが、向かい合った。

 バルカル教官が、開始の合図をしてくれる。


 ピーちゃん、アルバート、サラが立てた作戦はこうだ。

 ここの者たちは、鳥などと失礼なことを言ってくれるくらいに、ピーちゃん のような方と戦ったことがないようです。なので――


 バルカル教官が、開始の合図をした。


 相手の前衛3人が向かってくる。

 引き付けてから、ピーちゃんは〈範囲〉〈飛行〉で3人が飛べるようにした。


 急に浮くアルバートとサラに警戒する前衛3人。


 その隙にピーちゃんが飛び立つ。

 そして〈妨害音波〉を使って、翼を思いっきり激しく動かす。


 耳を抑え混乱している、相手パーティ全員。


 彼らには、音が聞こえたのだ。


 夜中に耳元で蚊が飛んでいるときの不快な音が、何十倍にもなったような、羽ばたきの音が。


 そんな、大きな隙を逃す2人ではない。

 走りと比べて速すぎてありえないくらいの速度で、飛んで近づく。


 サラが一番左側の人に近づき、横からはっ倒すように胸の少し下あたりを膝で蹴る。


 アルバートは中央の人に近づき、装備の隙間にえぐるように肘を突き出す。


 一番右の人は、アルバートが顔を殴ろうとする動作を見せてガードしたところで、サラが後ろから足をなぎ払い、倒した。


 最後に、倒れた3人の首の近くの肩を、倒れている3人にも分かりやすく、剣の平たい部分でトントン叩いて終了だ。

 

 それで前衛3人は戦線離脱した。


 後衛2人はもう勝てないと思ったのか、せめて一矢報いたいとピーちゃんを狙っている。

 それが分かったアルバートとサラは、射線に入るように飛んで、残りの2人に向かっていった。



 アルバートとサラが言う。


「やりました、ピーちゃん 、圧勝です」

「おかげさまで、ピーちゃん の顔に泥を塗るようなことにならなくて、ほっとしてます」


 ピーちゃんは翼を広げて楽しそうに言った。


「アルバートとサラの作戦通りに進んだね、さすがだねー」


 といったことを言い合っていると、ギルド長がやってくる。


「すげーなお前たち、バルカルが1人で相手できないって言ったのも当然だな」


 バルカル教官は、倒れた5人に感想を聞いている。

 アルバートは、どれくらいの実力と判断されるかが気になるようだ。


「ありがとうございます。それで、私達のランクはどうなりますか」


 ギルド長は少し考えてから、発言する。


「パーティ単位では、ほぼBランクだと思うが、バルカルから聞いた話だと個人の実力的にはCランクなんだろ。だから、研修3日目から黒の森でやる野営の結果を見て、判断ってことになりそうだな」


 ピーちゃんは研修に、野営の練習が入ってるんだと驚いた。

 え、あの豪雪地帯の原因の森で、野営しなきゃいけないの、どうやるんだろと混乱している。

 アルバートがギルド長に聞いた。


「黒の森で、野営ですか」

「ああ、怪我をしたり、一旦どこかで休憩したいってなった時に、どこが安全か分からないと困るだろ。だから、そういうのを教えられるパーティと一緒に、黒の森で野営してもらうことになってる」

「なるほど」


 それからと言って、ギルド長は楽しそうな顔をしている。


「黒の森の研修では、グレイトホーンを狩れるかも試してもらう。引率のパーティの力なしで、簡単にグレイトホーンを狩れるようだったら、Bランクからでも問題ないな」


 ギルド長は、ほぼBランクになると思っているようだ。

 アルバートとサラはBランクから開始かと、今後の予定を考えている。

 ピーちゃんは最初からBランクになれるって、すごいギルドだなと感心した。


 その後、ギルド長の名前はロッダンであること、研修は今日を含めて4日で終わるのでこの町での最短の日数なんじゃないかといったことなどを聞いて、解散となった。

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