第8話 冒険者ギルド

 町を冒険者ギルドに向けて歩く途中、様々な生き物が荷車を運び、多くの人が行きかっているなか、大勢の人が立ち止まり広場の中央の木に向かって、祈りをささげている光景を目にした。

 その木は立派な大きさで、淡く光っていた。

 ピーちゃんがアルバートに聞く。


「あれ、この木って」

「そうですね、森に生えていたものによく似ています」


 3人で木を眺めていると、1人の男性が声をかけてきた。


「君たちは、よその町からやってきた冒険者さんかね」


 男性は期待に満ちた表情をしている。

 急に声をかけてきた男性に警戒しつつ、それを悟らせないようにサラが返事をした。


「いいえ、私達この町で冒険者ギルドに登録するつもりです」

「おお、この町の新たな冒険者の誕生というわけじゃな。なら、この木にお祈りしていくといい、我々の安全を守ってくれる聖なる木だからね。では、君たちの活躍を応援しているよ」


 と言って、去っていった。

 周りの人たちがその会話を聞いて、2人に注目している。


 うーん、冒険者ってそんなに期待されるような職業だっけ? とピーちゃんが考えていると、2人が歩き出す。

 2人が進む方向の人波が、海のように割れる。

 時折、頑張れよ、応援してるよ、といった声が聞こえる。

 冒険者って、ヒーローって意味だっけ? とピーちゃん達は困惑している。


 少し進むと、人波はなくなったが、周りから期待されているような視線を3人は感じる。

 大きな老舗の武器屋といった古めかしい店や、石像など、気になるものは多くあった。しかし、じっくり見ていると、さらに注目を集めそうな予感がするため、不自然ではないくらいの速度で、横目で見ながら、かつ堂々と歩き、冒険者ギルドに到着した。

 

 

 冒険者ギルドの中は、3人が行った時間帯のせいなのか、いつもの活気が嘘のように静まり返った場所だった。受付の人も、誰かが来たら対応のために出てくるといった形のようで、今、1人の女性が受付カウンターに立った。


 3人はそこへ向かう。穏やかそうな人だ。

 彼女はアルバートとサラを見て、すこしぼうっとした表情をした。その後、気持ちを切り替えるように頭を振ってから、話しかけてくる。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。私は受付を担当しておりますマッチェといいます。本日はどのようなご用件ですか」


 アルバートとサラが軽くお辞儀をした。気品にあふれている。

 アルバートが話しかけた。


「やあ、こんにちは。今日は登録をしたいと思ってきたんだけど、お願いできるかな」


 ああ、アルバートそのキャラで行くんだね、と、ピーちゃんは思った。

 そうだよね、検問所でもこういう感じだったもんね。

 せめて先輩には敬語……いや、この世界では正しいか分かんないしなぁ。


「登録ですか」


 マッチェは、目をぱちくりさせている。


「ああ、何かおかしかったかな」


 アルバートは不思議そうにしている。

 たぶん、品がありすぎたんだと思うよ、とピーちゃんは思った。

 マッチェが3人に言う。


「いえ、冒険者ギルドでは、どんな方でも冒険者となって魔物と戦うことを選んだ方を、歓迎いたします。冒険者となる決意をしてくださり、ありがとうございます」

「はは、そんなことを言われるとは思わなかったよ。それで、何をしたらいいんだい」


 確かにギルドでも、町でも冒険者ギルドに登録するってだけで、期待されるみたいな雰囲気があるし意外だね。


「はい、まず登録の前に、長くなりますが、当ギルドの説明をさせていただきます。それから、登録をされるかを決めてください」


 それを聞いてアルバートが言う。


「じゃあ説明をお願いするよ」


 ピーちゃんは思った。お金払って、はい終わりじゃないんだね。

 マッチェが話しだす。


「はい、では、まず最初に冒険者ギルドの成り立ちからお話します」


 と言ってマッチェは冒険者ギルドという組織について、説明を始めた。


「冒険者ギルドは人々が安心して暮らせるよう、魔物から人々を守るため最初は防衛ギルドとして作られました。その後、伝説の冒険家グルークが登録し、彼の成功にあやかって冒険者ギルドと改名されました。なので、冒険者ギルドに登録されている方は、冒険者と呼ばれています」


 冒険者って響きがワクワクするけど、冒険家とは呼ばれないんだねとピーちゃんは思った。


「次に冒険者は基本的に複数人で行動します。その際、この冒険者たちと一緒に行動すると決めてグループを作り、その冒険者の方々の名前を当ギルドの方に報告していただくと、そのグループをパーティと呼びます。1人で動かれる方も、我々は便宜上パーティと呼んでおります」


 パーティの名前か、キラキラ兄妹、ロイヤル、グルークの何かを……相談しよう。


「それでですね。当ギルドではパーティ単位で強さによって、失礼ですがランク分けをさせて頂いております。戦ったことのない方は、基本的にFランクからスタートとなります。そこからE、D、C、B、Aと上がっていって、何か偉業を成し遂げた方がSランクとなります」


 このA、B、Cって単語に聞こえてるこれって、本当はなんて言ってるんだろう。口の動きが絶対違うけど、そう聞こえるって不思議だな。


「現在、この町のSランクパーティは1つのパーティのみになります。パーティの名前は空を走る光、今この町では通称の、勇者パーティの方がよく耳にしますね。空を走る光の皆さんは、新規に登録された方によく助言をされているようですから、必ずお会いすることになると思います」


 天然の勇者がいる!

 アルバートとサラも勇者の才能持ってるけどこれは養殖? いや、ゲームの天然の勇者の才能だから天然の勇者……違うな、人工の勇者だな。


「冒険者の仕事は最初のころから変わりありません。戦うすべを持たない人々が行けない魔物の住む場所に行って、ポーションなどの原料となる薬草の採取。この町ではあまりありませんが、場所によっては鉱物の採掘もされるようです」


 うちで、皆によくやらせてた採集活動だね。この世界の物も使えるのか試してみないと。


「そして、こちらが主な仕事となりますが、魔物の討伐や町と町の移動における護衛になります。皆さんが住んでいた場所でも少なくとも数年に1回はあったと思いますが、魔物の氾濫を少しでも遅らせるのが冒険者の重要な役割になります。冒険者は、その土地で一番多い魔物を狩れるようになって初めて、一人前とされます。この町ではグレイトホーンという巨大な魔物ですね」


 魔物ってそんなに氾濫するものなの? 数年に1回って多くない?

 そして一番多い魔物が巨大って、食物連鎖どうなってるの。


「そして、もう1つ冒険者には重要な役割があります。先ほど言った魔物の氾濫が起きたときに、衛兵の方たちと協力して町を防衛することです。この町では魔物の氾濫は少なくて年に2回、一番多い時は年に5回もあったようです。最近は2回か3回なので、だいぶ落ち着いていますね」


 落ち着いている。

 年に2、3回は落ち着いている。

 ここって魔物の豪雪地帯だったんだね。

 よく生きていけるね、こんなところで。


「そして、冒険者の仕事としては最後にまだ戦闘技能が足りず特訓中の方や、体調が悪くしばらく魔物と戦えないが、仕事はしたいという方に向けて、町中の主に力仕事があります。冒険者の仕事としては例外になりますが、賞金首や、犯罪組織の逮捕の協力もここに含まれます」


 町での依頼って、そういう理由なんだね。

 ゲームでの冒険者ギルドの町の依頼は、雑用だと思ってたよ。


「最後に冒険者として登録されますと、新規冒険者用の研修を受けていただきます。この研修では、冒険者に必要な基本的な知識をどれくらい持っているか、戦闘技能はどれくらいかを確認させていただきます。冒険者としての能力を皆さんがどの程度持っているかを確認させていただいて、皆さんにあった内容を研修として行わせていただきます」


 研修内容が、個人に合わせられている。

 皆で一緒に教室で、とかではないんだね。

 あんまり、新規登録者いないのかな。

 いないよね、豪雪地帯だもんね。初心者向けじゃないよ。

 ラスボス手前の村で、開始したゲームみたいな感じになりそう。


「こちらの研修に費用はかかりません。当然ですが、冒険者ギルドの登録にも費用はかかりません。理由として冒険者ギルドは、冒険者の皆さんが無事に魔物を討伐するのを、手助けすることを目的とした組織になります。ですので、冒険者として最低限の知識や技能を得るための研修には、一切費用はかからないようになっております」


 お金いらないんだ。

 豪雪地帯で冒険者始めるの、大変そうだからなぁ。

 ちゃんと育てないと、すぐ死にそう。

 研修がちゃんとしてそうなのも、それが理由かな。


「そして、怪我をした際にも神殿で冒険者であるということを伝えれば治療の費用が安くなります。その代わり、冒険者の皆さんが仕事や、魔物を討伐した際の報酬から1割ほどギルドの運営資金として引かせていただきます。冒険者の皆さんが町に収める税も、報酬からこちらで計算して引かせていただきますので、依頼表や魔物の相場よりも報酬が低くなりますが、ご了承ください」


 魔物の値段は、時価なんだね。

 そして、税を勝手に払ってくれるんだ。

 すごい楽だね。

 冒険者は魔物だけ狩ってればいいと。


「長くなりましたが、これで説明を終わらせていただきます。何か質問はありますか」


 確かに結構長かった。

 質問か、何かあるかな。

 サラが聞く。


「マッチェさん、1つだけよろしいでしょうか」

「なんでしょう」


 ピーちゃんはサラの方を見て思う。

 サラ、何が気になったのかな。


「グルークさんのように、色々な町を巡ってみたいと思っているのですけれど、それは今でもできるのでしょうか?」


 サラもすっかりグルークのファンだね。


「はい、もちろんです。それに、今説明はしませんでしたが、他の町に氾濫の前兆があった場合は、冒険者の皆さんが応援として呼ばれることがよくあります。ランクが上がれば、他の町の応援に行く機会が増えるので、おのずと他の町に行く機会に恵まれます。呼ばれた町が気に入ったと、そのまま残る方もいらっしゃるので、拠点を移すこともできます」

「分かりました、ありがとうございます」


 マッチェの説明を聞いてピーちゃんは思った。

 もしかして黒の森の近くにある他の町も、豪雪地帯なのかな。だから、ここから移動しないのか。でも数年に1回の氾濫で住む場所もあるみたいだし、そっちが普通だと信じよう。そうじゃないとここが豪雪地帯とは言えなくなっちゃうからね。

 

 マッチェが聞く。


「はい、それでご登録されますか」


 ピーちゃんは問題なさそうだと思う。

 アルバートに登録しようと、ピーちゃんが動きで合図を送る。


「ああ、登録をお願いするよ」

「ご登録ありがとうございます。それではこちらにお名前と、できればでいいのですが、使う武器や魔法を使えるようでしたら、どういった種類かを書いてください」


 こういうことを聞かれたら、2人には名前はアルバートとサラだけで、2人とも武器として剣とアルバートは回復魔法スキル、サラには攻撃魔法スキルが使えると言うように相談して決めたから大丈夫だね。

 しかも、グルークの手帳のおかげで、今回決めてきた内容なら文字が書ける。

 すごい、ありがとうグルーク、ピーちゃんは後で何かお礼をしようと思った。

 アルバートがマッチェに聞く。


「全部書かないといけないわけじゃないんだね」

「はい、使いたくないもしくは知られたくないものは、書かなくても問題ありません。書いていただいた範囲で、仕事を依頼することはあるかもしれませんが、他にできることがあるからといって無理に仕事を押し付け、冒険者の皆さんの士気が下がる方が問題だと冒険者ギルドでは考えられています。ですので、名前だけ書いていたければ後は白紙でも構いませんよ」


 冒険者ギルドという名前からは、想像もできないほどのホワイトギルドだね。

 うちの組織運営の参考にしよう。


「あとですね、その肩に乗っている方の登録も必要になります。話せるもしくは言葉を理解できますか?」


 おや、マッチェさんピーちゃんを鳥って言わず方って言ったね。

 これは使役獣過激派が、このギルドにいる可能性がある。

 そして、もしかして話をしていい。

 すこし元気がいいくらいの方が、ピーちゃんって感じがしていいよね。


「話せるよー。ピーちゃんって呼んでね。それでピーちゃんは何になるの? 冒険者?」

「すごいですね、話す使役獣はめず――申し訳ございません。ピーちゃんも冒険者扱いになります」


 いるね! 過激派が絶対いるね!!

 アルバートとサラは使役獣といわれたので、若干残念そうにしている。


「ピーちゃんは人以外の冒険者の方が、登録する際に使う登録用紙がありますのでそちらにご記入をお願いします」


 アルバートが書こうとすると、ピーちゃんがアルバートの肩に飛び移る。


「アルバート、名前は分かってるね。間違えないでよ」

「はい、正確に書かせていただきます」


 アルバートがピーちゃんに丁寧な言葉をかけているのをみて、マッチェはホッと息を吐いている。

 アルバートは登録用紙に、とても丁寧にピーとだけ書いた。


「まあ、あってるね」

「ありがとうございます」


 3人の名前が書かれた紙をマッチェに提出すると、少しおや、という顔をしたが特に何も言われず紙は受け取ってもらえた。


「新規冒険者用の研修は明日から開始となりますが、問題ありませんか」


 それを聞いてピーちゃんとアルバートが言った。


「いいよー」

「問題ないよ。明日のいつ来たらいいのかな」


 マッチェは指導者となれる人の一覧を取り出して、何かを考えている。

 少しして考えがまとまったようで、3人の方を見た。


「明日の朝、鐘が2回鳴るころに冒険者ギルドに来てください。その時にアルバートさん、サラさん、ピーちゃんの新規冒険者用の研修を、行う指導者の者と会っていただいて、研修を開始する形になります。指導者の者からギルドに登録した証となる、盾のレリーフをお渡ししますね」


 アルバート、サラ、ピーちゃんが感謝を伝える。


「分かったよ。マッチェさん、いろいろ教えてくれて感謝するよ」

「マッチェさん、ありがとうございます」

「マッチェさん、ありがとう。あ、そうだ、ピーちゃんでも泊まれる普通の宿屋ってあるかな。マッチェさん知ってる?」


 2人に任せて変に高いところにされても困るし、先に聞いてしまえという気持ちでピーちゃんが聞く。

 すると、マッチェがここがピーちゃんにはおすすめですよ、といって、幻獣の止まり木、という宿屋を紹介した。

 使役獣がいる人たちがよく使う宿らしい。

 そこに泊まることにして、その後少し話をし、最後に感謝を述べて、冒険者ギルドを後にした。

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