第7話 検問所

 木が光っていない森を歩く、アルバートとサラ、そしてサラの肩に乗っているピーちゃん。

 晴れ渡った空に、少し湿った茶色の地面が続いている。

 歌いだしたくなるような、気持ちのいい風が吹いている。

 サラが聞く。


「ピー様、乗り心地はいかがですか。スピードが速かったりしませんか」

「全然揺れてないし、全く問題ないよ。あ、でも普通の鳥は、肩に乗っけちゃダメだよ。顔とか突っつかれたら危ないからね」

「はい、ピー様以外乗せたりいたしません」


 なら大丈夫だね、とピーちゃんは言って周りの風景を見ている。


(でも、こうやってのんびり森の中にいるとあれだね、何か思い出す気がする、確か)


「ふふふん、ふふふん、ふふふふ~ん♪」


 スチャッ、とヴァイオリンと小さいハープを構える、アルバートとサラ。


「はい、ストップ。何する気かな」

「伴奏を付けさせていただこうかと」


 アルバートが、ヴァイオリンを構えたまま答えた。 

 それを聞いて、楽器スキルのレベルが高い2人の演奏が気になったピーちゃんは言う。


「今はやりたいなら別にいいけど、町の近くとか町中で分かるようにアイテムボックス使ったり、歌ったり、踊ったり、演奏するの全部ダメだからね。わざと目立ったらダメだよ」


 ピーちゃんは何かに集中するように、目を閉じてから言った。


「あと、魔物がこの森結構多いみたい、今は追い払ってもらってるから近くにはいないけど、もし寄ってきたときは……あー、大丈夫か」

「はい、問題ありません」


 アルバートがヴァイオリンを構え、軽く弾くと近くの木が粉砕した。


(通常攻撃だからキーワードいらないし、音が聞こえた時点ですでに攻撃されてるって、実際見てみると威力が低くても結構怖い攻撃だな。でも音で攻撃って、面白いよね)


 ピーちゃんは楽しそうに言う。


「それで鼻歌だからね。それ以外しないっていうか、できないからね」

「お任せください」「お兄様と一緒に頑張ります」


アルバートとサラも楽しそうに言った。


「じゃあ、1、2、3、4」


 ~♪


(音楽に詳しいわけじゃないけどふたりとも上手だね! 原曲とは違うけど、これはこれでいいというか。歌の方は同じような音程で繰り返すけど、伴奏で印象が変わるんだなーっていうのが、面白いね)


 ピーちゃんは、ふたりとも流石だね、楽しかったよ、と言った。

 アルバートとサラが同じようにそう言っていただけると嬉しいです。

 と言うところから始まって、感想を言い合っていると、町に続く道に出た。


「じゃあここからは、道なりに進もう」


 ピーちゃんがそう言って、街道を進んでいくと森はなくなり、あたり一面に草原が広がった。

 さらに進むと、草原の中に大きな城壁が見えてくる。

 その城壁は何度も壊されては、その部分を直して使っていると分かる見た目をしていた。

 町への入口の近くには、人や馬車が多くいる。

 

 アルバート、サラ、ピーちゃんはその人の中に加わった。


 周りでは、多くの人が話している。

 これからの予定や、今回持ってきた商品の話、最近の気候についてなど様々な話題が話されている。


(一応、報告では聞いてたけど、異世界なのに本当に話してる言葉の意味が分かるな)


 ピーちゃんは城門の方を見る。

 町に入るおかしな者がいないか、確認のための衛兵が立っている。


(えーと、確か検問所では、何の目的でこの町に来たのかを軽く聞かれて、荷物を多く持っていなければ、荷物も軽く見られて終わりのはず)


 周りを見る。

 茶色い皮を使った服を着ている人が多い。

 少しずつ、前に進んでいる。


(ふたりの装備も、ここの人達に合わせて皮装備で作ってきたし、見た目は馴染んでる……よね)


 2人の今の見た目は、明るい茶色の皮を使った、戦える旅人といった見た目をしている。

 リリは小物にこっそりと、歯車や金色の装飾をつけた。


(なるべく地味に作ったけど、着てるふたりが何着ても大丈夫なんじゃないかってレベルのかっこよさと、綺麗さだし、あんまり意味なかったかもね)


 自画自賛になるけど、と心の中でつぶやく。

 検問所まで、あと数人だ。


(仕方がないね、ふたりは我ながら会心の出来だからなぁ。気に入ったから、国作って城あげたし。まあ、順番は逆だけど) 


 次に検問所に、入るところまできた。


「お兄様、お願いします」


 ピーちゃんはサラの肩から、羽を伸ばしてアルバートの肩に触った。


「任せて、サラ」


 アルバートはサラを見て言い、ピーちゃんを見て頷いた。

 問題を起こさずに、ピー様を町の中へ入れてみせます、という使命感を持っているようだ。


 検問所の中は、荷物を確認するための机が置いてあるだけの、簡素な作りになっていた。

 検問所に入ると、対応する人数が他の人に対応するときよりも、多くなっている。


 ピーちゃんは思う、見た目がいいから、見に来たのかな。

 事実、今検問所にいる衛兵の何人かはアルバートとサラを見て、熱に浮かされたような表情をしている者もいる。


「お待たせいたしました。ご来訪いただき、ありがとうございます」


 偉い人だと思われてるのかな。


「丁寧な対応をありがとう。でも、普通の対応をお願いするよ」


 そして、アルバートは否定しない。


「そう言って頂けると助かります。では、あなた方のお名前と、この度グルークの町にお越しになられた目的を、お聞かせください」

「私はアルバート、彼女はサラ、これから旅をする予定なんだ。だから防衛ギルドに登録しようと思ってね」


 普通に会話が始まったね。

 でもグルークの町か、あの手帳の持ち主と同じ名前だ。


「防衛ギルド、ああ、冒険者ギルドになる前の名前ですね。防衛ギルドはかつて登録していた、伝説の冒険家グルークにあやかって、冒険者ギルドに名前が変わったんですよ」

「それは知らなかった。教えてくれて、感謝するよ」


 アルバートは、軽く頭を下げる。


「いえいえ、もしや冒険者ギルドがないのですか? かなり遠くからお越しになられたのですね。それでは、魔の森から黒の森に名前が変わったことも、ご存じではないのでしょうか」

「困ったな、色々変わっているんだね。よければ、理由を教えてもらってもいいかな」


 アルバートの質問に衛兵の厳めしい面構えをした男性は、破顔して続けた。


「ええ、もちろんです」


 誇らしげに話し出す。


「魔の森はグルークの最期の冒険となった場所です。グルークは、この町の仲間と魔法で連絡を取りながら、誰も見たことのない、魔の森の中心を目指しました」


 話す言葉に、熱がこもってくる。


「森の魔素に体を蝕まれながらも、懸命にグルークは森の中心に進んで行きます。そして、最後に彼はこう言い残しました。『黒の森、この森は黒の森だ』グルークが森の中心に行けたのか、何を見たのかは分かりません。でも、グルークが言い残した言葉が町中に広がって、いつしか、魔の森は黒の森と呼ばれるようになりました」


 こういう話が大好きなピーちゃんは、グルークのファンになった。

 グルーク!! と叫びたいのを、ピーちゃんは懸命にこらえる。

 サラが聞く。


「グルークさんのこと、詳しく調べられる場所はないのですか」


 よくぞ、聞いてくれたサラと、ピーちゃんのテンションがあがっている。


「それが、グルークについての資料館があったのですが、昨日の火事で全焼してしまって」


 それを聞いて誰が見ても分かりやすく、3人で肩を落とした。


「今は、また資料館を復活させようってことで、館長さんが頑張ってます。ですから、ある程度は知れると思いますよ」


 その後はあまり、覚えていない。

 たぶん、検問所の人達も、あまりの落ち込み様に話が聞きにくかったんだろう。

 持ち物と少しピーちゃんについて聞かれて、アルバートがピーちゃんについて命の恩人なんですと言ったら、それ以上聞かれずに終わった。

 冒険者ギルドの場所だけは聞いたことを覚えている。



 検問所を出た、3人。

 気分はずっしりと重かったが、せっかくグルークの町に来て、グルークがかつて所属していた冒険者ギルドに登録するんだからと、気分を切り替えて、ピーちゃんはアルバートとサラの頭に翼を乗っける。




「さあアルバート、サラ、資料館の件は残念だったけど、せっかくグルークの町に来たんだから気分を変えて、冒険者ギルドに登録に行くよ」

「そうですね、切り替えていきましょう」「そうですよね、せっかく来たんですから頑張ります」

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