第6話 復元

 拠点に戻り、ファーストが代表を務めているエリアである直轄地エリアに行く。その中央にある機械の国に建っているリリの自室のある機械の城、その中の中央発掘調査室で、回収したガラスの塊を復元している。

 中央発掘調査室には、いつもなら、巨人が入れそうな大きさの復元装置と、はけやメジャー、顕微鏡、頑丈な鎖などの載った大きな巨大な机、防音の壁のそばには本や調査器具が入った棚が並んでいる。

 しかし、今は机の上に載った物は片づけられ、今回の調査メンバーと発掘調査員が復元が終わるのを待っている。


 探索に参加したメンバーをリリが労っていると、全員に復元が完了した合図の音が聞こえた。


 巨大に作られた復元装置の中からファーストは、ガラスの塊の中に入っていたものを取り出した。取り出したものを、巨大な机の上に並べていく。


「えーと、これはリュックかな、あとは剣と杖。リュックの中身は何かな」


 皆でリュックの中身を広げていく。

 リュックの中身は手帳、金銀銅色の薄い小さな円盤、ポーションと思われるもの、あとはタオルなどの生活用品などが入っていた。

 円盤には真ん中に穴が空いていて、紐を通してある。

 発掘調査員達が、全ての物に〈保存〉をかけていく。


 リリは手帳を手にとって、開いてみる。

 そこには、リリが今まで見たことのないような形の文字が、書き連ねてあった。


(こういうところで、異世界って感じがするな……。でも、これくらいならなんとかなるね)


 リリは手帳を机の上においた。

 同時にアイテムボックスから、大量の紙を取り出す。

 そして


「〈複製〉」


手帳の下に魔法陣が現れ、隣に同じものが出来上がった。出来上がった手帳の分、先ほど取り出した紙が減っている。

 複製された手帳を、手にとる。


「〈翻訳〉」


 手帳の下から上に向けて、魔法陣が通り抜ける。

 リリは手帳の中を見てみる。


(無事に読めるようになったね。あとはこれをみんなに配って読んでもらって、意見を聞こう)


 翻訳本を机に置き。さらに大量の紙を取り出す。


「〈複製〉」


 翻訳本が2つに増える。 「〈2〉〈倍〉〈複製〉」


 翻訳本が4つに増える。 「〈4〉〈倍〉〈複製〉」


 翻訳本が8つに増える。 「〈8〉〈倍〉〈複製〉」


 ・

 ・

 ・


 出来上がった大量の複製本に


「〈範囲〉〈浮遊〉」


をかけてすべて浮かせる。リリの頭の上のあたりまで浮いている。

 そして


「〈複数指定〉〈移動〉」


複製本は全員のもとに一斉に飛んでいった。

 全員見事に、捕まえられたようだ。


 リリが全員に届いたか見ていると、ファーストがやって来る。


「リリ様、読み終わりました」

「早いな! えーと、どうやったの?」

「こうやりました」


 ファーストは手に持った本を広げ、パラパラ漫画の速度で捲っていき、瞬く間に読み終えた。


(すごいなぁ、まあファーストは機甲種だし、こんなもの、こんなもの)


「リリ様、内容について説明してもよろしいでしょうか?」

「うん、お願いするよ」

 


 ファーストの説明してくれた、手帳の内容から分かったことはこうだ。

 まずこの手帳の持ち主は、グルークという冒険家であること。

 彼は防衛ギルドというものに所属していて、そこでお金を稼ぎながら冒険家業をやっていたらしい。


 彼は最期の冒険として、誰も見たことがない魔の森と呼ばれる森の中心を目指し、まっすぐ北に向かって進んでいたようだ。

 彼が出発した町は、ほとんどの住民の種族が人のようだ。

 だが、ほかにもエルフやドワーフといったゲームにもいた種族が多くいる町や、その種族だけの町もあることが分かった。


 手帳の最後には、リリ達が今日見てきた魔素溜まりの周りにある木について、こう書かれていた。


 周囲の魔素を吸い取って、周りの土地を安定させる木がこんなに群生しているのに、ここの魔素の濃さは異常だ。

 もし、ここの木がなくなりでもしたら、世界は終わるのではないだろうか。


(うん、まあ最後の方はいいや)


 リリは最後の方を考えるのをやめた。


「ファースト、ありがとう」

「こちらこそ聴いていただき、ありがとうございます」


 ファーストは頭を下げる。

 リリはファーストを見ながら


「次やることはとりあえず森の捜索と、まだあるかは分からないけど、ここから南にある町で情報収集で問題ないかな?」


と聞く。


「現状の情報からですと問題はないかと、人員はどうしますか?」


 ファーストの質問に答えようとして、ここでふと思う。


 今まで全部、自分で決めていたけど、これからはそれはできないかもしれない。せっかく、大まかにとはいえ組織や、まとまりを作ってきたんだから、皆に任せてみるべきなんじゃないかな、と。


「ねえ、ファースト。森の方の調査の人員は任せるよって言ったら、ファーストはできそうかな」


 ファーストは驚いて、それはどういうことでしょうか、とリリに聞く。周りにいる全員が驚愕のまなざしで、リリを見ている。

 リリは安心させるように、目を合わせて笑顔で言う。


「全部任せようってわけじゃないよ。でもね、これからこの世界を色々と見て回るってなったときに、私ひとりじゃ対応しきれないかもしれないでしょ。だからさ、ファーストやみんなには、今ここでは何をする予定だから、どういうことができる人を配置したらいいかを、考えられるようになってもらいたいんだよね」


 いまだ、驚き固まっているファーストの手を、リリはとる。


「ねえ、ファースト。調査するってなったら、どんな才能を持った人たちが最適だと思う?」


 ファーストは迷いなく答える。


「盗賊や斥候、レンジャー、忍者といった才能を持った者達が、偵察に役立つスキルを持っているので最適かと思います」


 うんうん、と頷くリリ。


「じゃあ次に、森で探索するってなったらどこの人達が最適かな?」


 ファーストはこちらも迷いなく答える。


「森林エリアの者たちや、情報の国の者たちが森に精通し、偵察に役立つスキルを持っているので最適だと思います」


 じゃあ最後にと言って


「誰に相談したら、森の探索が得意な人員を確保できるかな」


と聞く。

 ファーストは、迷わずはっきり、と答える。


「森林エリアの代表のトレニアと、情報の国の局長アイに相談すれば、誰がどういったスキルを持っているのか、どういった種族なのかを知っているので、必要な人員が確保できると思います」


 リリはそれを聞いて、こう伝えた。


「完璧だよ。こうやって考えて人員を決めてね。やったことも、考えたこともなかっただけで皆できる能力を持ってるんだから、大丈夫。それに、最終判断は私がするよ。誰を選んだかは、紙に書いて教えてね」


 そこでリリはファーストの目を見て聞いた。


「どうだろう、できそうかな?」


 ファーストはリリの手を握り返し、跪き力強くリリを見つめる。


「はい、必ずやリリ様のお役に立って見せます。お任せください」


「ありがとう、ファースト、よろしくね。みんなもよろしくね」


 と言って周りを見渡す。

 全員が跪き、2人を見つめている。中には泣いている者もいる。

 リリ様が、我々に新たな役割を与えてくださっている、これがお2人の本来のお姿、精進せねば、などの声が聞こえてくる。


 リリは遠い目をした。


(人生で人に跪かれることってあるかな。でも非現実的で少し面白いかも、ここはノッた方がいいのかな。でも、その前に)


「トレニア、ちょっとこっちに来てくれる」


 トレニアが勢いよく飛んでくる。


「リリざまー」


 リリに張り付く。


(あー、トレニアはこっちかー)


 トレニアの頭を撫でながら聞く


「トレニアは、ファーストとアイと協力して人集められそうかな」


 トレニアは、リリに視線を合わせて答える。


「お任せ、ください。エリアの、ひと達は、全員、しってます」

「おー、さすがだね。さんにんで協力して頑張ってね。応援してるよ」


 頭をぽんぽんする。


(ああ、そうだ。せっかくだし、トレニアにも聞いちゃおうかな)


「ねえ、トレニア。人が多い町に調査に行くってなったら、ここにいるメンバーのうち、誰が最適だと思う?」


 トレニアはつっかえながらも、迷わずに答えた。


「ここにいる、メンバーから、選ぶなら、アルバートと、サラが、最適だと、思います」

「そうだね、トレニアも必要な人をちゃんと選べるね。これなら、任せても安心だね」

 

 顔を見合わせて笑いあう。

 最後にもう一度撫でてから、アルバートとサラの方に目線を送る。

 

 トレニアが離れる。

 リリはアルバートとサラの方へ歩きながら、声をかける。


「アルバート、サラ」

「「はっ」」


 リリは2人の前で止まる。

 2人に声をかけると物語でしか見たことのないような返事をされたので、リリは珍しいものを見たような顔をした。

 そして表情は楽しそうに、声色は固めに言う。


「2人には、この手帳に書いてある町で、情報収集をしてもらう。できるね?」


 ノッてしまった。

 アルバートとサラはリリの方をみて、真剣な表情で答える。


「「仰せの通りに」」


 アルバートとサラも乗り気なようだとリリは思う。

 リリは右腕を、胸の前に持ち上げる。


「それから、こちらとの連絡役かつ、情報収集の補助および、緊急時に転移を行う手段として、使い魔を連れっていってもらう〈使い魔創造〉」


 リリの右腕の上に1羽の、白い体に頭に少しだけ黄色い羽の生えた、オウムに似た鳥が現れる。


「名前はピーちゃんだ」


 ピーちゃんが話し出す。


「ピーちゃんって呼んでね、よろしくね」


 リリは思う。

 ピーちゃんにだけ、話をさせるのってやっぱり難しい。

 アルバートとサラは、ピーちゃんに向かって話した。


「「ピー様、こちらこそよろしくお願いいたします」」


 リリは2人を見る。


「そう呼んでもいいけど、そう呼んでもおかしくない、壮大じゃない理由考えといてね。あとたぶんピーちゃん使役獣扱いだよ」

「最初は、仕方のないことです」「それは、困ってしまいますね」


 アルバートとサラは、心底残念そうな顔をしている。


「そうだね。あとは、装備とかバックアップの人員とかは南に町があるか分かってから、用意しよう」


 リリはファーストの方を向く。


「南の町までの森の探索を最優先で行う、そのつもりで頼む」

「畏まりました」


 リリは全体を見まわして、声を張る。


「では、全員、これからこの世界の探索を開始する!」


「はっ」

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