第4話 転移ポイント設置
森の中を進む一行。
周りの木々は自ら淡く、光っているようだ。
そのまま歩いていると、広場を発見した。
「転移ポイントは、ここがよさそうだね。少しみんな離れてて」
そう言ってから、リリは広場の中心に移動し、手に持った旗印を突き刺した。
旗印を突き刺した場所を中心に、大理石でできた台座が、周囲を振動させながら出来上がっていく。台座ができていくと同時に、周囲の地面が持ち上がり、台座と同じ色の土台ができる。最後に四方に青龍、朱雀、白虎、玄武の彫刻が現れ、転移ポイントの設置が完了した。
リリは土台の上から27人を見ながら、
「設置が終わったから、ここでファースト達と待ってるね。みんなには森の探索をお願いするよ。何かあったら気軽に呼んでね。急いで駆け付けるよ」
と伝えた。
24人が3人ずつの班に分かれて、リリに近づいて、お任せあれ、お任せください、行って参ります、などと声をかけてから探索に向かって行った。
残った3人がリリの周りに、集まってくる。
ファーストが言う。
「リリ様、今回私たちはリリ様の護衛をさせていただくので、直轄地エリアの芸術の国から、アルバート・テノール・ホワードとサラ・ソプラノ・ホワードを、連れて参りました」
アルバートとサラはリリに、アルバートは胸に手を当ててお辞儀を、サラは金糸の入ったフリルのついたスカートの裾を軽く持ち上げお辞儀をした。
2人の金色の髪と白色の服に光が反射して、周りが輝いているようにも見える。
リリはああ、キラキラ兄妹の白い方だけ連れてきたんだねと思いつつ、2人を見て話しかける。
「アルバート、サラ、今日はよろしくね」
「はい、リリ様。私達兄妹2人、全力でお守りさせていただきます」
「こちらこそよろしくお願いします、リリ様。今日はリリ様の護衛を、精一杯つとめさせていただきます」
リリは2人に頷いてから、ファーストの方を見る。
「ファーストもよろしくね」
「はい、お任せください」
さて、待ってる間にすることはとリリは考え、先ほど魔素溜まりの中で疑問に思ったことについて、聞いてみることにした。
「そういえば、魔素溜まりを渡ってくるとき皆歩いてたけど、触ったら死ぬような場所が近くにあるのに、歩いてて怖くなかったの?」
すぐに答えが返ってくる。
「いえ、特に恐怖は感じませんでした」
アルバートは何か怖いことがあっただろうかと、思い返しながら話した。
リリは、アルバートが悩んでいる様子を見て、ファーストを見て聞く。
「正直、さっき使ってたスキルは感覚的なものだったから、飛んでた方が安全だったと思うけど、どうして歩いてたの?」
迷いなく答えるファースト。
「リリ様が歩いているのに、我々だけ飛ぶなんてとんでもありません。それに、魔素溜まりの無い範囲が狭くなって、触ってしまったとしても、それは触った者のミスです」
リリは少し迷って、ここまできたら聞いてしまおうと、思い切って口を開く。
「わざとだったら?」
「わざとであれば、なおさら問題はありません。理由があろうとなかろうと、リリ様がそうしたいと思ったのであれば、いいのではないですか?」
ファーストはまったく迷うそぶりもみせず、すらすらと答える。アルバートとサラも疑問に思うことはないようだ。
3人の様子に驚き、いやいや、それはおかしい、何を考えてるんだと思うリリ。ここで、彼らの考え方を知らないと危ないと、何かがささやいているような気すらしてくる。
そして、おもむろにゲーム中に作った、大量のクッキーが入ったかごを取り出す。
「これ毒入りだけど食べる?」
かごを3人の方によせる。
ファーストがよろしいんですか嬉しいです。アルバートはありがとうございます頂きます。サラがリリ様の手作りのお菓子なんてなんて素敵なのかしら。といった様子で食べる。
目を見開き、言葉も出ない様子のリリ。
追い打ちをかけるようにサラが、とても美味しいです。ですが毒は入っていないみたいですね? と言って、間違えてリリ様が出されていたとしたら、こちら食べてもよろしかったのかしらという確認をしている。
「何で食べたの……」
「食べてはいけないものでしたか?」
やはり物を間違えていらっしゃる? と不安げなサラ。
「物を間違えたという話じゃないよ! 毒入りって言ってるのに何で食べるの? 死ぬかもよ?」
3人は真剣な表情で聞き、ファーストが代表して答える。
「リリ様が御作りになったものを、食べないなんてもったいないことはできません。それにこんな美味しいもので、リリ様に殺していただけるのであれば、光栄なことではないでしょうか」
ついに、頭を抱えだすリリ。
それを見て3人が慌てている。
(何なんだ……、どうしてそんなちゃらんぽらんな頭してるのかな。というか、私に殺されるのはオールオッケーってこと!? いや、待って、つまり、それって……)
頭を上げ3人の方を、じとっとした目で見ながら、声を低くして聞く。
「1つ聞きたいんだけど、今回みたいに何かの任務中、ここで死んだ方が今後上手いこといきそうだなって、思ったらどうする?」
精神的に重圧を感じながらも、勇気をもって1歩前に進むアルバート。
そして
「それで、指示された任務がうまくいくのであれば、死ぬべきではないでしょうか?」
と言った瞬間
「アウトー!! 全滅する前に全員呼び戻すよ!!!」
というこの世界に来て一番の大音量が響き渡った。
27人が、転移ポイントの周りに集まっている。
各々がクッキーを食べている。
リリは空になったかごを持ち、台座の上に立って、残念なものを見るようにNPC達を見ている。
全員がクッキーを食べ終わったあたりで、リリが口を開く。
「はい、君たち、注目! みごとに! みごとーに全員、毒入りだよと言って渡したのに、食べてくれた残念な君たちに言わねばならないことがあります」
きちんと全員に声が届くよう、声を張って話す。
「まず第一に」
指を1本だけ立てる。
「毒入りだよって言われた飲み物、食べ物を食べることは禁止します。自分に悪い影響があると思うものは、全て、食べないでください」
うなずく者、さっきの食べてはいけなかったかなと思う者、残念そうにする者など反応は様々だ。
「次に」
指を2本立てる。
「わざと死ぬのは禁止します。ここで死ねば任務がうまくいくとか、私のためになるとかで死んではいけません。死なれると悲しいので最悪です。最低の行為だと、自覚してください」
理解してるかなと様子を見ると、驚いているような表情をしているものが大半で、リリとしては引いてしまう。
ないとは思うけど、一応と前置きをして続きを話す。
「もしも私が切りかかったり、魔法を打ち込んだりしたとしても、防ぐか全力で避けるように、決してそのまま死を受け入れないように」
リリには、彼らが不思議そうな顔をしているように見えた。そしてそれは呼び戻して正解だったと、確信を得るにふさわしい光景だった。
これは、うちの皆全員こう思ってるってことかな。それだと最後に話すことは誰も考えてもいなさそうだ。ちゃんと強めに言っておこうとリリは思い、指を3つ立てて伝える。
「最後に、嫌なこと、できないこと、苦手なこと、死ぬ以外にはどうにもできないのではと思うことに出くわした時は、すぐに連絡をするように。相談してどうするか決めます。あと嫌なことは嫌、無理なことは無理とちゃんと言うように、絶対だよ」
分かった? と最後に言ってリリは全員の顔を見渡す。
最初は不思議そうな顔をしていた彼らだったが、次第に嬉しそうな、楽しそうな雰囲気をまとい始める。中には笑っている者もいる。
リリは首をかしげる。
「なんで笑ってるの?」
そうすると、トレニアがやってくる。
「リリ様ー! 笑わないのは無理ですよー!!」
「どうして?」
デモクも、リリに近づいてきて言う。
「そんな、大事なもの、みたいなことを言われて、喜ばないのは無理ですよ」
2人とも笑顔を浮かべながら、リリを見ている。
そんな2人を見て、リリはむすっとした表情をする。きげんの悪そうな声で話す。
「大事じゃなかったら、こんな所までついてきたりしないでしょ。大事じゃなかったら、飛べば森まで行けるんだから、安全な自室で寝ながら報告を待ってるよ」
どうしてそんなことも分からないんだといいたげに、不愛想に言い放った。
とたんに真剣な表情になる一同、そしてプニプニがやってきて、
「必ずや、リリ様がご満足いただける結果を、手に入れてまいります!」
と言って固まるトレニアとデモクを触手で連れて行った。
3人が戻った一同の前で、ぼーんがリリ様に最善の結果を! と声を張り上げ剣を掲げると全員が、声で物が壊れるんじゃないかというような雄たけびをあげ、一瞬で3人を残していなくなった。
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