第2話

「おい、あれ、見ろよ」


 三人のうちのひとりが、箱の上で芸をしていた針ねずみに気づいて、あごをしゃくってみせました。


 小さな箱の上で小さな針ねずみがぴょんぴょん跳び廻ったり、くるくる踊ったりしています。


 三人の目に針ねずみは、喜んで嬉しそうに芸をしているように見えました。


 肩を揺らしながら元気の良い曲を吹いている笛吹きも、針ねずみに負けず劣らず愉快そうに映りました。


 そして、それを眺めている人々の楽しそうなこと。


 三人は見ているうちに、悔しくてたまらなくなりました。


 まず、ちっぽけな針ねずみが自分なんかよりずっと幸せそうなのが気に入りません。


 自分たちは誰一人として、あんなに面白い思いをしたことがないように思われます。


 また、自分たちは鼻つまみ者として皆から嫌われているのに、針ねずみと笛吹きが人気者なのも気に食いません。


「おい……!」


「ああ!」


「……やるか!」


 三人はお互いに目配せをしました。


 それだけで、三人の間では何もかも通じました。


一人がいきなり、皿の上の小銭をつかんで駆け出しました。


「おいっ、こらっ!」


 笛吹きが慌てて追いかけようと立ち上がり、人々が逃げた少年の後を目で追った隙を、もう一人が針ねずみを素早くつかんで反対の方向へ走り出しました。


「あ……」


 それに気づいた数人が声を上げるか上げないかのうちに、最後の一人が木箱を勢いよく蹴り上げて、また別の方向へ逃げ出しました。


 人々が右往左往する中を、三人は何人もの人を突き飛ばし、人込みを巧みにかいくぐって、たちまち見えなくなってしまいました。


 全てはほんの一瞬の出来事でした。


 あとには古い木箱がひとつ、ぽつんと虚ろに転がっているだけでした。



     *     *     *     



 小銭を盗んだ少年は、暫くして川べりの丈の高い草むらに座って仲間を待っていました。

 

 そこは三人の隠れ場所だったのです。

 

 少しして、箱を蹴り倒した少年が、もう少しして針ねずみをさらった少年が、草むらに戻って来ました。


「おい、うまくやったな」


「ああ、久し振りに面白い思いをしたよ」


「あの笛吹き、今頃、泣いているかもしれないぜ」


 三人はくつくつ笑って、小銭をばら撒いて山分けし、針ねずみをつまみあげました。


「おい、おまえ、何かして見せろよ」


 三人はかわるがわる針ねずみをつついたり小突いたりしました。

 

 今までそんな乱暴な扱いを受けたことのなかった針ねずみは、驚いて怖がって身をすくませると、すぐに身を縮めてしまいました。


「なんだ、何もしないで丸まっちまったのかよ」


「こいつ、案外、つまんねえな」


 一人がいきなり、縮こまった針ねずみを空高く放り上げました。


「こりゃ、面白いぜ」


 もう一人が、落ちてきた針ねずみを受け止めて、またすぐに空高く投げました。


 針ねずみはもう、生きた心地がしません。

 

 何度も投げあげられて、とうとう目を回してしまいました。






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