第12話『こいつはヤベェ』
タッタッタッタッタッ
小走り気味に部室へと向かう僕と先輩。
その手はなぜか繋がれており、しかもエスコートしているのは先輩だ。
どうして……こうなった?
正直、道中生徒たちの注目をもろに浴びてしまい恥ずかしかった。
まぁ、幸いなことにすぐにみんな興味が他に移ったのか途中からはそんなに目立たずに済んだんだけどさ。
「あの……先輩? もうすぐ部室ですしそろそろこの手を――」
離してくれませんか? と言おうとした瞬間だった。
「喰らえこのド天然主人公野郎がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
どこかで聞いた変態の声が聞こえた。
というかスケベ太郎だった。
どこから現れたのか、僕の懐に潜り込んでいたスケベ太郎は華麗な一撃を僕の鳩尾に叩きこんでくれた。
「ぐべぇ!?」
警戒なんて全くしていなかった僕はもろにそれを喰らってしまう。
たまらず崩れ落ちる。
そんな僕の目の前で仁王立ちするスケベ太郎。
「ほぉぉぉれ見たことかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 昨日知り合った先輩と二人っきりでお手て繋げてキャッキャウフフだとぉ……。どうせ内心では『どうしてこうなった?』みたいな事を考えてたんだろうがこの無自覚女たらし主人公め! 貴様は俺たちの敵だぁ!!」
「ぐぅ……」
色々言い返したいが、痛くてあまり声が出せないのと、内心考えていたことをピンポイントで当てられ、ぐぅの音しか出ない……。
でも、とりあえずこれだけは言っておこう。
「俺たちの敵って……スケベ太郎しか居ないじゃん……」
まるで自分以外にも僕の事をそんな風に見ているみたいな言い方はやめてほしい。
「う、うるせぇ! 居たんだよ! 他にも俺と志を共にする同士が沢山。だけど訳分かんねぇ集団に撃退されたんだよ。なんなんだよアレ!?」
「いや、そんな事を僕に言われても」
え? なに? つまりスケベ太郎には同士とやらが沢山居て、それで僕を襲おうとしたけど正体不明の集団に撃退されちゃったって事?
……ふむ、なるほど。
「スケベ太郎……とうとう現実と妄想がごっちゃになっちゃったんだね。強く生きるんだよ?」
「違うわ!!」
否定するスケベ太郎だけど、到底信じられない。
いやぁ、だってそんな漫画みたいな展開が現実にある訳がないじゃないか。
嫉妬に燃えて平凡な主人公に対して復讐しようとする男子たち?
それを撃退する正体不明の集団?
ははっ、まぁ漫画ならそういう展開もありかもね。
唯一惜しいのは、僕が平凡な主人公じゃなくて平凡なモブだという事かな。
「……プロレスごっこはいいから……はやくみんな……お昼食べよ?」
「「ふぇ?」」
そんな僕とスケベ太郎の手を取り、部室へと向かう先輩。
「ちょっ、先輩。一人でいけますから」
「おう。天然主人公は自分の右手でイッとけ。上屋敷先輩! 俺と一緒にイキましょう! お昼ご飯ですよね。任せてください! 俺のミルクは底なしですよ?」
「……到着(ガララッ)」
僕とスケベ太郎の手を両手で引きながら部室前に着いた先輩は、右足でドアを開けた。先輩、ちょっとお行儀悪いですよ?
そしてそこに並ぶ青春部部員たち。どうやら、僕たちが最後らしい。
そんな僕たちを――正確にはスケベ太郎を絶対零度の視線で射抜く女性陣+薫。
彼女たちは嫌悪感を漲らせながら一言、
「「「最っ低」」」
その単語はスケベ太郎に向け、放たれた。
……うん。廊下でスケベ太郎が言ってた卑猥ワードを聞いちゃってたみたいだね。
横を向くとそこには俯いて震えるスケベ太郎。
まぁ、無理もない。あんな視線に晒されたら誰でもへこむだろう。僕なら思わず死んじゃうね。
スケベ太郎はゆっくりと顔を上げ、女性陣+薫の方を向くと、
「ありがとうございます!!」
と、超絶爽やかな笑顔で言ってのけた。
こいつ……ヤベェ。
☆ ☆ ☆
「「「いっただっきまーす」」」
「……いただきます♪」
青春部部室にて、お弁当を広げる青春部員たち。
ちなみに全員参加だ。みんな、やる気あるなぁ。
中でも――
「あ、カオルン先輩、そのからあげ美味しそうですねー。一つもらってもいいですか?」
「う、うん。いいけど……」
「ありがとうございまーす。それじゃあ代わりに私のブロッコリーあげちゃいますね♪」
「あ、ありがと。――ってあれ? これ、陽菜ちゃんの嫌いなもの押し付けられただけなんじゃ……」
「さてさて、お次は……おっ、ミヤ先輩のお弁当もおいしそー。おひとつ貰ってもいいですか?」
「……いいけど……何かと交換……ブロッコリー以外で」
「うむむ……我が家秘伝のブロッコリーと交換でもダメですか?」
「ダメ」
「仕方ありません! それじゃあこのミートボールでどうですか? ミヤ先輩の卵焼きを所望します」
「……交渉成立」
「わーい。ありがとうございまーす。ふっふっふー、ミヤ先輩、かかりましたね。卵焼きというのは単純に作れるがゆえに料理人の腕がそのまま現れる料理なのです! つまり、これを食べればミヤ先輩の料理スキルが分かる!」
「………………(もぐもぐ)」
「ど、動じませんねミヤ先輩……。それじゃ失礼して(パクリ)。ふむふむ、なるほど。とろけるような甘味とそれでいて濃厚な味付けがってなんですかこれうんまーーーーーーい!!」
……陽菜のやつ、すごい楽しんでるなぁ。
というより場の空気を自分の物にするのがうまいというか……いやはや、たいしたもんだ。
「ひ……陽菜……ちゃん。もしよかったらこれも……ど、どう?」
「ほぇ?」
そんな陽菜に何かを勧める篠原さん。対する陽菜はそれまでの勢いを失い、一時停止して目を丸くしている。
無理もない。『あの』篠原さんが誰かに対して普通に話しかけていること自体珍しい事なのだ。
だって、僕やスケベ太郎にキッツイ言葉を浴びせたり、どうしても喋らないといけない時くらいにしか口を開かなかった『あの』篠原さんだよ?
私はあなたたちと馴れ合う気なんて微塵もありませんっていうオーラをずっと纏っている『あの』篠原さんだよ?
その篠原さんが他人の領域に土足でズカズカドカドカドコドコ入っていく感じの陽菜に普通に話しかけた?
これを大事件と言わずして何を大事件というのだろう。
「えと……ありがとうございます。これは……クッキー?」
「う、うん。みんなで食べるならまずはこういうのかなって。インパクト狙いでケーキとかアップルパイも考えたけどやっぱり最初は普通にしようって思ったの」
「ふむふむ、なるほど。……え!? もしかしてこれ栞奈先輩が作ったんですか!?」
なぬぅ!?
『あの』堅物でお堅そうな篠原さんがクッキーを作ってきたぁ!? それもみんなで食べる為にぃ!?
――なーんて、そんな事あるわけないよね。さすがにイメージと合わなすぎる。きっとどこかのデパートがどこかで買って来たやつに決まって――
「な、なによ……悪い?」
――作ってきたやつだったぁ!?
自分の髪をクルクル弄りながら挙動不審になっている篠原さん。めずらしく弱気だ。一体どうしたというんだ篠原さん!!
「いえいえいえいえ、そんな事は。い、いやー、さすが栞奈先輩ですね! まさかこんな隠し玉を用意しているなんて。私とした事がびっくらこいちゃいましたよ。それではお言葉に甘えていっただっきまーす!」
対する陽菜は何かを誤魔化すようにパクリと篠原さんの作ってきたというクッキーを一つ口に入れる。
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