第9話『良くできた妹』
また明日。
そう言って僕と上屋敷先輩は別れた。
先輩は僕に向かってずっと手を振っていた。小さく、だけどずっと振り続けていた。
お屋敷の前で小さく手を振る先輩の姿はなんだかとても小さく見えた。なんだか、今にも消えてしまいそうな儚さというか。だからこそ幻想的できれいに見えたというか……。
「不思議な人だったなぁ」
独特すぎる感性を持った上屋敷先輩。最初は『何なんだこの先輩』と関わり合いになった事を後悔していた。今でも多少はそう思っている。
だけど、それ以上に面白い先輩だなと思っている僕も居た。
「にしても、正義のせいでおかしなことになってきたなぁ」
まぁ、正義が持ってくる話におかしくないものなんて殆どないんだけど、今回は今まで以上におかしな事になっている。
「青春部……ねぇ」
今日の青春部での出来事を振り返る。
ほとんど自己紹介だけだった。それなのに、とても濃い一日だった。
超絶天然系美少女先輩。
明るすぎる後輩。
何かと突っかかってくる同級生。
スケベ太郎こと、基本スケベな事しか考えていない男。
僕の友人こと学園一の美少女(男)。
僕の友人パート2ことチート主人公系イケメン男子。
こうしてみると、かなり個性的なメンバーが集まったものだ。
まるで、意図して集められたんじゃないかと思うほどに変わったメンバーが集まっている。
「まぁ、そんなわけないか」
そんな変わった人たちをわざわざ集める意味なんてないだろうしね。
などと考えている間に到着する我が家。
上屋敷先輩の家と比べるまでもない普通の一軒家。これが僕と妹が住む家だ。
「ただいまー」
「お帰りなさい兄さん」
玄関のドアを開けるなり、妹の
僕の一個下の妹だ。
とてもしっかりした妹で、この家の家事全般を取り仕切ってくれている。僕にはもったいないくらいの妹だ。
「兄さん。少し帰るのが遅くないですか?」
肩下まで伸びるセミロングの白髪をサッと後ろにかきあげながら、桜は不機嫌さを隠さずに詰め寄ってきた。
どうやら今日は遅くなってしまった事で怒らせてしまったらしい。
「あれ、メール届いてなかったかな? 僕、今日から正義の作った部活に入ったんだよ。それで少し遅れちゃった。ごめんね?」
「いえ、その内容のメールは拝見しましたよ。ですけど、わが校の部活動が終わるのは遅くても午後七時です。今の時間、分かりますか? 午後九時ですよ? いくらなんでも遅くないですか?」
ああ、そう言えば部活があるから遅れるというメールは送ったけど、それだけだった。先輩の送り迎えに結構時間を使っちゃったからなぁ。途中で遅れるってメールをするべきだったかもしれない。
「ああ、ごめん。ちょっと先輩の送り迎えを任されちゃって」
「でしたら、その旨を私に伝えるべきだったと思いませんか? 私がいつも兄さんが帰ってくるくらいの時間に合わせて料理をしているのは知っていますよね? それとも、忘れちゃいましたか? 馬鹿だから」
更に温度の下がった冷たい視線を僕に向ける僕の妹様。うぅ……言い返せない。
「ご……ごめん。そこまで気が回らなかった」
「まったく兄さんは……。今から温めるので少し待っていてください。私もまだなので一緒に食べましょう」
どうやら桜も晩御飯はまだらしい。
「先に食べてくれても良かったのに……。もしかして、一緒に食べようと待っててくれてた?」
キッチンに向かおうとしていた桜が一瞬その動きを止めた。そして、もはや絶対零度ってこんなのかなと思うレベルの冷たい視線でこちらを見つめ、
「はぁ? 私が兄さんと一緒にご飯を食べるためにこんな遅い時間まで待っていた? 馬鹿を言わないでください。馬鹿で愚図でノロマな兄さんをこの私がわざわざ待つわけがないじゃないですか」
「ご、ごめん」
「まったく……単純にお腹がすいていなかったから食べていなかっただけです。勘違いしないでください」
そう言って桜はキッチンへと消えていった。
僕は桜から見えないように小さくため息をつく。
「はぁ……また怒らせちゃったな」
そう、『また』だ。
今日だけじゃない。
僕はいつも桜を怒らせてしまっている。
怒らせてしまう内容はいつも違うけど、僕に非があるものばっかりなので言い返すことも出来ないし、そもそも言い返す気もない。
むしろ、いつも怒らせてしまってごめんと思っている。
出来の良い妹の桜に対し、兄の僕は自分で言うのもなんだが出来が悪い。
だから、いつも怒らせてしまうし、冷たい視線で見られる。
僕は――――――桜に嫌われているんだろう。
兄妹だからと僕の世話を焼いてくれる桜だけど、それは桜が『良くできた妹』だからだ。
ありがたい事だけど、同時に申し訳なくも思う。
「ちゃんとしないとね」
桜に嫌われないよう、そして出来れば仲良くなれるよう頑張らなきゃ。
確かに桜にとって、僕は疎ましい兄なのかもしれない。
だけど、僕にとって桜はかけがいのない、たった一人の大切な家族なのだから――
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