第3話『異世界召喚!?』
「え!? なに!?」
「あー、これがアレですかー」
「な、なんだこれ!?」
「おーー」
各々がいきなりの異常現象に慌てふためく中、しかし僕と薫は冷めた目でそれを見つめて一言。
「「またか」」
見慣れた光景だったのでもうそれくらいしか言えない。
まばゆい光は正義を中心として展開している。変な幾何学模様がぐるぐる動いてその激しさは増していく。
その光の中心に居る正義は特に慌てた様子も見せず、しかし申し訳なさそうな顔をして、
「すまない。どうやら僕の力を必要としている人たちがいるらしい。椿、後は頼んだよ」
そう言い残し、光と共に部室から消失した。
……
…………
……………………
「ほら、椿。正義君に任されたんだから進行役よろしく」
「いや、そもそも僕はこの部活が何をする所なのかもまだ把握してないんだけど……」
「そういうのは私が把握してるから大丈夫なの! まずは自己紹介でしょ?」
「いやまぁそうだけどさ……というか薫が進行すればいいんじゃないの?」
「何を言ってるの椿? だって椿はこの部の部長なんだよ? 部長が仕切らないで誰が仕切るっていうの?」
「いつの間に僕が部長!? なんでそうなった!?」
「だって正義が部長になっても今みたいに……ねぇ?」
「いや、まぁ確かにその通りなんだけども! でもさぁ――」
「いや、そんな話をしている場合!? 正義君は一体どこへ? それに、さっきの光は一体なに?」
部室に響く篠原さんの鋭い声に、僕と薫は言い合いを一時中断する。
あぁ、そうか。
そう言えば篠原さんは知らない側の人間だったね。
正義か薫から説明されてる様子でもないし、そりゃ慌てるよなぁ。
「大丈夫だよ篠原さん。正義は――」
「ッ――気安く人の名前を呼ぶのやめてくれない? 不愉快だから」
「いや、ホント僕なんでこんなに嫌われてるの!?」
説明しようとした僕をバッサリ斬り捨てる篠原さん。
そろそろ心が折れそうだ……折れていい?
「ど、ドンマイ椿! えっとね、篠原さん。正義の事は心配しなくても大丈夫なの。これは、よくある事だから」
「よくある事?」
「うん。正義はなんだか異世界で大人気の物件らしくてこうしてしょっちゅう異世界召喚されちゃうみたいなの。もう私が知ってるだけでも百以上の世界に飛ばされては世界を救って帰ってきてるよ?」
「「「………………」」」
再び静まり返る部室の空気。知っていた人を除き、みんな薫の言った事を呑み込めないでいるようだ。
ちなみに、薫の言った言葉に間違いはない。
なんでもかんでもそつなくこなし、運動神経抜群の男。
その正体は……日常的に異世界に召喚されてはそのすべてを救う俺ツエー系主人公なのだった。
「ば……馬鹿にしてるの? そんなの信じられる訳――」
「だったら篠原さん? さっきの光について説明できる? まぁ私だって最初はすごーく混乱しちゃったから篠原さんの気持ち、少しは分かるけどね」
「………………」
口をパクパクさせながら絶句する篠原さん。何か現実的な理由を探しているんだろうけど、まぁそんなものが出てくるわけもない。
特に篠原さんってなんかフィクションはフィクションってきっちり分けてそうな感じがするからなぁ。すんなりと受け入れるのは難しいだろう。
「異世界召喚……だと……(ガシッ)」
「おぉうっ!?」
篠原さんとは別で呆気に取られていた
その顔は真剣そのものだった。
そのまま助平与太郎は動揺を隠すことのできない様子で言葉を紡ぐ。
「あの男……東堂正義……あいつは色んな異世界にポンポンポンポン旅行感覚で行ってるってのか?」
「え? いや、まぁ強制的に行かされてる訳だし、別に旅行感覚って訳じゃないような……」
「行っているんだな!?」
「え、あ、はい」
「ファーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーック」
「うわびっくりしたぁ」
天井に向け、突然叫びだす助平与太郎。
そのままさらに助平与太郎は怒りをあらわに怒声を上げる。
「つまり、あのクソイケメン野郎はこの学校の女子をたくさん誑かしたあげく、異世界のエルフのかんわいーい女の子やケモ耳っ子、鬼っ子、果てはお姫様みたいなファンタジー感のある女の子とお近づきになってるって事かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ガンッガンッと部室の壁に自分の頭を打ち付け続ける助平与太郎。
それは、どこに出しても恥ずかしくない。立派な異常者の姿だった。
「いや、まぁそんな事は……あるかもしれない」
何か声をかけようとも思ったが、フォローの言葉も見つからないのでやめた。
僕は正義が異世界とやらで今までどんな出会いと別れを繰り返したのか、おおよそ知っている。正義の語る異世界ストーリーはそこらにあふれている物語とは違い、妙な実感を持っている物語だからついつい夢中になって聞いてしまうんだよね。
「奴めぇぇ……異世界の女の子を独り占めするなんて……ますますもって許せん! 今度会ったら……土下座でもなんでもして俺も連れて行ってもらうってのもあり……か?」
なしだと思う。
そもそも正義の意思で飛び立ってる訳じゃないし、そんな不純な理由だと……ねぇ?
うんうんと怒りを収めて考え事を始める助平与太郎。
もうこいつの事は放っておこう……。
僕は場が落ち着いた? のを見計らい、ポーっとしている神屋敷(かみやしき)雅(みやび)先輩に声をかける。さっさと自己紹介をしてもらって解散といこう。
「神屋敷先輩? 自己紹介ってお願いできますか?」
「………………」
返事はない。ただの屍のようじゃない。普通に生きてる。
「神屋敷せんぱーい? 自己紹介いいですか~?」
少し声を大きくして先輩に呼びかけてみる。
すると、ゆっくりとこちらに顔を向かせ、
「……私?」
首を軽く傾けて逆に聞き返してくる先輩。なんか、小動物みたいだ。
「あ、はい、そうです。この中でまだ自己紹介やってないの先輩だけなんでおねがいしてもいいですか?」
「自己紹介……」
指を自分の口に押し付けて何か考え始める先輩。どういう風に自己紹介しようか考えているのかな? それはそれで可愛らしい話だ。
「……誰の?」
「……はい?」
「自己紹介……誰を紹介するの?」
「いや、自己紹介なんで先輩自身の事を話してくれればいいんじゃないかと……」
「私の?」
「はい」
「でも……私の事はもう私……知ってるよ?」
「いや、そりゃそうでしょうよ」
自分の事を知らない人って、もうそれ記憶喪失かなんかだしそもそも自己紹介なんて出来ないじゃないか。
「? 私の事、知ってるのに紹介? 難しい……」
「いや、先輩自身は自分の事を知ってるかもしれないですけどね? 僕たちがね? 知らないわけじゃないですか? だから色々教えて欲しいなーっと」
「? なんで知らないの?」
「むしろなぜ知っている前提!?」
「斬新……」
「そうですねぇ!! 先輩の考え方そのものが斬新ですねぇ!」
「……えへん」
「いや、褒めてねえよ!!」
「?」
僕のツッコミを受けてもきょとんとしている先輩。ダメだ……雰囲気が神秘的だのとか思ってたけど、先輩の思考回路は神秘的どころか宇宙的だった。
いや、自分でも何を言っているのか分からないけど。
「はぁ……」
「元気ない? 大丈夫?」
「……どこかの先輩の対応に疲れちゃいましてね……」
「大変だね?」
「本当にねぇ!!」
皮肉すら通じなかった。
仕方ない……こうなればこの手だ!!
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