第2話『自己紹介』
「さて、よく来てくれたね。皆」
正義と薫に連れてこられたのは校舎四階の空き教室。
そこに揃うのは篠原さんや僕を含む面々。知らない人も居るけど、この人たちも正義の部活のメンバーなんだろうか。
なんてことを考えながら、僕は改めて連れてこられたこの教室を見渡す。
しかし……なぁにこの教室?
僕の記憶が正しければここは机も椅子もないまっさらな教室だったはずなんだけど……どこから調達して来たのか、教室には不似合い極まりない高級ソファー&テーブルがあった。
更にそれだけじゃない。下には高級そうな赤い
とても学校の一教室にあるべき光景じゃない。
「? どうしたんだい、皆? そんな唖然とした顔をして……あぁ、すまない。配慮が足りなかったね。冷蔵庫には各種ドリンクや簡単につまめる物がいくつか入っているから遠慮なく利用してくれていい。まずはソファーにでも座ってゆったりくつろぎながらお互いに自己紹介し合おうじゃないか」
「違う! 確かに喉は渇いているけれどそういう配慮が欲しかったんじゃない!!」
「そうなのかい?」
「そうなんだよ!」
今、僕たちが欲しているのはこの部屋の惨状についての説明なんだ。
っていうかちゃっかり冷蔵庫まであるのか。とことん学校にあるべき姿じゃないよなぁ。
まぁ、立っているのもなんだしソファーには座らせてもらうけど。他の面々も勧められるがままにソファーへと着席する。
そんな中、集まった面々の内の一人が違う行動をとる。
動いたのは桃色髪の少女。
少女は桃色髪のツインテールを揺らしながら冷蔵庫へと駆け寄り、その扉を開け放つ。そして、
「うわぁ、本当に色々揃ってますねー。それじゃあ私はドクペ貰いまーす」
「貰うんだ!? っていうかなんでそんなマイナー飲料まであるの!?」
冷蔵庫からドクペを取り出し一口飲む。
そして少女は缶をテーブルに置くと、
「さて、それじゃあ私からいきまーす。一番! 一年二組の
勢いよく自己紹介をする僕の後輩、佐藤陽菜。
パチパチと控えめながらも拍手の音が部屋を包む。
相変わらずコミュ力の化け物というべきか……場の空気を明るくする天才というか……凄いなあ。
まぁ、そういうの多分何も考えてないんだろうけど。
「はーい、じゃあ次は二番の先輩、お願いしまーす」
しかもちゃっかり正義主導だった空気を自分の物にしちゃってるし。まぁ僕に被害がこなければどうでもいいんだけどさ。
「「「…………」」」
そうして静まり返る空気。二番の先輩とやらが声を上げないからだ。
……仕方ない。
「薫、佐藤さんが自己紹介してだってさ」
「え? 私?」
「じゃーなーくーてー! バッキー先輩の番ですよぅ。冗談が過ぎるんですからもぅーー」
バシバシと僕の背を叩いてくる陽菜。
ぐぬぬ、僕のようなモブに陽キャたる自分の後の自己紹介をさせるなんて……。
なんて卑劣な真似を……。
少し逆襲しておこう。
「あーはいはい、分かりましたよお姫様。とりあえずそんなにはしゃいでるとスカートの中が見えそうでドキドキしちゃうんで大人しくしてもらえます?」
「あ、見ます?」
………………逆襲失敗。
そして僕は陽菜の『見ます?』という問いに対して、
「………………見ません」
と、毅然たる態度で答えてやった。
と、当然だよね!!
「そうですかー。今日のは自信あったんですけどねー」
「ふ、ふーん」
ま、まぁ興味なんてこれっぽっちもないけどね。
全然全くこれっぽっちも見たかったなんて思ってないからいいんだけどね!
「ハッ――」
そんな僕をまるでゲスでも見るかのような目つきで睨んでくる
いや、自分なーんにも不埒な事考えてないんでちょっとその目をやめてもらっていいですか? 泣くよ? 泣いちゃうよ?
このままでは心がポッキリと折れてしまう。
そう思った僕は手早く自己紹介を済ませることにする。
「えー、二年二組の
「初めまして。私、椿の妻の
僕の完璧に地味な自己紹介を遮ってドデカイ爆弾を放り込んでくる薫……ってなに言ってくれちゃってるの!?
「ちょっ薫!?」
呼び止めるが、薫の暴走はまだ続く。
「それと、椿の趣味は読書とかテレビ鑑賞。とにかくたくさんのお話を見たり、聞いたりするのが好きな男の子です。好きな物は現実離れした何か。身長は169センチ、体重は63キロ。視力は1.8で特に大きな病気にかかった経験もなく、手術経験もなし。就寝時間は毎夜二十二時から二十三時の間くらい。朝は五時に起きて筋トレの後に軽いジョギングに出かけ、七時には帰宅。妹が一人いて、名前は
「人の個人情報をこれでもかと広めるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわわわ」
薫の頭を押さえてぐりぐり振り回して自己紹介を中断させる。これ以上僕のプライバシーを侵害することは許さない!
「っていうかホントなんで僕の個人情報知ってるの!?」
「ふふ、何でもは知らないよ? 椿の事だけ」
「怒られるからその言い方やめい!! そして怖いよ!」
「怖いなんて酷いなぁ。私はただ椿のお嫁さんになるために努力し続けているだけだよ?」
「努力の方向がおかしいしそもそもその目標もおかしいんだよぉぉぉぉぉ!」
「てへ♪」
そんな可愛らしくウィンクしてもちょっとしかときめかないから止めるんだ!
……ホントだよ?
しかし、念のために頭の中で呪文を唱えておこう。
薫は男、薫は男、薫は男、薫は男、薫は男、薫は男。
「あらら、バッキー先輩まーた自分の世界に籠っちゃった。それじゃあ次は――」
「それじゃあ、俺が」
立ち上がる名も知らぬイケメン。
「初めまして。二年三組の
爽やかになんかすんごい事言ってる!?
あまりにもおかしい自己紹介に一気に現実に引き戻されてしまった。
「佐藤陽菜ちゃん……だったよね? いやぁ、君はいつ見ても本当に可愛いね。お喋りが好きだって言っていたけどどうだろう? この後、俺とホテルでピロートークなんてどうかな?」
「お断りでーす」
「はは、相変わらずつれないなあ。それじゃあ甘菜さんはどうかな? いつも照れて返事してくれないから俺もう溜まっちゃって溜まっちゃって……」
「話しかけてくんな変態」
「ふふ、照れちゃう君も可愛いね」
「話しかけんなっていってるでしょ。もう……心臓止まっちゃえばいいのに」
「ふふっ、俺の心臓はとっくのとうに甘菜さんに射抜かれてしまってるよ」
「ならもう死んで。不愉快だから」
「やれやれ、困った猫ちゃんだ」
しょうがないなぁと言わんばかりに肩をすくめる助平与太郎。
あの篠原甘菜の口撃に対して物怖じすらしないなんて……只者じゃない。
「二年二組、
そしてどさくさに紛れて簡潔に自己紹介を終える篠原さん。
あの……全くよろしくされている気がしないんだけど……。
「さて、次は僕の自己紹介と行こうか。僕は――」
「「「あ、間に合ってます」」」
正義の自己紹介を僕含むみんながスキップ。この学校で正義の事を知らない人は居ないし、自己紹介なんて不要だろう。
「そ、そうかい? それじゃあ次は……
「…………」
先ほどから全く発言せず、今も何も喋らない神屋敷とやら。
彼女は今、ソファーに座りながら窓の外をぼーっと眺めていた。
サラサラしていそうな黒のストレートヘアー。身長は低く160センチもなさそうだけど、出るところは出ている。美人系の女性。
その部分に大人の女性が持つような(偏見)色気を感じる。
今まで見かけた記憶がないし同級生ってことはないだろう。となると、先輩かな?
「神屋敷さん、どうしたんだい? もしかして……恥ずかしがっているのかな? そんなに緊張する必要はないさ。あなたは確かにこの中で唯一の上級生だけれど、それを気にする者なんてこの中には――」
そこまで正義が言った瞬間だった。
部屋をまばゆい光が覆った。
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