第4話『青春部』
「行け! 薫、そして陽菜! 君に任せた」
秘儀、コミュ力高い二人の召喚(他人任せ)!
友達の多い薫と陽菜ならきっと先輩に自己紹介をさせてくれるはずだ。
「えぇ、丸投げ? 椿……部長としてそれでいいの?」
「あははははは、まぁまぁカオルン先輩。それだけバッキー先輩に頼りにされてるって事じゃないですか。私たちでミヤ先輩を倒しましょう!!」
「え!? 倒しちゃうの!?」
「……かかってくる」
「先輩もなんだか乗り気だね!? なんで!?」
「では……一年二組、
「……三年一組。
「え!? えと……えと……二年二組、
そうして今、壮絶な戦いが――
「はい、自己紹介終わり! お疲れ様でしたー」
始まらずに終わった。
☆ ☆ ☆
「それで薫さんや」
「なぁに? 椿?」
「結局この部活ってそもそも何をする部活なのさ?」
全員の自己紹介が終わったところで、僕はずーっと疑問に思っていたことを薫に聞いた。
なんで僕が部長になってるんだという事も問い詰めようかとも思ったけれど……あの正義から頼まれたっていうのがあるからなぁ。無下には出来ない。なので、部長云々に関してはひとまず横に置いておく事にした。
そうして何の部活かという僕の問いに薫は一言、
「青春だよ」
とだけ答えた。
「青春? 青春って言うとあの青春? 青春時代の思い出が~~とかいうあの青春?」
「そうそう。若い世代……つまり私たちくらいの年齢の子が夢や希望、後は恋愛なんかに一生懸命になる事かな」
「ふむふむ。で、その青春さんをどうしろと? 抹殺でもすればいいのかな?」
「なんで青春さんを殺しちゃうの!?」
そりゃあだって……僕みたいなモブに縁のない青春さんなんて抹殺するくらいしか思いつかないじゃないか。
「違うよ! 私たちが、青春を、謳歌することを頑張る。それがこの青春部だよ!」
あー、なるほど。青春を謳歌するための部活ねえ……。
学校の部活動で……青春?
「いや、そんな部活が学校に認められるわけ――」
「ねぇ椿。あの正義だよ?」
「ものすごい納得した」
そうだ。この部活を作ったのは正義だった。
あいつなら涼しい顔でどんな難題でもこなすだろうからなぁ。
学校側にこんな部活を認めさせるのなんて訳ないか。
「っていう事はなに? この場に居る人たちは皆、青春を謳歌するために集まってきてるの?」
「何よその言い方。馬鹿にしてるの? ホント、アンタのそういうとこ大っ嫌い」
僕の言葉に反応して篠原さんが一歩前に出る。
そして僕に向けて指を突きつけ、
「それに、私の入部理由はそんなのじゃない。私の入部理由はアンタよ。
「へ? 僕?」
篠原さんの入部理由が僕?
――ハッ。そうか……。
「なるほど……同じ部活に入れば僕をいつでも始末できる……そういう理由だね?」
「違うけど!?」
僕の立てた推測をバッサリ否定する篠原さん。あれ? 違うの? 入部理由が嫌悪している僕だと言うからてっきり僕を抹殺しようとしているのかと思っちゃったよ。
「いつもいつもふざけて……アンタのそういう所、ほんっとうに気にくわないわ。だからね……私があなたを調整……いや、修正? えーと――」
「もしかして篠原さん? 調教かな?」
「そうそう、調教するためにこの部活に――って何を言わせてるのよそこのスケベ!!」
「あはは」
篠原さんに罵倒され、それでも笑っている助平与太郎。
うん、こいつはもうダメだ。
まさにエロスの化身。助平与太郎……うん、これからはスケベ太郎って呼ぶことにしよう。苗字も
「とにかく! 私はあなたのその性根を叩きなおす為にこの部活に入ったの! 覚悟しておきなさい。その周囲を馬鹿にしくさった態度。徹底的にぶち壊してあげるんだから!」
そう言ってフンと腕組みをする篠原さん。
別に馬鹿にしくさってるつもりなんてないんだけどなぁ。
全く……何を言っているのか本当に……分からない。
「まぁ、篠原先輩はそんな特殊な入部理由ですけど、私を含めるみなさんは青春を謳歌するために入部してるはずですよ?」
いや、陽菜さんや。
あなたもう十二分に青春を謳歌してるじゃないっすか。
それなのにまだ青春を追い求めるの? それはなに? 青春ブレイカーたる僕への挑戦なの? ねぇ?
「陽菜はもう十分に青春を謳歌してるじゃん……」
「なーに言ってるんですかバッキー先輩! 青春するのに十分もなにもないですよ! それに、ここって個性的なメンバーが揃ってるじゃないですか。そんな先輩たちとの活動だなんて……面白そうじゃないですか!」
「あ、うん。理解したよ」
要するに興味本位ってやつか。
まぁ確かにここには僕を除き、個性的なメンバーが溢れている。
「……ねぇ椿。今、自分の事さらっと個性的なメンバーから外さなかった?」
「薫。僕の心を読むのは止めようか。プライバシーの侵害だよ?」
「椿が分かりやすすぎるんだよ……。一応言っておくけど椿も十分個性的だからね?」
「ばんなそかな!?」
僕が個性的!?
彼女もいない、異世界に行った経験もない、友達もそんなに多くない物語のモブ的立ち位置に居る僕が個性的!? 嘘だ!!
……いや、待て。こうは考えられないか?
個性的な薫たちから見て僕が個性的に見えるんだとしたら……逆に客観的に見て僕は個性的じゃない、という事になるのでは?
個性的な人が普通の人を見れば逆に個性的だって思う心理がある気がするし……。
そもそも僕が個性的なんて事、ある訳がない。
うん、やっぱり僕は無個性のモブ野郎だね!
危ない危ない。危うく騙されるところだったよ。
しかし、モブの中のモブである僕を捕まえて個性的だなんてちゃんちゃらおかしいよね。思わず笑っちゃいそうだよ。
「クククククク」
「うん、椿。そんな不気味な笑い方をしている時点で十分個性的だからね?」
何やら薫が言っているような気がしたけれど、よく聞こえなかった。
「俺の入部理由もみんなと青春を謳歌したいから、という事にしておこうかな。花宮さんに誘われてね……はぁ」
なぜかため息をつきながら悲し気な瞳で薫を見つめるスケベ。どうしたんだろう?
「こんなに可愛いのに男って……俺は……男に告白してしまったというのか……」
「告白って……アレの事? だとしたら最低の告白だったね?」
「ぐぅ!!」
薫からの辛辣な言葉を受け、その場に蹲ってしまうスケベ太郎。
まぁ何があったのかは何となくわかったから気にしないでおこう。スケベ太郎が学校のアイドル的存在である薫に対して変態的言動をしない理由にも納得した。
ちなみに、薫の事を男だと知らないで玉砕するスケベみたいな男子は多いが、恐ろしいことに男だと知りつつも告白する男子もこの学校には居る。
この学校……大丈夫かな?
「あ、ちなみに助平くんの本当の入部理由、私は知ってるけど……言いたくないな。みんな察してくれると嬉しいかも」
薫は顔を赤くして俯いてしまう。
そういう態度が多くの男子を魅了してしまっていると分かっているんだろうか? 分かっていないんだろうなぁ。
まぁスケベ太郎の入部理由はきっとスケベ的なものだろう。
何の因果か分からないけどこの部には外見が整ってる女の子が多く集まってるみたいだし。一応恋愛も青春の一部だという事で薫や正義も入部を許可したって所かな。
まぁ、スケベが恋愛をしようとしているのかはかなり疑問だけど……。
――って待てよ? この部活の目的が青春を謳歌する事だって言うんなら、
「という事は、神屋敷先輩も青春を謳歌するためにこの部活に?」
「?」
僕の問いに対し、首をかしげる神屋敷先輩。
いや、そんな不思議そうに首をかしげられましても……。
「あー、違う違う。そうじゃないの椿。上屋敷先輩だけは別なの」
見かねた薫が横から口を挟んでくる。
「と言うと?」
「上屋敷先輩はその……なんていうか……少し変わってるじゃない?」
「それは凄く思う」
というより、少しどころかかなり変わっていると思う。
ある意味、この部で一番個性的なのは上屋敷先輩なんじゃないかな。
「だからその……この部活を立ち上げる時に先生から条件を出されててね?」
「条件?」
一体どんな条件を出されたんだろう?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます