流れでデート(仮)にこぎ着けたって話

「こんなに可愛いのに、

 なんで男子は天宮さんを

 いじめたりしたんだろうね」


「えっ??」


 天宮さんは困惑の色を見せた。

 独り言めいた呟き、

 それも恥ずかしくなるくらいの

 賛美入りのものとなると

 どう反応していいか

 分からなくなったのだろう。

 やらかしてしまった。


「え、あ、いや、

 その…………だって、

 天宮さんって素直で

 あどけなくて優しくて、

 よく笑ってくれてさ、

 その笑顔だって和ませてくれる。

 一緒にいて楽しい

 気持ちにしてくれるのに、なんでかなって」


 臆面しながらも

 あるがままの思いを口にした

 後ならば爽快な心持ちになれるはずだ。


 それなのにそうならなかったのは、

 天宮さんが口の端だけで

 笑むような淋しい顔をしたからだった。



「そう、言ってくれるのは

 嬉しいんだけどね。

 私なんか全然ダメダメだし、

 ほのちゃんに頼ってばかりで

 なんにもできない。

 いじめられたのだって、

 もう何年も前のことだっていうのに

 ……忘れられないの。

 恨みや憎しみがまだ消えない」



 彼女の顔が翳る。


 ミステリアスと

 呼ばれ続けてきた彼女だけど、

 これほどまでに

 深い闇を抱えた表情を

 見せたことはなかっただろう。

 何か底知れない悩みを

 未だに抱え続けている、

 そんなような気がしてならない。



「天宮さ――」


「〝柚子ちゃん〟って、

 LINKで相談してから

 ずっと呼んでるね。

 勝手に呼んじゃってるけど、

 迷惑じゃなかった?」


 控えめに見上げる目。

 天宮さんは女子の身体の俺よりも

 やや背丈が小さい。

 小柄だけど蠱惑的な

 色気を持つ立花さんに対し、

 彼女は華奢で愛らしい

〝守りたい俺だけの女の子〟

 みたいな可憐さがある。

 一言で言うなら、

 大人の女と純潔の乙女だ。 



「迷惑なんてとんでもない!

 ――私は天宮さんに気を許して

 もらえたのかなって思えて、

 嬉しかったし」


「そ、そっか、それなら良かった

 ……ねえそれなら、

 あたしのことも――」


 天宮さんが恥じらいながら

 何かを言いかけた瞬間、

 彼女の背後に忍び寄る陰があった。



「あ、あの、お二人さん?

 お楽しみのところ悪いんだけど、

 次天宮の番だからさ……」



 健志は呼び掛けるために

 彼女の肩付近まで手を近付けた。 

 視界にそれを入れた

 彼女は大慌てだった。

 まるでゴキブリが

 肩に乗っていたかのような

 剣幕で彼の手を振り払う。



「いやぁあああああっ!!!!」


「ぶ、ぐっふぁぇぇぇ……

 ありがとうございますぅ////」



 突き上がるアッパーカット、

 その勢いで後方に倒れていく健志。

 第二撃目で股間に

 蹴りを炸裂された

 男の末路とはいかに。



 普通の男なら悶絶して激痛で

 失神してしまいそうなものだが、

 彼はそういう

 ヴァイオレンス的なものに

 興奮する性癖を

 持ち合わせているので、

 甘んじて痛みを受け容れ、

 ぷるぷる震えながら

 至福の表情を浮かべていた。


 あいつそろそろ、

 規制がかかるんじゃないだろうか。



「たっだいまーって、あれ。

 何やってんの?」


 軽快なステップと共に

 トイレから帰ってきたはずの

 立花さんは俺たちの惨状を見て、

 ぽつりそう呟いたそうな。


「何、やってるんだろうね……

 はは、私にも分かんないや」



 すると彼女は大して

 興味もないといった風に、



「そっか。

 まあこのキモイのが

 何かしたんやろ……ったく、

 本当にこいつ連れてきた

 意味あるんだか……」



 ぶつぶつと文句を言っている言葉は

 俺や神への当てつけにも思われたし、

 心から天宮さんを

 心配しているからこそにも思えた。



「おーいみんな、

 二ゲーム終了したけどどうする?

 もうお昼食べに行く?」



 一人段差を降りてきたのは

 最後の投球者に

 なっていた神だった。

 スマホで時間を確認すると

 もう十一時五十分になっている。

 今からゲームを始めては

 お目当ての場所に入れないだろう。



「そうだね、そろそろ行こっか」


「異論なーし。

 うちもちょうど

 お腹空いてたとこやしな。

 どこ行くんやったっけ?」



 俺と神が顔を見合わせて

 にやりと一笑する。


「「ミクドナルド!!」だよ」



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