流れでデート(仮)にこぎ着けたって話

 

 あの後立花さんからの

 猛ブーイングが起こり、

 白紙になってしまうのかと思いきや


「ほのちゃんや

 柚子ちゃんも一緒なら、

 怖くないかも……」


 という鶴(天宮さん)の一声で

 計画はすぐ実行に

 移されることとなった。

 というのも、

 それを言ったのが金曜で翌日土曜日の

 全員の都合がついたからである。



「ユーズー。次、ユズの番だよ」


「あ、うん。今行くー」



 神に呼ばれて

 俺は固いソファから腰を上げた。

 階段一つ分の段差を登り、

 見るからに派手やかで

 ギャラクシーな球体に

 指を突っ込んだ

 ――まあ言うまでもなく

 ボウリングの球である。


 そいつを抱えて歩を進め、

 流れるような所作で投球すると

 それはごろんごろん言わせた後に

 ピンを静かに、

 しかし全て倒しきっていった。



「よっしゃ!」


 思わずその場で

 ガッツポーズを決め込むと、


「……っふ、

 柚子ちゃんて男勝りなんだね。

 でも格好良かったよ」



 天宮さんが手で

 口元を覆い隠しながら破顔一笑する。

 天使さえ

 思わせるような甘い笑顔だ。


 ――そう、俺たちは金曜日に

 遊びを計画してから

 二十四時間を待たないうちに

 それを現在進行形で実行している。


 コースは

 男子三人の独断で決定したが、

 金銭的な問題が絡んでくるため、

 コースは事前に伝えてある。

 この計画のために

 LINKグループさえ

 作ったほどまでした。


 それにしても……。


「天宮さん、

 今日の服装

 すっごく似合ってるね!」


 俺は言うに合わせて、

 さりげなく天宮さんの

 隣へと腰を下ろした。



「そ、そんなことないよ……!

 私なんか、だし。

 でも、ありがと」


 申し訳なさそうに手を振り、

 天宮さんは

 礼儀のために微笑んだ。


 シフォン素地で作られたブラウスは

 首周りに折り返しがあり、

 それには花柄の刺繍が

 あしらわれている。

 袖口も一部がきゅっと締められていて

 その先はふわりと膨らみ、

 手の甲を半分ほど覆い隠していた。

 トップスに対して

 ボトムスは素朴な碧色の

 ショートパンツだった。

 ゆったりさとぴったりの差が

 全体的な引き締め効果を

 生み出しており、

 美脚効果まで発揮していた。



 本当に可憐で

 胸が弾みすぎるあまり

 鼻息を荒げそうなほどなのに。

 彼女はお世辞と思って頑なに

 この手の褒め言葉を信用しない。

 謙虚すぎるのも考えものだ。



「本当にかわい――」


「何、奏にちょっかいかけてるん、

 閑さん?」



 気配を消して背後から

 そぉっと現れたのは立花さんだった。

 彼女の投球が

 ちょうど終わったのだろう。


 鎖骨から胸元にあたる

 デコルテラインたるものが

 惜しみもなく露出された

 シンプルな白のカットソーに、

 草木で染めたような

 グラデーションが美しい

 緑のエスカルゴスカート。


 それらは、

 はしたなさという

 短所を押さえつつ、

 隠された色気というのも

 殺していなかった。

 ちなみにいつもは

 二つに結われているだけの

 お下げ髪が今日はゆるい

 三つ編みになっていた。


「ちょっかいだなんてそんな……!

 女子同士でそういう言い方は

 おかしくないかな?」


 彼女の的を射た指摘に

 内心冷や汗でぐっしょり、

 今にも目が泳いでしまいそうだ。


「ま、それもそうやね。

 ごめん、

 ちょっとからかいすぎたわ」


 と彼女は意外と引き際が良かった。

 なんだ、からかうのが

 好きなお茶目女子だったのか。


「でもまあ、

 しつこく言い寄ってる

 ナンパ男みたいだったけどね」


「ほのちゃん!!」


「うち、お手洗い行ってくるわー」



 と嫌味を言い捨てて

 トイレへと消えてしまう。

 学校では天宮さんのことで

 脅してきたり

 キレ散らしたりと、

 短気さが目立つ彼女だが、

 存外飄々としている

 人物なのかもしれない。

 俺の心を見抜いていたのか否か、

 判断しようもないが

 実に食えない人だ。



「もう、ほのちゃんったら

 すぐ先入観で

 人嫌いするんだから……

 気を付けてって言ってるのに。

 ――あ、

 今のは気にしないでね!

 それと、ほのちゃんのこと、

 嫌わないであげて」



 彼女は一息吐くと、

 誰かから受けた優しさを

 思い出すような

 ほわりと柔い笑みを浮かべる。



「ほのちゃんはね、

 入学してすぐの頃

 まだクラスの誰とも馴染めてない

 あたしを見つけて、

 友達になってくれた優しい子なの。

 だから柚子ちゃんに

 冷たくしたり

 意地悪しちゃうのも

 あたしを心配してだと思う……

 もし、本当に嫌で

 気分を悪くしてるなら言ってね。

 あたしからやめるよう

 説得するから」


 彼女はふんすと顔に力を込め、

 胸の前で握り拳を二つ作った。



 なんて愛らしい子だろう。

 

 一緒にいるだけで和まされる。

 もし、男嫌いのせいで

 交友関係が狭まってしまったなら、

 それはすごく勿体ないことだ。

 こんなにも周りに気を配って、

 よく笑って、仕草が可愛くて、

 思いやりに満ち溢れている

 素敵な人だというのに。



 そう思う反面、

 誰にも知られたくないよう

 とも思ってしまう。

 手に入れてすらいないのに、

 これは一種の占有欲だろうか――。


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