喋る前から印象最悪ってどゆこと?

 

 天宮さんから

 友達との関係を修復したい

 という相談を受けた翌日のこと。


 今日は学校から

 強制で受けさせられる

 実力模試の関係でコマ割が変則的だ。

 通常一コマ五十分の授業に対し、

 テストは一科目

 六十分とやや長い。

 そして試験教科は英・数・国の三教科だ。

 試験を三ついっぺんに行うには

 昼休憩を大きく過ぎてしまうので、

 一科目だけ午後に行うらしい。


 そのせいで

 夏休みが空けて間もない

 というのに昼休憩がある。


 午前に英語と国語の試験を終え、

 残すは数学のみとなった昼休憩。



 テストの間の緊張感から解放された者、

 端から試験になんて目もくれていない者、

 など様々な生徒がいた。


 このクラスは比較的、

 進路が成績に

 左右されにくいため後者が多かった。


 俺は数学が苦手なので

 本来はまだ重荷みたいなものを

 抱えているはずだったが、

 今日は割と後者と

 気持ちを分かち合えるかもしれない。



「――初めまして立花穂乃花さん、

 少しお話ししませんか?

 ……天宮さんのことなんですが」


 俺は試験が終わり、

 号令が告げられたと同時に

 立花さんの座席へと足を向けていた。

 そのせいで逃げる間も、

 隠れる間もなかった彼女は

 突如現れた謎の転校生の言動に

 困惑しているらしかった。


 けれど、

 ある一つのキーワードに

 彼女は著しい反応を見せたのだ。



「どうして、

 あんたが奏のことを

 知ってるみたいに話すん?」


 それは不愉快極まりない

 と言いはしないが、

 そう思ってはいそうな顔付きだった。


 まるで自分が知らないうちに

 天宮さんと

 誰かが仲良くなるなんて

 あり得ないとでも言わんばかりに。



 しかし彼女の容姿は

 元々人を不快にさせるような

 要因はほぼない。


 栗色のふわふわ髪は

 耳下で緩い二つ結びにされており、

 鎖骨くらいまであった。

 顔は薄卵色をしていて、

 丸顔のせいなのか頬が

 ふっくらもっちりとして見える。

 目は一重で、

 鼻は特徴がなく

 唇は肉厚で血色の良い赤色だ。

 顔の雰囲気や背丈は可愛らしいのに、

 健康的で艶のある唇や

 小柄ながらも曲線美のある体型は

 男の欲求をかき立てるような

 危険さを醸し出していた。


 近くで見たり

 話したことはなかったせいか、

 やけに緊張感が走る。 


「昨日、お昼ご飯を

 一緒させてもらったんですよ

 ――そんなことより、

 どうして天宮さんと

 過ごさなくなったんですか?」



 天宮さんとの関係を

 他人に踏み込まれたくないのか、

 自分の知らぬ間に彼女が

 誰かと親しくなっていたのが

 許せなかったのか

 立花さんは眉間に皺を寄せた。

 ここまでくると怒りが露骨だ。


「別に、

 あんたには関係ないやろ」



 彼女はそうやって

 冷たく言い放つと、

 ふんとそっぽを向いてしまった。


 おかしい、

 俺の知っている立花さんは

 他人に優しくて穏やかな

 雰囲気の子だったのに……

 まるで別人だ。



「関係はないかもしれないけど

 ……天宮さんが

 自分のこと責めてたよ。

 立花さんがいなくなったのは

 自分のせいなんじゃないかとか、

 戻れないのかなって。

 それは関係ないことじゃないでしょ」



 関係ないと言われたことの

 仕返しをしてやると立花さんは

 ぐうの音を出なかったらしく、

 ピクッと反応したばかりで

 何も言わなかった。

 ついでに敬語もやめてみたが、

 そちらへの言及もない。

 さして興味はないのだろう。



「…………それ、本当?」


 しばらくして出てきた

 問いかけとこちらを窺うような

 不安で揺らぐ瞳には、

 天宮さんを大事に思う

 気持ちが表れていた。


 そんなに大事なら

 離れなきゃいいのに、

 なんて言いたくなるくらいだ。



「本当だよ。

 天宮さんはまた話したい、

 戻ってきてほしいってそう言った。

 もし、立花さんが

 天宮さんのことが

 嫌になって離れたんじゃないなら

 戻ってあげてよ」



 他人の俺にそこまで言われて

 立つ瀬がなくなったのか、

 立花さんは肩を落として

 しゅんとしおらしい顔付きになる。

 物静かになった彼女は

 可憐と言うよりは妖美だった。 



「……分かった。奏のとこ戻るわ。

 訳は話されへんけど、

 今までみたいに

 昼一緒したり話したりする。

 うちかて、そうしたかったし」



 彼女は頬を指先で掻いて、

 苦笑いのような

 気まずい笑みを浮かべた。

 つっけんどんな

 態度を取っておいて

 大人しく相手の意に従うのが

 やりづらかったのかもしれない。

 まぁ、なんだっていいけど。


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