憧れの人からの悩み相談(2)
『あたしはまた、その子と話したい』
『戻ってきてほしいよ』
の二文だけだった。
だけどその気持ちというのは
過分であるほどに伝わってくる。
『それなら、
そのために行動しようよ。
大丈夫、一人じゃないから』
私がいるよ、
とまではあまりにベタで
気恥ずかしさに
耐えられそうにもなかったので
控えておいた。
しかし、ほどなくして届いた
天宮さんからの返答は、
『ありがとう。柚子ちゃん』
それとゆるきゃらの
猫のアルビノをモチーフにした
ねこまくんが号泣しながら
♥を抱き締めるスタンプだった。
スタンプってやつは
こういう簡素な文にこそ
活躍するものだなあ。
言葉で埋めきれない内情の部分を
自分から見せてくれるだなんて、
本当に有り難いものだ。
『あと、一つ教えてほしいことが
あるんだけど――』
俺は天宮さんからの相談を終えて、
神のいる元自室の前に立っていた。
というのも、
神に指図されて話し掛けた子の
秘密をその日中に知り、
その日に悩みを相談されるなんて
なかなかどうして
不自然に思えたからだ。
神という存在さえなければ、
疑いようもなかったのだけど
今は紛れもないそいつが家にいる。
疑うなという方が無茶な話だった。
もし神が仕組んだことなら、
何かしらの
手助けをしてくれるのでは
と思い至った結果だ。
コンコンコンと
ドアをノックすると、
中から「ど~ぞ~」と
気の抜けた挨拶が返ってきた。
ドアノブに手を掛けて
部屋に入った先には
ポテチを食しながらスウェット姿で
漫画を読み漁る神の姿があった。
しかもよく見ると
右手ではスマホを操作している。
「あの、さ、神」
「なんですか~構いませんけど、
急にユズの方から
やってくるだなんてぇ~」
神は依然として漫画を読み進め、
こっちを向こうとしないまま
喋り出した。
口と態度がまるで別なのだが……。
「なんだよ、
俺から来たらいけないのかよ」
そう膨れると
神は急に漫画を読むのを止めて、
漫画をぱたんと閉じた。
そして気怠そうに身を起こすと
俺の方に正面を正して、
「だって、君はボクのことを
嫌っているでしょう?」
と自嘲めいた笑みを
見せたのだった。
俺は一瞬のその言葉に
ヒヤリとした。
本当に何か悪いことでも
したような気分になったのだ。
しかし、
「ボクは君のことが
嫌いではありませんけどね」
と付け加えたのを見て、
俺を脅すためだけの
演技なのだと気付いた。
「相談したいことがあって、来た。
これで文句ない?」
「ええ、文句ありません。
何より、ボクは
相談に来てくれたのが嬉しいのですよ」
むすっとした
無愛想な表情を浮かべる
俺とは逆に、
彼はにこついたように
朗らかな顔をしてみせる。
「それはおかしいだろ。
それならどうして、漫画読みながら
ポテチ食ってたんだよ」
神はなめたような
薄笑いを浮かべ、
ふふふと声を出して笑った。
「そんな、お膳立てして
待てまでしなきゃいけない
なんてことはないでしょう。
ボクはこれでも
神なのですからね。
それに、考えもなしにこんなことを
行っていたわけでもありませんよ」
彼はさっと立ち上がると
俺の目の前までやってきて、
こう囁いたのだ。
「相談というのは
天宮奏のことでしょう?
そしてその用件というのが、
彼女の友人である
立花穂乃花という女子生徒との
仲を復縁させるためには
どうしたら良いか?
――ではありませんか?」
耳元でしたり顔を
浮かべたような声が響き、
途端に俺は身体を震わせる。
神はそれに合わせて身体を離した。
「な、なんでそれを……
まさか、神の力で読心術とか使って?」
「いいえ、隣の部屋にいる
君の独り言の盗聴と事前に
スマホに入れておいた
遠隔操作アプリ(スマホ版)
というものを使って君のSNSを
盗み見ていただけですし、
それに――」
彼は真顔でしれっと言い放ち、
含みのある間を持たせて、
「彼女は願いをかなえるべき
一人目の女の子ですからね」
と告げた。
「そういうことなら
アドバイスとかくれない?
さすがにノーヒントで
解決するには情報が少なすぎるよ」
女心にしても、
二人の関係性にしてもだ。
「もぅせっかちですねぇ~
今回の件については
性急さを要するというわけでも
なさそうですが、
まあいいでしょう。
記念すべき初の女の子
お悩み解決となるわけですから」
神は煌びやかな雰囲気をしょって
爽やかな笑顔を貼り付けたまま、
こう続ける。
「ボクから与える
アドバイスは一つです、
立花穂乃花に凸しなさい」
ドヤ顔+腰に手を付ける
というさも自慢げな彼と、
俺は心の距離を置こうと思った。
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