憧れの人からの悩み相談

 

 帰宅して、

 ベッドの上で制服を脱ぎ捨て

 部屋着に着替えていると、

 不意にスマホがピロンと鳴いた。



「ん?

 誰からだ……っぉおおお!!」



 むさ苦しい雄叫びを上げ、

 俺はベッドから勢いよく立ち上がった。


 というのは、

 スマホの待機画面に表示された

 名前が今日登録された

 ばかりのものだったからだ。


 足が浮つくような心持ちで

 LINKを開くと、

 天宮さんとの

 チャット画面が表示された。

 背景設定は

 デフォルトのままで薄い

 雲のかかった青空が描かれている。


 しかもまだ個人チャットには

 吹きだしが

 埋め尽くされておらず、

 初々しさなるものが漂っていた。



「んー未だに信じられないなあ、

 天宮さんと

 LINKできるだなんて……」



 夢現とまではいかないまでも

 胸がいっぱいだ。


 ところが夢心地気分でいた

 俺とは相反して、

 LINKの内容というのは

 ややもすれば沈んだ気分で

 綴られたようなものだった。



『ねえ閑さん、

 急にこんなLINK送るのも

 変だって思ったんだけど、

 どうか聞いてくれないかな?』


「ん? 何これ、変なのー」


 相手が目の前に

 いないのをいいことに

 俺はそんな本音を漏らした。


 しかし、

 この文面を深読みしてみると

「何も訳を聞かずに話を聞いてほしい」

 というものだ。

 それを抜きにしたって、

 今日見知ったばかりの

「友達」と呼べるかも

 怪しいような子を頼るだろうか、普通。

 それを考慮すると、

 これはただの愚痴とか

 そういったものとは 

 また別の意味のものだと思った。

 だからこそ長期戦になるだろうと、

 俺は腰掛けていたベッドにごろんと

 寝転がって

 ようやく返答を打ち出した。



『私でいいなら聞くよー』



 じぃっと

 スマホの画面を見つめる。



「…………えいっ」



 人差し指で確定+送信を押すと、

 ポッという音がすると

 同じくらいに画面へ

 文字が表示された。

 Eメール時代はこういう風に

 送受信の一斉表示がなかったから、

 何度もやりとりをするには

 不便な物だった。


 既読がつき、

 ほどなくして返信が来た。



『ありがとう』

『それじゃあ話すね』


 二つのメッセージが届いてから

 しばらくの間があった。


 何か不具合でも

 あったのかなと思えば、

 数分後画面の半分を

 覆うような文面が送られてきた。



『あたしのお友達にね、

 立花穂乃花っていう子が

 いるんだけど、

 夏休みに入るちょっと前から

 急に話して

 もらえなくなっちゃったの。


 昼休みも放課後も

 ずっと「忙しいから」って。


 あたし嫌われるようなこと

 しちゃったのかなって思って

 一生懸命考えたんだけど、

 分からなくて。

 思い切ってその子を

 捕まえて言ってみたの。

 あたしが嫌な思いさせたなら

 教えてって。


 だけどその子は、

「奏が悪いんじゃないよ、

 これはうちの問題やから。

 だからごめん、

 今は一緒におられへん」って、

 手を振り払われちゃった。


 あたし、

 本当に嫌われちゃったのかな?』



「なんでだろう、

 天宮さんあんなに可愛くて、

 一緒にいて和ませてくれるのに」



 単なる外見の可愛さという

 話ではなく、所作とか仕草とか

 その人ならではの味というものが

 彼女をより魅力的に見せてくれる。

 遠くから見ているだけの頃は

 知らなかったが、

 彼女の凄さを知るのは

 近くにいてこそだ。


 それなのに

 一緒にいないというのは

 相手にとってはそれほどの

 間柄でなかったのか、

 よほどの事情があるからなのか

 ……何にしてもどうにかしたい。


 こんなに

 相手のことばかり考えているのに、

 相手がそうじゃないなんて

 やっぱり淋しいから。



『それは大変だったね……』


『大事な友達がいなくなったら

 寂しかったり

 辛かったりするのは当然だから、

 誰かを頼ってもいいんだよ』


『だけどね、

 ただ愚痴や悩みを

 聞いてほしいだけなのか、

 今のトラブルを解決へと

 導く手助けがほしいのか、

 どちらなのかだけ教えてほしい。


 そうじゃないと、

 余計な気を回しちゃいそうだから』



「これでよし」


 俺は指先のタップで

 三つ目のメッセージを送信し終え、

 ごろんと大の字に寝転がってみた。


 十分ほど返信を待つ間に

 うつらうつらしていた

 重い目蓋を擦りながら

 LINKを開き直すと、

 天宮さんからの返事が届いていた。


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