関西弁で話しかけてくるオルゴール

母さんが死んだ。東京に引っ越してきてから、十年後のことだった。


苦労の多い人生だったに違いない。

和歌山で生まれ育った母さんは、大阪に勤めていた父さんと出会い、結婚した。

僕が中学に上がる頃、父さんは東京本社への転勤が決まった。僕達はいやおうなく、東京に引っ越した。

しかし間もなく二人は離婚。母さんは慣れない地で苦労しながら、僕を育ててくれた。


母さんはいつまで経っても関西弁が抜けなかった。よく耳にする大阪風の関西弁ではない、妙なイントネーションの方言だった。

一方の僕は、早々に方言を無くして、東京語で喋れるようになっていた。僕自身は大阪で育っていたから、時々大阪弁を出してクラスメイトを笑わせたりもしていたけれど。


東京に引っ越すまで、母さんはオルゴール職人だった。時々夜中に、自分が昔作ったオルゴールを鳴らしていたのを覚えている。装飾のない無骨な金属製のオルゴールで、ハンドルがたまに引っかかることもあった。

母さんが初めて作ったオルゴールだと言っていた。


葬儀の日、僕はそのオルゴールを母さんの棺に入れた。せめてものお礼のつもりだった。これからようやく、親孝行できると思っていたのに。


火葬が終わると、葬儀社の人が僕に黒ずんだオルゴールを手渡した。

金属製だったから燃え残ったのだ。


僕はそのオルゴールを鳴らしてみた。

爪が歪んで、イントネーションのおかしな曲が流れた。

まるで母さんの方言のようだった。

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