ヘルメット
「ヘルメットには二種類あるそうです」
狭いスタッフルームに、全従業員が集まっていた。総勢二十人弱の、小さな会社だ。彼らの前を、刑事は堂々としたたたずまいで歩いていた。
「釈迦に説法かもしれませんが」
「いえ、話してください」
工場長が理知的に言う。現場主義だが理論も好む、まさに文武両道な人物だった。
「知らない者もいるでしょうから」
刑事は工場長に目配せして、話を続けた。
「簡単に言うと、上から物が降ってきたときに頭部を守るタイプと、自分が上から落下したときに頭部を守るタイプです。そして後者の方は、内部に衝撃緩和剤などが入っており、重いそうです」
へえ、という声が従業員たちから漏れる。事務員だけでなく、現場作業員も感心していた。やはり、この工場の安全教育レベルでは、そこまで話さないらしい。
「……さて、武藤さんを殺した凶器は、彼のヘルメットでした」
刑事は言葉を強調した。
「彼の工場で使っているヘルメットではなく、バイク用のヘルメットでした。彼が殺されたのは更衣室。すぐそばには、どちらのヘルメットもあった。なぜ犯人は、わざわざバイク用のヘルメットを使ったのか?」
「強度が違ったってことスか?」
従業員の一人が聞く。刑事は頷いた。
「ここの従業員は全員軍手をしてますから、指紋の心配はない。だから彼のバイク用ヘルメットでも、指紋が残る心配はない。となれば、咄嗟に強度が強い方を使ったとして、不自然はない。落下物から守るヘルメットより、落下時に守るヘルメットの方が、重い。つまり、殴った時の衝撃が強い。そして、この工場の安全教育レベルを考えると、それを知っているのは……」
刑事は工場長を指差した。
「あなただけでは、ないですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます