第4話「魔王が倒されたなんて聞いてないっ!!」

 それからは休息を取りつつ、北の地を目指した一行だった。


「……ここから、魔族の領地のようだな」


 先頭を進む勇者レオは足を止め、呟く。

 そこから先はなんのスキルがなくても分かる程禍々しい雰囲気を帯びていた。


「なぁ、みんな、一番の幸運ってなんだと思う?」


 これが最後の雑談になるかもしれないとハルノは2人に質問する。


「ふむ、魔王を倒せることかな」


「私は、魔王がいないことね」


「俺は別の人が倒してくれていることかな」


 レオ以外の幸運はたぶん叶わないだろうと覚悟を決め、一歩を踏み出した。


                ※


  意外なことに北の地は文明的な暮らしをしており、ハルノたちを見ても襲い掛かるどころか、名産品の温泉饅頭やチョコレート菓子の黒い恋人などの試食を勧めてくるくらいであった。


「なんか、普通に良い暮らししてますね」


「うむ。これなら諸悪の根源である魔王さえ倒せばよさそうだ」


「ちょっと、2人とも見てよ! 美肌泥パックですって! これで10代の肌にって。ここ下手したら私たちの国より、いいところじゃない? 私、このままここに住んじゃおうかしら」


 フーコは本気かウソか分からないセリフを吐く。


「その前に魔王討伐だ。その後は好きにリフレッシュすればいい」


「ホント! なら、私の聖なるボディブローで一発で床に沈めてやるわっ!」


 シュシュと殴る準備を整える。


 そうこうしながら歩いていくと、中央に大きな城が見えてくる。


「明らかに、ここって感じだな~」


 城の近くまで行くと、大きな看板。そこに『魔王カンパニー』と書かれていた。


「ここであっているようだな」


 3人は意を決して突入しようとすると、


「キミたち、ここの関係者かい? 今、ここを通す訳にはいかないんだけど」


 柔和な声音だが、恰好は鎧を着込んでいる。

 魔王の門番なのかと身構えていると、


「あっ、出て来た。危ないから下がって、下がって」


 門番風の男に下げられると、薄暗い通路から、マントを頭から被された男が、同じく門番風の男二人に縄で拘束され出てくる。


「はい。退いて、退いて!」


 そのまま、馬車で男は連行されていく。


「えっと、何があったんですか?」


 ハルノは門番風の男におずおずと聞くと、


「ああ、うちの魔王がね。急にヒトは敵だ。戦争だって言いいはじめまして、モンスターを事故を装って野に放つわ、秘密裡に武器なんかも仕入れるわでやりたい放題だったんすよね。後処理をするこっちの身にもなってほしいですよ。まぁ、それだけの事してたので逮捕になりました」


「へっ!? 逮捕?」


「そりゃあ、そうでしょう! 別にヒトと争う必要もないですし、前回の戦争が160年前でしたっけ。そんな昔のことなんて知らないですし、いまある平和を壊してまで魔王に従うものでもないでしょう?」


「ま、まぁ確かに」


「でしょう! そもそもこれが国民の総意ですからね。一国の王でも捕まる時代なんですよ。これが民主主義だと思いますね。それじゃ、自分もそろそろ戻らないと」


 門番風の男は走って去っていった。


「えっと、仕事場がなくなったな」


 前世でも同じ体験をしたハルノだったが、今回のは素直に幸運だったと思えた。


「案外、ハルノの幸運が歴代でも飛びぬけて凄かったって説もありかもね。私なんて回復魔法使えるのに一回も使わなかったし」


「うむ。血が流れないのがなによりだ」


 レオは温泉を、フーコは泥パックを堪能したりし、旅の疲れを癒した。


 ハルノは――


「あっ、そこの方、お財布落としましたよ」


 自信の力を少しだけ誇りながら、夜店が並ぶ道で財布を手に取った。

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異世界転生! 幸運の、三毛猫オス獣人になって、勇者と聖女と旅するなんて聞いてない!! タカナシ @takanashi30

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