28高校受験当日~ミツキ~

「じゃあ、お互い試験頑張ろうね。」

「ああ。」


「自信がなくなってきた。俺に応援の言葉をくれ。」

「まあ、なるようにしかならない。」


 ミツキは受験会場であるA高校に来ていた。どうやら、A高校には同じ中学からミツキの他に2人の生徒が受験するようだ。中学では、同じ高校を受験する生徒は、一緒に会場に行くことになっていた。

 一人は、ミツキと同じクラスの「青木智志 (あおきともし)」で、ミツキと同じサッカー部に入っていた。同じクラスで同じ部活だからといって、ミツキはヒナタ以外の他者との交流を極力避けていたので、青木とは親しくなかった。


 もう一人は、ヒナタと同じクラスの「山本尊 (やまもとたける)。ヒナタと仲が良かったと記憶していた。ヒナタと同様にクラスで人気の男子だった。


 ちなみに、ヒナタとミツキの幼馴染の女子は、学力が足りずに、最終的に私立の女子高を受験していた。


「二人が合格して、俺がA高に入学しないことを知ったら……。」


 ミツキは面倒なことになったと思った。自分は仮に試験に合格していたとしても、A高に行くことはない。二人がそれを知った時、周りにどう言いふらすのか心配だった。


「まあ、なるようにしかならない。悪い方向に進まないことを祈るしかない。」


 とりあえず、目先の受験に集中しよう。そう思い、二人と別れて受験室を探すミツキだった。


「ええと、受験する教室は……。ここか。」


 受験する教室はすぐに見つかった。早めに家を出たせいか、教室にはまだ数人しか受験生とは集まっていなかった。


「隣にヒナタがいないと、なんか違和感だな。まあ、これからはそれが普通になるんだが。あのくそばばあのせいで。」


 自分の席に着き、ミツキはぶつぶつと独り言をつぶやく。あたりに人はいなかったので、ミツキの独り言は誰にも聞かれることはなかった。




「では、試験を始めてください。」


 ミツキは、ヒナタと相談した通り、白紙で回答を出すことはしなかった。結城彰人が家庭教師をしてくれたお陰もあり、問題を楽々と解くことができた。彰人は、母親のいうことは聞かずに、ヒナタとミツキ、両方に平等に勉強を教えてくれた。県内トップの進学校といえども、その中でも上位に食い込めるだろうというくらい、問題に手ごたえを感じていた。


「こんなにできたのにな。できたのに通えないなんて……。」


「回答をやめてください。解答用紙を集めますので、そのまま待っていてください。」


 試験は無事に終了した。


「やっと終わったか。結果なんか俺には関係ないから、気楽だな。」


「ミツキ。一緒に帰ろう。」

「難しかったな。」


 ミツキが帰宅する準備をしていると、一緒に受験した二人が声をかけてきた。二人に会うのは、もう何日もないだろう。せいぜい卒業式までの数日である。特に文句はなかったで、ミツキは二人と一緒に帰宅した。







 私立、県立それぞれの高校入試が終わり、あっという間に卒業式がやってきた。卒業はするが、いまだに自分の進路先が決まっていない生徒が多かった。受験自体は卒業式前に行われたが、結果は卒業式後に発表されることになっていた。


 双子は最後までモテモテだった。制服が学ランだったので、ボタンを欲しいという女子が多く、特に制服に未練がなかった双子は、言われるがままにボタンを渡していた。


「やっと三年生も卒業か。あの双子も無事に卒業出来て何よりですね。」


「そうですね。双子のことは大変でしたが、それでも私にとっては、大事な生徒の一人でした。卒業出来て良かったです。」


 双子の担任はやっと双子が卒業したと内心で清々していた。


 双子の母親は、卒業式に参加することはなかった。


 こうして、中学生活は幕を閉じたのだった。

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