27高校受験当日~ヒナタ~
いよいよ、今日はA高校の受験日だった。ミツキは朝早く、受験のために家を出た。ヒナタはすでにK学園の試験を終えているので、今日は一日、休みだった。そのため、家で母親と一緒に過ごすこととなった。
「ミツキは大丈夫だろうか。まあ、頭の出来は俺と同じだから、普通に試験を受ければ問題ないと思うが……。」
ヒナタは、K学園の試験当日のことを思い出す。試験問題は、さすが難関校ということもあり、難しい問題が多かったが、それでも、ヒナタにとっては解けないほどの問題ではなかった。だからこそ、自分と同じ頭のミツキは、試験は問題ないと思ったのだ。
問題は、受験した人間の方だった。ヒナタは、K学園の受験当日に面倒な人物とはちあわせることとなったのだった。
「受験室は……。」
ヒナタは受験する部屋を探していた。同じように受験室を探す人は多く、廊下ではたくさんの受験生でにぎわっていた。
「あった。ここか。後は席だが……。」
教室に入り、自分の席を探していた。ほどなくして席は見つかり、ヒナタは席に着く。あたりを見渡すが、自分の知り合いはいなかった。自分たちを知っている人物がいないことをヒナタは願っていた。
「もし、知り合いがいたら、俺達がしようとしていることに気付かれるかもしれない。まあ、俺達が入れ替わったところで、気づくやつもいないと思うが、心配事は少ないほうがいい。」
「おや、ヒナタじゃないか。奇遇だなあ。お前もK学園を受験するとは意外だわ。」
ヒナタに声をかけてきたのは、一人の男子学生だった。声をした方に目を向け、声の主を確認して、ヒナタは顔をしかめた。ヒナタはその男子生徒を知っていた。
「杉浦大地(すぎうらだいち)か。」
ヒナタの中学の隣にある中学校の生徒であり、彼らは部活で知り合った。ヒナタもミツキもサッカー部に入部していて、市内大会で一緒に試合をしたことがあった。なぜか杉浦はヒナタたち双子が気にいったようで、試合があるたびに話しかけてきた。
「なんだよ。そのそっけない態度。そういえば、弟のミツキはどうした。お前ら、いつも一緒だっただろう。」
「杉浦に答える必要はない。」
ヒナタは杉浦が苦手だった。同じ中学の生徒たちは自分たちと付き合いが長いため、双子を間違うことは少なかった。しかし、杉浦は他校の生徒であるにも関わらず、双子を間違えたことが一度もなかったのだ。だからこそ、ヒナタは杉浦に苦手意識を持っていた。
「ふうん。まあ、この教室にいないということは、受験しないということなんだろうな。確かに俺には関係ない、か。」
「それでは、試験開始前ですが、試験の際の注意事項を話していきたいと思います。」
杉浦は納得していない顔だったが、教室に試験監督の先生が入ってきたので、そこで二人は会話を止めた。
「お互い、合格できるように試験を全力で頑張ろうぜ。」
杉浦とヒナタの席は前後の席となっていた。杉浦と水藤で前後の席になるのは仕方ないことである。ヒナタの背にかけられた言葉に、ヒナタは無視をして、試験開始前まで持参した参考書を確認していたのだった。
「それでは、試験を始めてください。」
K学園の試験が始まった。解答用紙に鉛筆で回答するカリカリという音、試験問題をめくる音が教室に響きだす。ヒナタも杉浦も他の受験生と同じように問題を解き始めた。
試験は午前と午後に別れて行われた。午前の試験が終わり、昼休みになった。ヒナタの中学でK学園を受験した生徒はヒナタ一人だった。杉浦も同じなのだろう。同じ中学の生徒に会いに行く様子はなかった。
「やっぱり、難関私立校だけあって、問題は難しかったな。」
「俺に話しかけるな。うっとうしい。」
席が前後のこともあり、杉浦は、前の席のヒナタに話しかけながら持参した弁当を食べ始めた。それに対して、そっけない態度をとるヒナタだが、杉浦がめげることはなかった。
「もし合格したら、4月から一緒の高校ということになるな。その時はよろしくな。」
「……。」
ヒナタは完全に無視をすることに決めた。その後も何度も杉浦はヒナタに話しかけるが、数分もすると、あきらめたのか、静かになった。
「試験をやめてください。」
午後の試験も終わり、すべての試験内容が終了した。ヒナタはほっと一息ついた。これで、やっと家に帰ることができる。家に帰ったところで、安心できるというわけではないが、それでも弟のミツキに会えるのが楽しみだった。双子が一日一緒にいない日は珍しかった。普段の学校生活では、休み時間のたびに廊下に出て会っていたので、今回のような一日顔を合わせないことはなかった。
「やっと終わったか。ヒナタは、これから一人で帰るだろう。俺と一緒に帰ろうぜ。いろいろ積もる話もあるだろう。」
一息ついたところで、杉浦が一緒に帰ろうと誘ってきた。確かに隣の中学なので、帰宅する方向は途中まで同じであるが、そこまで一緒に居る必要はない。
「お前くらい社交的だと、他の奴らとも仲良くなれるだろう。わざわざ俺と一緒に帰る意味がわからない。俺は一人で帰りたい。」
さっさと荷物をまとめて、教室を出てしまおう。そして、杉浦をまいてしまえばいい。ヒナタはそう考えて、急いで荷物をまとめだした。
「相変わらず、つれないなあ。そこが面白いところだけど。」
ヒナタの行動に杉浦は文句をいいつつも、最終的には追ってこなかった。その行動をヒナタは不審に思ったが、一緒に帰らなくて済んだので、深く考えることはしなかった。
「思い出しただけで腹が立ってきた。あいつが合格していないことを祈りたいが、あいつのことだ。きっと受かっているに違いない。頭がいいと他の奴らが言っていたからな。」
ヒナタは家で、母親と一緒に過ごしながら、受験当日を思い出し、げんなりしていた。
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