24一つの提案

 担任との家庭訪問を何とか避けることができた双子は、頭を悩ませていた。いよいよ、この土日で高校を決めなければ、高校受験の願書を提出することができなくなってしまう。そうなれば、行きたい高校どころか、高校にすら行けなくなってしまう。それだけは避けたいところだった。


 家に帰った双子は、さっそく母親と話し合う決心をした。


「ただいま。母さん、実は、卒業後の進路のことで相談があるんだけど。今、話せるかな。」


 家に帰ってすぐ、母親をリビングで見つけた双子は制服を着替えることもせずに話を始めた。ヒナタが母親に進路についての話を投げかけた。


「どうしたの。ええと、ヒナタかしら。改まって進路のことなんて。いまさら話し合うことかしら。だいぶ前から決まっていることでしょう。」


「いや、それが決まっていないんだよ。だって、僕たち二人が一緒に高校に行くことになっていないから。」


 双子は必死になって、何とかして二人で高校に行けるような道を模索していた。そのためには、やはり母親を説得するしかなかった。


「そう。」


 双子の言葉にしばし考え込む母親。少しは考えを改めるだろうか。数分の沈黙でも、今の双子にとっては苦痛な時間だった。


「やっぱりそれはダメ。」


 母親の結論が出たようだ。どうあっても、双子ともに高校に行かせる気はないようだ。


「だってそうでしょう。本当なら今だって、一人は私のところにいて欲しいのだもの。でも、中学校は義務教育でしょう。だから我慢しているの。高校は自由。だからこそ、一人は私と一緒に居て欲しい。」


「わかった。じゃあ、どこの高校に行くかは僕たちに決めさせてもらえないかな。それくらいの権利はあってもいいでしょう。だって、高校に行くのは僕なんだから。」


 せめて、高校の選択くらいは自分たちでしたいという願いもあっけなく壊れた。それでも、高校を選ぶ自由ぐらいは母親から勝ち取りたかった。ヒナタは説得を続けた。


「もう、わがままなんだから。匠さんは、K学園を卒業したのだから、子供に戻っても同じところでいいでしょう。それに、私との約束を忘れたの。匠さんの高校の制服姿を見せてくれるって話だったでしょう。」


 双子にはそんな約束を母親とした記憶はなかった。いよいよ、母親は双子と会話していないことを言い出した。母親の妄想の中の出来事であり、現実の会話ではなかった。正気を失った母親の話はその後も続いた。必死で説得を試みようと奮闘した双子だったが、最後まで母親に自分たちの意見が通ることはなかった。


 そうは言っても、今日は金曜日で、後二日の猶予がある。双子はいいほうに物事を考えることにして、その日は説得をあきらめた。


「もう、二度と離さない。死ぬまで一緒に居てもらう。匠さん、あなたは私のものなんだから。」


 母親の独り言を双子が聞くことはなかった。






 土日は双子にとって、無駄に終わってしまった。あの手この手で母親を説得しようとしたが、すべて無駄に終わってしまった。土曜日も日曜日も根気強く話し合いを設けようとしたが、母親はもう、この話は終わったとばかりに、相手にしてくれなかったのだ。のらりくらりと話を交わされて、あっという間に日曜日の夜になってしまった。


 日曜日の夜、双子はヒナタの部屋で話し合っていた。結局、母親を説得できなかったのだが、それでは担任が納得しない。何か、適当にごまかさなくてはならない。


「どうしようか。まあ、ヒナタはK学園で決定だけど。俺はどうしようか。俺もK学園でいいかな。」


「それでいいと思うよ。いや、それはダメだ。だって、合格したのにミツキだけがK学園に通わないとなれば、担任が黙っているはずがない。その方法で担任を欺きたかったら、ミツキの分の入学金を支払う必要がある。」


「金、か。でも、入学金ぐらい払えないこともないだろう。だって、俺達にはじいさんの遺産がある。」


「大事に使わないといけない。何か他の方法は………。」


「本当は、俺達って能力は同じだから、あんなくそばばあから差別を受けることはないんだよな。どうしてこうなったんだか。ああ、親父が亡くなったからだった。」


「能力が同じ……。」


 ヒナタはその言葉にひっかりを覚える。何かいいアイデアが思いつきそうだ。


「それがどうした。能力が同じというより、俺たちは双子だから、能力だけでなく、容姿も似ているということなんだろうな。だから間違えられるし、一人が本物で一人が偽物と扱われることになった。理不尽だよな、ただ同じだけで、一人一人違う人間なのに。」


 ミツキが双子のデメリットを言い出した。ぶつぶつと日ごろ他人から受けている行為についての文句を話し出す。


「それだ。」


 ヒナタは思い浮かんだアイデアをミツキに興奮気味に話し出す。


「俺たちは周りから、間違えられることが多い。母親に至ってはもう、どちらがどちらか判断できない。だから、それを逆手にとって、交代で高校に行くことにしよう。」


 ヒナタは自分のアイデアに自画自賛したくなった。ミツキと一緒に高校に行くことはできないが、それでも、二人が高校に行けるチャンスになるのだ。自分たちが似ているということを生かさない理由がない。


「それはまた、他人を欺いているという点で罪悪感があるけどな……。」


 ミツキは難しい顔をして考え込む。罪悪感があるという割に、嬉しそうな顔をしていた。ミツキもきっと自分の考えに賛同してくれるだろうとヒナタは思った。双子だから、考えもわかるというものだ。


「罪悪感といっても、そもそも俺たちは今、不幸のどん底にいる。罪悪感なんか、この先の不幸を乗り越えることに比べたらささいなことだ。よし、俺たちがどこまで似ているのか、試してみることにしようか。」


 双子は、夜通し、この入れ替わりのアイデアについて話し合った。




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