23決断の時
「君たちのおじいさんが亡くなったよ。」
祖父の執事から双子の携帯電話に連絡が入った。
双子の祖父が、双子が執事から電話を受けた数日後に亡くなった。あっけない最期だったらしい。週末には彰人と相談して一緒にお見舞いに行く予定だったのに、それは永遠にかなわぬこととなった。
双子は祖父の急死に戸惑いを隠せなかった。執事の話では、まだ数カ月は持つとのことだった。とはいえ、亡くなってしまったのはどうしようもない。双子は葬式に呼ばれていた。
母親のもとに、祖父が亡くなったとの連絡が入ったようだが、当然、母親は葬式に参加することを拒んだ。
母親が葬式に参加しないのに、息子である双子が参加することはできない。祖父には世話になったが、双子が葬式に参加することはなかった。
祖父の家は不動産を取り扱っている会社を経営していて、遺産が莫大に残っていた。祖父には息子が二人いた。一人は長男の匠で、双子の父親だが、すでに亡くなっている。もう一人は匠の弟で、あまり優秀ではなかったようだ。祖父は自分の後継者として、長男の匠を指名していたのだが、それはかなわなかった。それならばと、弟に後継者を任せるということはしなかったようだ。
祖父は遺産についての遺言を残してはいなかった。病状が急変したため、遺言を残せなかったのか、特に遺言することもなかったのかはわからない。遺産は法定相続分通りに分配された。弟の方も遺産について文句を言うことはなかった。
遺産は、孫にあたる双子にも分配された。分配され、少なくなったとはいえ、かなりの額の遺産が双子のもとにやってきた。しかし、彼らは未成年のため、遺産の管理は母親が行うことになった。
祖父が亡くなったことにより、双子に与えられた選択肢が一つ減ったことになる。双子はいよいよ、母親のいうことに従うしかなくなった。
冬休み直前、いよいよ受験先の高校を決めなければならない時期になっても、双子は高校を決められずにいた。担任たちは心配して、双子の家に家庭訪問をしてもいいかと尋ねた。
「うちの学年で高校が決めていないのは、水藤君の家だけですよ。他の生徒たちは高校を決めて、願書を書きだしています。一度、先生がヒナタ君の家に家庭訪問に行ってもいいですか。」
「大丈夫です。冬休み前には必ず高校を決めますから。先生がわざわざうちに来る必要はありません。先生も忙しいでしょう。僕たちのために時間を割くことはありません。」
ヒナタは担任の言葉に反論した。母親の精神状態を考えても、家庭訪問はしない方がいい。母親の精神状態はいよいよ、双子の手に負えないほどになっていた。昼間はパチンコに行くようになり、生活は荒れていた。掃除や洗濯などの家事も行わなくなった。そのため、双子が家事を順番にこなしている状態だ。
おまけに母親は自分たちを息子と認識していない。そこが一番厄介だった。それが担任にばれたら、何を言われるのかわからない。
家庭訪問をどう断ったらいいだろうか。必死に考えるがいいアイデアは浮かばない。
「今日、家に帰って母親と相談します。そして、月曜日には必ず、高校を決めます。」
「そうですか。でも、そんなことを先週も言っていた気がしますよ。やっぱり……。」
「大丈夫です。ミツキもいますし、今度こそ決めてきます。」
無理やり先生が家に来るのを防いだヒナタだった。
「ミツキ君は、高校をどこに行きたいと思っているのかな。」
ミツキも担任に捕まっていた。ミツキに至っては、ヒナタよりも苦しい状況であった。いまだに母親からは、高校に行く許可を得ていない。いや、話し合ったとしても、おそらくミツキが高校に通える可能性は低い。すでに母親の精神は壊れてしまっていて、双子のことを自分たちの父親だと思いみ、さらには、父親が双子に分裂しているという、わけのわからないことを言う始末だ。
分裂しているのだから、一人が家に一人が高校に通えばいいなどと言い始めるので、もうどうしようもなかった。しかし、それを担任に行っても理解してもらえないことはわかっていた。
「それが、いまだに決められていなくて。どうにかして、母さんとヒナタと相談して決めてきます。月曜日には絶対に高校名を先生に言いますので、それまで待っていてもらえませんか。」
ミツキも必死だった。幸い、ミツキの担任は家庭訪問まではしないようだ。
こうして、双子は土日に母親と話し合わなければならない状況に追い込まれていた。とはいえ、いずれ本気で話し合わなければならないことだったので、その時がきたというだけだった。
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