22双子のためにできること

 双子の家を訪れた際の出来事を思い出していた結城彰人のもとに、一本の電話がかかってきた。着信を見ると、双子からだった。双子から連絡をくれるのは初めてだった。


「もしもし、彰人だけど。」


「彰人さんは、どうしたらいいと思いますか。」


 開口一番に挨拶もなしに聞こえたのは、ヒナタの声だった。よほど切羽詰まっているのだろうか。挨拶もなしに用件のみを話し出すような無礼な子供ではなかったと思っていたが。


「ヒナタか。いったいどうした。お前らしくもない。」


 ヒナタは、基本的に物事を冷静に考え、その考えに基づいて行動している。それが突然電話をかけてきて、用件から話し出す。何かヒナタにとって重大な出来事が起きているのだろう。


「お前らしいって何ですか。」


 ぼそっと聞こえた声を彰人は聞き取ることができなかった。すぐに声の主が変わった。


「もしもし、ミツキですが、祖父の容態が急変しました。」


 その一言で、彰人は双子の今置かれている状況を理解した。双子は混乱しているのだ。祖父の容態の急変によって、いろいろなことが一気に動きだす。自分たちの進路なのに、自由に決めることができないもどかしさや苛立ち。どこかにぶつけないとやっていけないのだろう。


「なるほどな。ヒナタとミツキの今の状況がなんとなくわかった。それで、突然の電話というわけだ。俺を頼ってくれるということか。」


 とりあえず、双子が何を考えているか確認することが必要だ。必要ならば、彰人も何か手伝えることがあるかもしれない。


「ええと……。」


「ゆっくりでいい。焦らず、少しずつ話してくれればいい。混乱しているなら、なおさらだ。大丈夫。俺は二人のことを見捨てたりしない。」


 急に言葉を濁しだしたミツキに、彰人は今度は優しく言葉をかける。双子は他人から一方的に何かを言われることに慣れてしまっている。そのまま言われるだけ言われて、自分たちの意見を聞いてもらえないことが多かったことを知った、彼なりの優しさだった。


「ええと、彰人さんにこんなことを言うのはあれですけど、僕たちは二人で一緒に高校に行きたいだけなんです。僕たちの願いはそれだけ。」


「……。」


 ミツキが彰人に自分たちの願いを話し出す。ただし、その願いはささやかなものだった。 それに対して、彰人はなんて答えたらいいかわからなかった。中学生が兄弟そろって同じ高校に行きたいと言っているだけだ。そしてこの願いは、世間一般の家庭ならば、簡単にかなうものである。




「僕も、君たちのことをあずささんに聞いてみたよ。二人で高校に行けるようにしようと説得を試みたけど、失敗した。でも、一回の説得であきらめてはダメだ。俺もまた家に行ったときに、相談してみ、る……。」


「ごめんなさい。」


「今話したことは忘れてください。それに、祖父の容態が悪くなったことは、彰人さんには関係ないことでしたよね。すいません。こんなことで電話してしまって。」


 電話を切ろうとしていることがわかったので、思わず引き留めてしまった。


「そうだ。一緒にじいさんのお見舞いに行ってやる。俺も、じいさんには話があるから。電話は迷惑じゃない。これからも何かあったら、遠慮なく電話していいぞ。」


 そう、これは自分のためでもあると、彰人は自分に言い聞かせる。もちろん、双子を助けたいとは思うが、双子は自分たちに価値はないと思い込まされている。そこに助けたいといっても、簡単には信じてくれないだろう。だからこそ、自分にも用事があるといったのだ。実際、双子の祖父にはいろいろ、母親の件で話があった。


「……。」


 今度は双子が黙ってしまった。それでも、電話が切られることはなかった。そのことに安心して言葉を続けようとしたら、なぜかお礼を言われてしまった。


「ありがとうございます。もし、本当に祖父のお見舞いに来てくれるのならば、心強いです。」


「あ、ああ。お見舞いになら一緒に行くぞ。だから、今度の家庭教師の日に一緒にお昼でも外で食べよう。その時に日程を話し合ったらいいだろ。」


「ハイ。」


 うれしそうな声に安堵して、彰人は電話を切った。これからが双子にとってさらに厳しい現実が待ち受けることになるだろう。それ思うと自分のことではないのに、気分が下がるが、少しでも双子の負担がなくなるように努力しようと思う彰人だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る