第3話 頑張ったんだよ

《実はねずみに襲われて》


 僕は後ろへと顔を向きます。

 後ろは今、静かです。

 ねずみの気配はありません。

 去っていったのでしょうか。

 しかし、どうして?


《ねずみ?》

《うん。なんかおかしいんだ。近付いてこないと思ったら、急に近付いてきたり。それに噛みつかれたりもしたんです》

《そりゃあ、お前が子猫だからだ》

《子猫だから?》

《あいつらだって弱った子猫だと群れで襲ってくるさ》


 黒猫さんはUターンして歩きます。


《こっちだ》

《はい》


  ◇ ◇ ◇


 排水路の外に出ると空はもう赤く夕空でした。


《グミの木を見つけたんですか?》

《グミの木ではない。でも良いものだ》


 黒猫さんはそこでにやりと笑いました。


 なんでしょうか?


《ついてきな》


  ◇ ◇ ◇


 道中で僕は男の子に捕まったことや女の子に助けられたことを話しました。


《その嬢ちゃんにお礼を言わないとな》

《言いましたよ。猫語ですけど》

《お前、助けられなかったらどうなってたと思う?》


 考えるのですが答えが降ってきません。


《分かりません》

《その男の子は日本語ではない知らない言葉を使ってたんだろ》

《はい》

《なら食われてたな》

《人間が!?》

《人間にだって猫を食うやつもいるさ》

《本当に!?》

《本当さ。犬を食うやつもいるんだ》


 驚きです。人間はおいしいものしか食べない種族だと聞いていたから。


《実はお前に教えた狩り場近くにも猫を食うやつらがいて、今までにもたくさんの猫が食われてるのさ》

《ええ! そんな危険な所を教えたんですか?》

《すまんな。ここ最近は狙ってこないから安心してたんだがな》


  ◇ ◇ ◇


《ほら、これだ》


 向かった先は草むらでした。

 そこには死んだねずみがいました。首に噛み傷があり、それが致命傷だと分かります。


《ねずみ!》

《これを持っていきな》

《いいの!?》

《気にするな。危険な目にあわせた償いだ》

《本当にいいの?》

《さっさと行って母ちゃんに食わせてやんな》

《ありがとう》


  ◇ ◇ ◇


《お母さん! 見て! ねずみだよ》


 お母さんは寝ています。


《ねえ、今日色々あったんだ!》


《カラスに襲われたり、人間に捕まったり、ねずみに襲われたり》


《お母さん? 寝ているの?》


《起きてよ。お母さん》


《あれ? お母さん、冷たいね》


《僕も今日は疲れたから寝よっかな》


《お母さん、冷たいね》


《僕が暖めてあげる》


 僕はお母さんに寄り添います。


《ねえ? 暖かい?》

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子猫物語 赤城ハル @akagi-haru

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