ガタンゴトンと、ブヒる姫
新幹線の中で、俺たちの班はババ抜きをしていた。
クラス委員が一抜けして、加納さんが次にあがる。残るは、俺と進藤の一騎打ちだ。
音更さんは、参加していない。ボーッとした様子で、ずっと窓の向こうに意識を向けている。
トランプなんて上の空で、俺は妹に言われたことを思い出す。
◇ * ◇ * ◇ * ◇
「お兄はさあ、ちょーっと焦った方がいいかもね」
「どういう意味だよ」
言っている意味が、わからない。
「ああいうタイプはね、目の前に夢や目標があると一直線だから。あのままだと、お兄は夢に沙和さんを取られちゃうよ?」
「だから違うんだ。俺と音更さんは、そういうんじゃないって」
「お兄は、そう思ってるかも知れないけれどさ……」
「なんだよ?」
首をかしげる俺を見て、妹はなぜかため息を漏らす。
「……なんでもないっ」
「おい待てって。なんなんだよいったい?」
「知らないっ」
俺が聞き返すと、妹はツンとして話から逃げてしまった。
◇ * ◇ * ◇ * ◇
妹に言われた言葉が、手札のジョーカーのようにいつまでも残っている。
「おい、どうした棗?」
「具合でも悪いのか?」
進藤とクラス代表が、俺の顔を窺う。
「いや、別に」
カードを取ったが、結局俺がドベだった。罰ゲームは、パーサーが来たらみんなのお菓子代を払うこと。
「安いのにしろよ?」
「わかってる。何がいい?」
進藤が聞くと、加納さんが手をあげる。
「あたしミカン」
「ボクは抹茶アイスを」
そこそこのミカンと、めっちゃ高いアイスを頼みやがった。
「オレは、コーラとポテチ。たこ焼き味をください」
ご当地ポテチだけにしとけやなんでコーラまで頼むんだよ?
「音更さんは?」
窓の向こうに視線を向けたまま、音更さんは首を振る。
「沙和も、やらない?」
「私はいいや」
加納さんが気を利かせて、音更さんをトランプに誘う。
が、音更さんの反応はつれない。
「酔った?」
「ありがと、平気」
笑顔を見せつつも、音更さんはずっと窓の向こうを見ている。いや、新幹線のリズミカルな音に耳を澄ませていると言った方が正しいか。
彼女は彼女なりに、楽しんでいるみたいだが……。
「最近ね、沙和の様子が変なの。ねえ棗くん、何か知らない?」
「知らないよ。なんで俺に聞くの?」
進藤からポテチをくすねて、俺は加納さんに言い返す。
「お前ちょっとオレのポテチ」
「俺が金を払ったから、いいんだよ」
パリッと音を鳴らす。音更さんのすぐ近くで。
だが、今日の音更さんは反応しなかった。
「ね、変でしょ?」
たしかに、いつもの音更さんの調子ではない。
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