ブヒる姫のハートを射止めろ!

 自由時間、俺は進藤と二人きりになった。


 クラス代表が気を利かせて、音更さんたちを見てもらっている。別行動という体で、俺たちは話し合うことに。


「お前、このままでいいのか?」


 進藤が、俺に詰め寄った。


「何がだよ?」

「とぼけんなよ。お前が音更さんをどう思っているかくらい、オレにだってわかるさ」


やはり、親友はごまかせない。


「余計なお世話なのは、わかってる。だけどお前は、このまま告白しないつもりなのか? お前が引き留めないと、あの子は別世界の住人になっちまうぜ」

「俺だって、音更さんに自分の気持ちを伝えたい」


 ASMR研の話があった頃から、オレは音更さんを意識していた。


「だったら」

「だけど、音更さんの目指している道を邪魔したくないんだ」


 なにより、音更さんの気持ちを知るのが怖い。もしかして、咀嚼音だけが好きなのかも。そう考えた時間は、長かった。


「それがお前なりの、気持ちなのか? 本気で言ってるんだな?」


 うなずいてみたが、まだ決心は付かない。

 身を引くべきだとは、理解しているつもりなのに。


「オレには、お前が単に無理をしている風にしか見えないぜ」


 いいか、と進藤は前置きする。


「音更さんは、音が大好きだ。でもさ、あの子が本当に聞きたいのは、お前の本心なんじゃねえのか?」


 進藤は去り際に、俺の肩を叩く。

 


◇ * ◇ * ◇ * ◇



 自由時間も終わり、宿に戻った。


「夕飯が終わったら、ホテルの中庭まで来て欲しい」


 俺は、音更さんに伝える。


 クラスのみんなは、お土産を買うためホテル内の店を回っている。


 そのスキに、オレは音更さんと二人きりになった。


 ここなら木々に覆われて、人目も気にならない。


「棗くん、話ってなに?」


 寝間着姿の音更さんは、少々怯えているようだった。



「音更さん、好きだ」



 口を押さえながら、音更さんは頬を染める。


「音更さんに部活へ誘われたとき、信頼されていると思ってうれしかった。気がついたら、好きになっていた」


 嘘偽りなく、正直な気持ちを伝えた。


「だけど、俺は音更さんに成功して欲しい。俺なんかに告白されても、迷惑なのかなって……」


 これが、俺の出した結論である。


「俺の咀嚼音だろうと心音だろうと、いくらでも使ってくれて構わない! 音更さんのためになるなら」


 音更さんが、俺の手を持つ。何を思ってか、自分の胸元に俺の手を添えた。


「え、音更さん?」

「手で聞いて。感じ取って。ずっと心臓が、ドキドキしているのを」


 俺の手を伝って、音更さんの心音が聞こえてくる。鼓動が早い。でも、怖がっている様子はなかった。 


「私が、棗くんの咀嚼音だけが好きだと思った?」


「え、じゃあ」



「ありがとう。これからもカノジョとして、よろしくお願いします!」

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