ブヒる姫に、アドバイス

 なにも音更さんは、成績が悪いわけじゃない。期末の答案が返ってきたが、成績は上位だった。単に、個性を尊重しない学校のあり方を疑問視しているだけ。


 なんとか、いい結論を出せないかと、俺も考え込む。だが、成績が平均並の凡人に出せるなイデアなんて、たかが知れている。


 誰か、頭のいい人物に相談できれば……いた。俺の知っている中でも、かなりの秀才が。

 

「妹に会ってみないか」と、俺は音更さんを自宅へ招く。


 リビングにて、妹はせんべいをバリボリかじっていた。


「おい、友だちが来てるんだ。みっともないぞ」


 俺が声をかけると、妹は背筋を伸ばして正座する。ソファの上で。


「はじめまして。朗の妹で謡子ようこといいます」


 人が変わったかのように、妹はあいさつをした。


音更おとふけ 沙和さわです」

「まあ、座ってよ」


 お茶を出しつつ、俺は音更さんをソファに座らせる。 


「……と、いうわけなんだよ」


 リビングにて、俺は妹の謡子に事情を話した。


「妹さんに話して、なにかわかるの?」

「メンタリズムに関する話題に、興味を持ってるんだ」


 なにか、ヒントになる回答が得られるのではないかと期待した。


 ソファで向かい合い、妹は音更さんの抱えている悩みを反芻している。


「そっか。将来を決めるのはまだ早すぎる、ねえ」


 真剣な顔をして、謡子は腕を組む。


「まあ、お兄らしいっていえば、らしいかな。問題を先送りにしているから、ブーメランにしかなっていないところも」

「余計なお世話だ」

「でもね、それは正しい先送りかも」


 謡子なりに、答えは出たらしい。


「いじめられているんなら、辞めた方がいいと思いますけど」


 音更さんは、首を振った。


「だったら私も、学校に入っておいた方がいいかな、って思いますねぇ」

「そうなの?」

「はい。選択肢の幅が広がります」


 妹が言うには、海外の大学で六三万人を調査した結果、「学校に行っている人の方が、七〇代でもIQが高く裕福になる」とのこと。長い目で見ると、進学自体はメリットがあるらしい。


「周囲に理解されないまま、やりたいことをやるってカッコいいんですけれど、一〇代って今しかないので」

「わかる。棗くんとの時間も大事なの」

「だとしたら、話は早いです。結論を急ぐ必要はないかと。私も、お兄と同意見です」

「そっかぁ。理想ばかり追い求めても、ダメってワケだね。ありがとう!」


 音更さんが、謡子を抱きしめた。


「あ、あの、お兄が見てるんで」


 横目で、音更さんが俺を見る。


「なに、棗くん、うらやましいの?」

「いやいや、すぐ打ち解けたなーって」

「だって、家だと未だに末っ子なんだもん。お姉ちゃんらしいコトしたいー」

「ミミちゃんがいるじゃん」

「進藤くんベッタリなんだもーん」


 音更さんは「でもさ」と続けた。


「ありがと。心配してくれて。うれしい」

「いや、俺は力になれなくて」

「ううん。すごく視野が広がった。棗くんがいなかったら、空しい時間の中で一人、悩みを抱え込んでた」




 俺は音更さんを送った後、リビングでぐったり倒れ込む。


「ねえお兄、カノジョさんかわいかったね」

「違うっての!」

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